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蒼竜世界の勇者 -鍛冶屋が勇者になる物語-  作者: mao
第六章~出逢いと別れ編~
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第四十五話・精霊の森へ


「そうか、精霊の森にな……」

「はい、寄り道にはなりますがカミラが言うことも尤もです。水の国と同盟は結べましたが、このままだと……」

「うむ、それにリーブル様は我々を快く迎え入れて下さった寛大なお方だ、出来ることがあるのなら喜んで協力したいと私も思うよ」


 ジュードとウィルは客間で休むシルヴァの元へ報告に訪れていた。

 彼女の怪我は昨晩の内にカミラの治癒魔法により治療されたが、念のため大事を取って未だ寝台の中に押し込まれている。最初こそ彼女も共に行く予定ではあったものの、ウィルやマナにしつこく説得された結果——現在に至る。

 シルヴァの返答にジュードもウィルも表情を安堵に和らげた。

 国王リーブルはいつもそうだ、ジュードたちが鉱石を求めて訪れた際も今回も、いつも彼はジュードたちを快く迎え入れてくれた。彼女の言うように出来ることがあるなら幾らでも協力したい、ジュードとウィルもその気持ちは全く同じである。

 シルヴァは枕元を漁ると、一冊のノートを取り出してそれをウィルに差し出した。


「君は勉強熱心だからな、道中これを覚えておきなさい」

「これは?」

「君に教え込みたいことを纏めてある。グルゼフを出てから満足に稽古を付けてやれていないからな、これを読んで必要なことを予め頭に叩き込んでおきなさい、戻ってきたらビシバシ扱いてやろう」

「う……わ、分かりました」


 差し出されたノートを受け取ると、ウィルは試しに数ページほどパラパラと捲ってみた。すると、中には一ページごとにビッシリと文字や簡素な絵が記載されている。学ぶものは多く、また読み応えもありそうだ。——横からうっかり覗き込んだジュードなど目を回している。

 シルヴァはそんな二人の様子を見守った末に改めて口を開いた。


「ジュード君」

「は、はい」

「昨日はありがとう、君のお陰で助かった。……私は少々君を誤解していたようだな、グルゼフに着いた頃は君は頼りないと思っていたのだが」

「い、いや、事実ですよ。昨日だってオレ一人の力じゃないし、寧ろオレはもう何が何だか……」


 シルヴァからの言葉にジュードは双眸を丸くさせる。

 昨日のあの現象は未だに分からないことが多い。あの力は本当に水の神柱(しんちゅう)オンディーヌのものなのか、だとすればその出所はどこなのか、なぜ呪いで封じられている筈の交信(アクセス)能力が使たのか――挙げればキリがない。

 だが彼のその言葉にシルヴァは穏やかに笑んだまま小さく頭を横に振った。


「分からなくとも君の力があってこそ、だよ。神柱の力を使える君がいたからこそ、どうにかなったんだ」

「まあ、俺たちじゃ間違っても使いこなせないだろうしな」


 シルヴァと彼女に便乗するウィルの言葉にジュードは視線を下げると、片手の人差し指で軽く己の頬を掻く。彼はあまり褒められるということが得意ではないのだ。それが分かっているからこそ、ウィルは揶揄するように片肘でジュードの脇腹を小突く。少しでも気を紛らわしてやろうと言うのだ。

 シルヴァは暫し彼らの様子を見守ってはいたが、軈て穏やかな口調のまま言葉を続けた。——彼女自身にも何かしら焦りや逸る気持ちがあったのだろう、状況は決して楽観出来るものではないが、地の王都に着いた頃に比べれば現在の心情は非常に穏やかだ。


「ジュード君、皆は君のことが本当に好きだし信頼している。それは分かるね?」

「はい」

「では、信頼を寄せてくれる仲間に返せる一番大切なものは分かるかな?」

「一番、大切なもの……」


 続いて向けられた言葉にジュードは彼女の言葉を復唱すると、考え込むようにその視線を再度下げる。彼のその様子を見守りながら、シルヴァは数拍の空白の後に静かに口を開いた。


