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蒼竜世界の勇者 -鍛冶屋が勇者になる物語-  作者: mao
第六章~出逢いと別れ編~
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第三十一話・異常気象の原因


 翌日、ウィルたちから報告を受けた国王リーブルは蒼褪めながら玉座を立つ。

 昨夜、リンファとエイルに叩き起こされて事の次第を知ったウィルたちは各々愕然とした。

 ジュードがオリヴィアに襲われ麻痺の毒を受けたこと、カミラがフォルネウスにさらわれたこと、オリヴィアが彼に付いていったこと。一晩の内で多くのことが起こり過ぎていた。

 だが、流石に深夜に国王の元を訪ねる訳にもいかない。それ故に朝早く、こうして謁見の間を訪れたのだ。


「そ、それで、ジュード君は大丈夫かね?」

「はい、麻痺を抜く薬を飲ませましたからジュードは大丈夫だと思いますが……」


 オリヴィアが用いた毒は随分と強いものだったようだが、幸いにもジュードの方はウィルの言葉通り問題はない。昨晩の内に薬を飲ませたため、昼前後には目を覚ますだろう。

 問題はそれではない、オリヴィアのことだ。

 一国の姫君が世界の脅威となる魔族と通じていた――この事実である。

 このようなことが方々に知られれば、水の国は様々な罵りを受けるだろう。国王も魔族と繋がっているのではないかと、在らぬ疑いを掛けられる可能性もある。

 しかし、リーブルにとって重要なのは信用の問題ではなく愛娘のことだ。


「あの子が、魔族と繋がり……ジュード君を引き渡そうとしたなど……申し訳ないことをした」

「陛下の責任ではありません、これはオリヴィア王女が独断で行ったことです!」


 リーブルは力なく玉座に座り直すと深く項垂れ、片手で己の目元を覆った。その姿は見るからに消沈している。

 そんな姿を見て、珍しく考えるような間も置かずにルルーナが声を上げた。彼女にしてみれば、リーブルのような立派な父親を悲しませるオリヴィアがどうしても許せないのだ。

 国王リーブルという男は、国の違いなど気にせずに受け入れようとする何処までも寛大な王だ。娘のことが心配だろうに、真っ先にジュードの安否を窺ってきたところにも彼の人の善さが窺える。そんな彼を慕う者は非常に多い。父の温もりなどとうに忘れてしまったルルーナは、オリヴィアに羨望を抱いたことさえあった。父の愛に包まれる彼女が純粋に羨ましかったのである。

 だからこそ、ルルーナはオリヴィアを許せない――そう思った。


「……いや、子供の責任は親にあるものだよ。……それで、君たちはこれからどうするのだ?」

「本来ならば今日の明朝にでも発つ予定だったのですが、ジュード君があの状態では……」


 見るからに顔色の悪い国王をシルヴァは痛ましそうに見つめていたが、彼からの問いに静かに口を開く。

 麻痺の毒を抜く薬を飲ませたとは言え、ジュードの状態も決して良いとは言えない。馬車に乗せての移動は可能だろうが、外の寒さはかなりのものだ。眠り続けていては、下手をすると低体温症を引き起こしかねない。

 それに、何より気懸かりなのはカミラのことだ。彼女はフォルネウスに――魔族に連れて行かれたのだから。

 恐らくリーブルはそのことについても責任を感じているだろう。オリヴィアの所為で大切な仲間が誘拐された、そう言っても過言ではない。尤も、国王を責める気など誰も持ってはいないが。

 魔族がカミラと引き換えにジュードの身柄を要求してくる可能性もある、そうなった場合――ジュードは断らないだろう。

 ウィルたちが考えなければならないことは山のようにある。


「ね、ねえ、今すぐに発てないならエイルが言ってたことを考えてみない?」

「……僕が、言ってたこと?」


 そんな重苦しい空気の中、口を開いたのはマナだ。恐る恐ると言った様子で小さく片手を挙げ、仲間たちに視線を巡らせている。

 その言葉に疑問を口にしたのは王の傍らで佇むエイルだった。ウィルたちの視線は一斉にマナの方を向き、彼女はぎこちなく何度か頷くと軽く眉尻を下げる。


「う、うん、カミラがどうなるのか、ジュードが大丈夫か色々心配ではあるんだけどさ……ほら、王様があたしたちに会いたがってるって言ってたじゃない。この異常気象の原因を突き止めてほしいって」

