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蒼竜世界の勇者 -鍛冶屋が勇者になる物語-  作者: mao
第六章~出逢いと別れ編~
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第六十話・古びた書物


 アンヘルの襲撃があった日から三日。

 ウィルとイスラを除く面々はすっかり元気になり、日常生活を滞りなく送れるようになっていた。ウィルやイスラも意識は戻ったものの、この二人は出血量が非常に多かったため今もまだ寝台で横になっている状態だ。

 ジュードはそんな二人が眠る寝台の傍らで一冊の本を開き、紙面に目を向けていた。彼の近くの床やテーブルには幾つもの本が山のように積まれている。


「……う~ん……」


 その頭の上にはノーム、肩にはいつものようにライオットが乗っている。ジュード同様に本に視線を落としながら困り顔で小さく溜息を洩らした。


「マスターさん、どうナマァ?」

「駄目だ、これで里にある文献は全部の筈だけど掠りもしないや。まいったな……」

「昨日も聖石を調べてみたけど特に反応もなかったにー……」


 頭から掛かるノームの問いにジュードは力なく肩を落とすと、手にしていた書物を閉じて近くの簡素なテーブルへと放る。元々本を読んで情報を得るのはウィルが担当していたもの、ジュードにとっては非常に酷な作業であった。しかし、彼が本調子でない以上は自分が何とかしなくては、と。そう思った結果、こうして苦手な作業もこなしているのだ。収穫はゼロとしか言えないのだが。

 肉体を変えられた者を元に戻す方法など――それらの情報は書物からは一切得られない。ライオットの言葉通り昨日も夜遅くまで聖石を調べはしたが、あれ以来特に光を放つこともなかった。

 雲を掴むような話ではあったものの、こうまで何も手掛かりが見つからないと流石にジュードの心も折れてくる。


「勇者様でもどうにも出来なかったことだもんなぁ……」


 嘗て世界を救った伝説の勇者でさえどうにも出来なかったことだ、それを自分が何とかしようなどと無謀も良いところ。何とかしたいと言う気持ちだけで来てしまった訳だが、このままではただ里に悪鬼を招き入れてしまっただけになる。

 アンヘルの目的が何であったのかは定かではないが、ジュードを狙ってやってきた可能性は決して否定出来ないのだから。


「ジュード君、どうだったかな?」


 そこへ、ふと声が掛かった。

 振り返って見てみれば、部屋の出入り口からラギオが顔を覗かせている。近くのテーブルや床などに山になった幾つもの文献は、全てラギオが見せてくれたものだ。

 だが、ラギオは振り返ったジュードの顔を見ると薄く苦笑いを滲ませる。


「……その顔だと、情報は得られなかったようだね」

「は、はい、すみません……マナたちは?」

「マナ君たちは聖石の間を見てくると言っていたよ、昨日まで寝台の上だったから元気が有り余っとるようだったが」

「はは……」


 ラギオの言葉にジュードは眉尻を下げると納得したように何度か小さく頷いた。

 マナたちとて王都の人たちを助けたいのだ、気合はジュード同様に入っていることだろう。ましてや、ラギオの言うように昨日までは大事を取って寝台の上だった、遅れた分を取り戻そうとしているものと思われる。


「ラギオさん、聖石はもうずっと光ったりはしてなかったんですか?」

「うむ……そうだね。ワシも聖石が光を放ったのはあの日、久方振りに見たよ。尤もあの魔族が撤退してからはまた沈黙してしまったようだが……」

「じゃあ、やっぱり魔族を追い払うために光ったのかな……」


 それまで永きに渡り沈黙していた聖石があの時だけは光を取り戻した――と言うことならば、やはり考えられるのはそれしかない。

 そして、聖石が光を放ったと言うことは竜の神は何処かで生きているのだ。


「そうだ、ジュード君。古いものでよければ他にも本はあるのだが、それも見てみるかね? ただあまりにも古くて誰も読めないんだが……」

「え、本当ですか? 読めなくてもいいです、お願いします」


 そこで、ラギオは思い出したように軽く両手を叩き合わせる。続く言葉にジュードは双眸を丸くさせると、座していた椅子から立ち上がった。

 最初は読めなくとも、ウィルならば解読してくれるかもしれない――そう考えてのことだ。可能性は限りなく低いのだが。


 * * *


 ラギオに連れられて古い書庫に足を踏み入れた先、「これだよ」と渡された書物は予想していたものよりも遥かに古びており、埃だらけだった。パラパラと捲ってみると中は茶色く変色し、所々破れてしまっていて読めない箇所も多い。捲るだけで千切れてしまう部分もあった。文字列も――まるでミミズが走ったかのようなものばかり、確かに読めない。


「ど、どこの言葉なんだろう……ライオット、読めるか?」

「うにー……? よく分からないに、これいつ書かれたものに?」

「詳しいことは分からんが、今から三千年以上は前に書かれたものではないかと言われているな」

「さ、三千年……」


 ラギオの言葉にジュードは思わず開いた書物を一旦閉じる。それほど昔に書かれたものであれば、ページを捲るだけで破れるのも頷けた。大切に扱わなければ、と思ってのことだ。

 ラギオに案内された書庫には、他に五冊ほど同様の時代に書かれた書物がある。この五冊の中に何か糸口でも見つけられたら――ジュードは一縷の望みを託しながら、慎重にそれらを手に取り積んでいく。


「(小さいものでもいい、何でもいいから見つけないと……犠牲になった人たちや、オレを信じて行ったカミラさんに顔向け出来ないや)」


 書物に書かれている文字は一つたりとも読めないものばかり。ジュードにこれらを解読する力はない。

 ウィルが調子を取り戻すまで待つしかないかと、歯痒さを感じながらジュードは力なく頭を振った。



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