「——信頼だよ、仲間から向けられる信頼には同様のものを返してあげなさい。君は一人で色々なものを背負い込みすぎる。君はそれで良いかもしれないが、周りはそうではないのだ。……もっと皆を信頼し、頼りなさい、いいね?」

「……」


 彼女のその言葉にジュードが思い返すのは、火の国でのことだ。カミラがローザのことで悩んでいた頃のこと。

 あの時、カミラが自分を頼ってくれないからとジュードは彼女に冷たい一言をぶつけて突き放してしまった。その時の、彼女に頼られない悔しさともどかしさを思い返したのだ。


「……メンフィスさんにも似たようなことを言われました」

「ふふ、それなら心配は要らんか。あの方の教え、一つたりとも無駄にすることは許さんぞ」

「——はい」


 シルヴァの言葉に一度ジュードは双眸を伏せると、しっかりと頷いた。

 頭では理解しているつもりでも、それが出来ていなかったのではないか――そう思ったのだ。改めて自分自身に言い聞かせるように頭の中で反芻した。

 彼のその様子を確認したシルヴァは何処となく満足したような面持ちでそっと小さく吐息を洩らし、ベッドヘッドに背中を預ける。肩の力を抜き、二人を見送るべくジュードとウィルを交互に見遣った。


「……精霊の森まではそれなりの距離があるんだったな、気を付けて行くんだぞ」

「はい、何か見つかれば良いんだけど……」

「ふふ、必ず方法を見つけて来い。見つかるかもしれない、ではなく……この国の民を助けるための(すべ)を必ず見つけろ、……そう言った方が君たちの尻を叩けるだろう?」

「……ウィル、シルヴァさんって……結構スパルタなんだな」

「だろ? 綺麗な顔して怖いんだぜ」


 確かに命令のような言葉を向けられれば必ず見つけなければと言う気になる。しかし、現実には雲を掴むと言っても過言ではないほどの可能性なのだ、必ずと約束は出来ない。何せ伝説の勇者でもその方法を見つけられなかったくらいなのだから。

 それなのに自分たちが方法を見つけられるのか、考えれば考えるほど希望が遠退いていくような気さえする。

 ジュードの呟きにウィルは小さく笑うと、双肩を疎めて軽口を返答として返した。


「よし、じゃあ早速行こう。ええと……ほら、急がば回れ?」

「おバカ、それを言うなら善は急げだ。回り道してどうするんだよ」

「(知能は酷いな……)」


 口には出さずともシルヴァは内心でそっとジュードの頭の出来を嘆くが、それでもまるで実の兄弟のようなやり取りを交わす二人の姿は微笑ましい。

 ウィルはジュードの腕を引いて退室を促し、ジュードはその力に抗うこともなく彼の後に続いた。ジュードの頭が残念な出来であることは、ウィルはとうに理解している。扱いなど手慣れたものだ。

 客間を後にするとウィルはそこで彼の腕を解放するが、ふと——ほんの一瞬のみ何かしら胸がざわめくような錯覚を覚えて思わず後方を振り返った。そこには、当然ながら客間に通じる扉があるだけだ。

 今の感覚は一体何だったのか、ウィルは怪訝そうな面持ちで軽く眉を寄せる。そんな彼の様子にジュードは緩く首を捻ると幾分心配そうな様子で口を開いた。


「……ウィル、難しい顔してるけど頭でも痛いのか?」

「…………そうだな、お前の頭の出来を考えると頭痛がするよ」

「む……」


 見るからに心配そうな表情を浮かべるジュードを軽くあしらいながら、ウィルは今一度先の感覚を思い返した。だが、既にその感覚は彼の胸からは去ってしまっている。

 なんだろう——言葉にし難い胸騒ぎを抱きながら、ウィルはジュードと共に仲間の元へ向かった。



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