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蒼竜世界の勇者 -鍛冶屋が勇者になる物語-  作者: mao
第六章~出逢いと別れ編~
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第五十五話・癒えぬ傷


「つ、着いたけど……ジュードとウィルは? いる?」

「……! あそこです、ウィル様っ!!」


 ちびに遅れること数分、聖殿に辿り着いたカミラたちはラギオの案内でようやく最深部手前にある大広間に辿り着いた。途中でほぼ止まることもなく駆けてきた彼女たちは息も絶え絶えになりながら、探していた姿を求めて顔を上げる。

 するとリンファが逸早く倒れているウィルの姿を確認し、駆け寄った。


「ウィル様、ウィル様ッ! 酷いお怪我を……カミラ様!」

「は、はひっ!」


 固い地面に倒れ伏せるウィルの左腕からは真っ赤な鮮血が溢れ出していた。リンファは彼の容態を窺いながら傷口に片手を翳し気功術を施し始め、次いで自分よりも優れた治癒能力を持つカミラに協力を求めて声を上げた。

 カミラは慌ててそちらに駆け出すと、広間の――更に奥に通じる大扉の近くで敵と斬り結ぶジュードに目線を合わせる。彼の安否をようやく確認出来たことにようやく彼女の表情に安堵が滲むが、駆け寄った先のウィルの傷の深さを見ればそんな様子も即座に鳴りを潜めた。


「……っ、リンファ……カミラ、みんな……来た、のか……」

「ウィル、一体何があったの? しっかりしてよ……!」

「う、うにッ、これは――!」


 マナやルルーナたちも一足遅れてそちらに駆け寄ると、マナはウィルの傍らに座り込んでその具合を確認する。だが、彼の腕に刻まれた傷と流れ出る出血量に彼女の朱色の双眸には見る見る内に涙が溜まり始めた。

 ライオットは地面に飛び降りると、その傷を確認してジュードの方に目を向ける。


「ま、間違いないに、ダーインスレイヴの傷だに!」

「ダー、イン……なんですって?」

「血の魔剣ダーインスレイヴ……アルシエルが持つ恐ろしい剣だに、あの魔剣に斬られた傷には普通の治癒魔法は効かないんだに!」


 ライオットの言葉にマナはもちろんのこと、その場に居合わせた全員が凍り付いたように固まった。リンファとカミラは先程から気功術と治癒魔法を施しているが、ライオットの言葉を肯定するかの如く傷は一向に塞がらない。流れる血も止まることを知らなかった。

 それどころか、傷はまるで意思を持っているかのように自ずと広がっていく有り様。マナは顔面から血の気が引いていくのを感じ、カミラは大慌てで己の衣服の裾を破った。

 傷が塞がらないのならば、多少でも出血を押さえなければ――そう思ってのことだ。破った衣服を腕の傷に押し付けると、真っ白なそれは即座に生温かい血が染み込み紅に染まっていく。


「(どうしよう、どうしよう……! このままじゃウィルが……!)」


 カミラの頭は混乱した。

 マナは堪え切れずに涙を溢れさせて嗚咽を洩らすまいと両手で口元を押さえ、リンファは普段とは異なり明らかに焦りを滲ませながら必死に気功術を施している。ルルーナは固く拳を握り締め、口唇を噛み締めていた。

 何とかしないと――そう思えば思うだけ、カミラの中にも焦りばかりが生じていく。

 そしてそんな状況に追い打ちを掛けるかの如く、ジュードが声を上げた。


「――ちび!!」


 カミラたちはその声に反射的に顔を上げてそちらに視線を投じる。

 すると、彼女たちの視界には脇腹から血を噴出させるちびの姿が映り込んだ。ちびは悲鳴のような鳴き声を上げると、力なくその場に伏せる。

 ジュードはちびを斬り付けたアンヘルの真横から襲い掛かり、渾身の力を込めて彼の身を利き足で蹴り飛ばした。最深部に続く大扉に背中から叩き付けられたアンヘルは腹部を押さえて咳き込み、獰猛な野獣のような双眸を以てジュードを睨み据える。

 だが当のジュード本人は、今はそんな彼に構ってなどいられなかった。一目見ただけで分かる、ちびの傷はかなり深いものだ。ジュードは血相を変えて伏せる相棒の元へと駆け寄った。


「ちび、ちびッ!」


 ちびに傷を負わせたのもまた、血の魔剣ダーインスレイヴだ。その傷口は時間の経過と共に自ら広がっていく。ジュードは少しでも出血を止めようと必死にその傷口に手を添えるが、それで止まってくれる筈もない。

 咳き込んでいたアンヘルは口の端から垂れる己の血を片手で拭いながら立ち上がり、そこでようやく後方に姿を見せた彼の仲間の存在に気付く。そして静かに口角を引き上げた。


「……へえぇ、ゾロゾロとやってきたモンだ。面白い――!」

「……!? みんな、下がれッ! 早く!!」


 ジュードはちびの身を両手で抱きながら、魔剣を掲げるアンヘルを怪訝そうに見遣る。だが、その視線が己ではなく仲間たちの方に向けられていることに気付くと、薄く笑う表情も相俟って咄嗟に後方に声を掛けた。まるで叫ぶような、そんな声で。

 ラギオは突然の事態に困惑し、同行した里の若い者たちはカミラたちをこの広間から出そうと慌てて駆け寄る。若い者の手があればウィルを運び出すことも可能だろう。

 だが、それは間に合わなかった。


「ははッ、群れろ群れろ! その方が綺麗な血の華が咲くぜぇ! 喰らええぇ!!」


 アンヘルは魔剣を高く掲げ、柄を握る利き手の首に逆手を添えて支える。

 すると次の瞬間――魔剣からは幾つもの黒い蔦のようなものが勢い良く飛び出し――カミラたちの元へと飛翔した。


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