「……そうだったな、このまま発ったら水の国が雪に埋まっちまう」

「し、しかし、君たちにそこまでしてもらっては……」


 マナのその言葉に頷いたのはウィルだ。こちらの用は昨日の内に済ませたが、国王の方の用はまだその仔細さえ聞けていないのが現状である。

 国を埋め尽くしてしまいかねない大雪がいつからのものなのか、何か思い当たるようなことはないか――何も分かっていないのだ。

 リーブルは暫し申し訳なさそうにしていたが、エイルに促されて静かに口を開いた。


「……詳しいことは私にも分からないのだ、君たちが初めて訪れた際にも季節外れの雪が降ってはいたが……雪はあれ以来、ほとんど止むことなく降り続けている」

「ほとんど止んでないんですか?」

「ああ、あの頃は一日二日晴れることもあったが、いつしか今のようにずっと降り続けるようになってしまって……分厚い雪雲が常に空を覆い尽している所為で陽の光が射さず、雪が溶けることもなくなった」


 国王の言葉にマナとルルーナは口唇を噛み締め、ウィルとシルヴァは表情を曇らせる。リンファは沈痛な面持ちで王を眺めたまま、掛ける言葉を見つけられずに視線を下げた。

 話を聞いても、原因など思い当たる筈がない。分かるのは、現状がただ深刻であると言うだけだ。

 しかし、それまで静観していたライオットはリンファの肩の上でそっと口を開いた。


「……この異常気象の原因なら、ライオットとノームが分かるによ」


 その言葉に、今度はその場に居合わせた全員がライオットを見つめた。それはもう穴が空くほどに。

 ノームはマナの頭の上で腹這いになっていた身を起こすと、彼女の横髪を伝って肩に移動し座り直した。


「ほ、本当!? あんたたち、原因が分かるの!?」

「簡単なことだに、これは氷の大精霊であるシヴァの力が弱まってる証拠だによ」

「シヴァさんの力が弱まってる……?」


 ウィルはライオットに向き直ると、その言葉の一つ一つを聞き逃さぬように真剣な表情で先を待つ。

 シヴァの力が弱まっている、それがこの異常気象にどう繋がっているのか。そして、何故シヴァの力が弱まっているのか――それが気になったのだ。


「この北の地方はシヴァさんとフォルネウスさんの二人でずっと守ってきたナマァ、だけどフォルネウスさんがいなくなったからシヴァさんに掛かる負担がとても大きいんだナマァ。今はシヴァさんが自分の身を削ってなんとか頑張ってるけど……もう限界まで来てるナマァ」

「そうだに、フォルネウスが戻ればこの異常気象も落ち着く筈だに」

「……つまり、フォルネウスがいなくなったから力の均衡が崩れて、シヴァさん一人の力じゃ支えきれなくなってきてる……ってことか?」


 ライオットとノームの話を纏めると、この水の国アクアリーは氷の大精霊シヴァと水の大精霊フォルネウスの力で支えられていたのだろう。

 だが、フォルネウスが人間に絶望し、魔族に寝返ってしまったためにシヴァ一人の力では支えられなくなったのだ。一気に崩壊とならないだけでも幸いだが、遅かれ早かれ今のままではこの国は雪に埋もれてしまう。


「でも、フォルネウスが戻ればって……それが一番難しいじゃない」

「そ、そうなの? フォルネウスって昨日の男だよね、あいつ魔族なんじゃないの?」


 エイルは既に混乱している。無理もない、彼はジュードたちの事情をほとんど何も知らないようなものなのだから。

 ルルーナの言うように、フォルネウスが水の国に戻ること――恐らくそれは何よりも難しい。

 原因は理解出来たが、解決法は全く見えてこない。ウィルは目を伏せると力なく頭を左右に揺らし、そして項垂れた。



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