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蒼竜世界の勇者 -鍛冶屋が勇者になる物語-  作者: mao
第三章~運命の子編~
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第二十五話・リュートとウィル


「喰らえ! アクアスパイラル!」

「ああもう、しつこい!」


 前衛に飛び出してきた男達は問答無用に斧を振るい、後方に控える魔法使い達は仲間に当たらないように気を付けながら水魔法を放ってくる。

 アクアスパイラルと言う、水属性の中級魔法だ。渦を巻く水の塊が勢い良く対象へと飛んでいく範囲攻撃魔法である。リュートからこちらの情報を聞いているのか魔法使い達は皆、魔法をジュードへと集中させる。

 元々身軽である彼でも、全て避けるのは困難だ。更に男達が斧を振るってくることもあり、一瞬たりとも気を抜けない。更に言うのであれば、魔法使いの一人が自分の仲間達を青白い光で包み込んでいる。これは、結界魔法だ。

 自分達を水の魔力で守っているのである。これでは、皆の武器に付与された水属性攻撃がほとんど活きない。水の結界を張ることで自分達に水への耐性を付けたのだ。


「水を得た魚ってのは、このことだな! ――ライトニングブラスト!」


 しかし、そこで効果的な攻撃を加えられるのがクリフである。

 ジュード達が届けたアクラブランドは水属性を持つが、彼は『雷光の騎士』の二つ名の通り雷属性を得意としている。敵が水の結界を張っている以上、彼の扱う雷魔法や技は特に効果的だ。

 思い切り剣を突き出すことで、目の前に立ちはだかる男へレーザー砲のような雷撃の塊をぶち当てた。その雷は男を貫通し、後方の魔法使い達の元へと飛んでいく。


「うわあああぁっ!」


 水は雷をよく通す。

 雷の直撃を受けた魔法使いは完全に感電し、そのまま杖を手放して倒れ込んだ。意識を飛ばしたのだろう。

 だが、魔法使いはそれだけではない。あと四人ほど残っている。

 雷は攻撃的な属性ではあるが、単体を攻撃する力に特化しているものだ。複数を巻き込むのは難しい。それが分かっているからこそクリフは忌々しそうに小さく舌を打つ、面倒くさい、と言う意味を込めて。

 ウィルとリンファは、それぞれ間近で振り下ろされる斧を愛用の武器で受け止める。

 見た目を裏切らず、男達の腕力は半端なものではない。力では圧倒的に不利と判断したリンファは眉を寄せて表情を歪ませた、鍔迫り合いになると押し込まれてしまう。流すように短刀を引き、即座に後方に飛び退く。

 それを見て男は口端を引き上げ、卑しく笑った。


「へえぇ、可愛い娘っ子だなぁ。商品よりも俺専用の人形にしてやろうか」

「結構です」


 男の下卑た笑い声を聞きながら、リンファは考えるような間も置かずに即答する。非常に冷たい声で。

 見るからに年端もいかぬ少女である上に、腕力で自分に敵わない。それは男に余裕を与えた。

 再び男は大地を蹴り、リンファとの距離を詰めると武器を持たぬ逆手を彼女へ向けて突き出す。殺すよりも捕まえようと言うのだ。

 だが、スピード勝負となれば男に勝ち目はなかった。

 突き出した手は彼女の身を捉えることはなく、空を掴む。男は思わず目を見開くが、それも一瞬のこと。瞬時に男の後方に回ったリンファが、自らの身を軸にして無防備な男の背中に思い切り回し蹴りを叩き込んだのである。

 背中を蹴られ、男の身は軽く飛ぶ。しかし、リンファはそこで手加減などしない。

 すぐに一発、二発、三発と矢継ぎ早にその背中――的確に同じ箇所に素早く蹴りを叩き込んでいく。同じ箇所を攻撃され続ければ、腕力で劣るとしても効果的だ。

 そして手にした短剣を、迷うことなくその箇所へと突き立てた。それと同時に、男は激痛を訴えるべく腹の底から悲痛な叫びを上げた。

 その声を聞いて、近くにいた別の男がリンファへ向けて真横に薙ぐように斧を振るう。


「この(アマ)ァ!」


 リンファはその斧を高く跳躍することで避けると、片足を勢い良く振ることで加勢に来たその男の頬へ、重い蹴りを叩き込んだ。

 目の前に星が散るような錯覚を覚えて男は頬を押さえて尻餅をつく。それでも、リンファは攻撃の手を緩めることはしない。闘技奴隷(とうぎどれい)として戦ったことのある彼女にとって、奴隷商人は何より許し難い存在なのである。

 奴隷がどんな目に遭うのか、どのような扱いを受けるか。それを知っているからだ。

 再び跳躍すると、上空で両足を揃え――未だ立ち上がれずにいる男の腹部へ、落下の勢いを付けて両膝をめり込ませた。肋骨が折れる音と感触が伝わり男の悲痛な叫びが木霊するが、彼女の表情はその程度では動かない。


「うげあああああぁッ!!」

「死にたくなければ降伏しなさい。私は、あなた達の命を奪うことをなんとも思いません」


 背中を短刀で突き刺された男は、蒼い顔をしながらゆっくりと立ち上がる。こちらに背中を向けたままのリンファを見て、薄く笑った。今ならやれる、そう思って。

 しかし、そう上手くはいかないのが世の中である。

 今度は、同じく背中に痺れるような激痛が走ったのだ。なんだと思い振り返ってみれば、そこには愛用の鞭に舌を這わせて笑うルルーナが立っていた。


「あんまりオンナを舐めないことね。アンタ達、オンナって言うのを知らなさすぎ」

「な、なんだと……!?」

「オンナはオトコよりも残酷なのよ、血を見たって堂々としてるからね」


 料理に於いてもそうだ。男は血を見ると慌てる者も多いが、女は堂々としている。多少の出血では動じることはない。

 ルルーナはドレスの裾を片手で掴み、逆手は鞭を振るい大地を一度打ち付ける。男はそんな彼女を見て、更に顔を蒼くさせた。


「マスター、ここはライオットに任せるに!」

「え? ……大丈夫なのか?」

「に! マスターは出来れば戦いたくないと思ってるに、だからライオットはそんなマスターの為に頑張るに!」

「ま、まあ、そうだけど……」


 確かに、ジュードは出来ることなら戦闘は避けたいと思っている。しかし、任せても大丈夫なのか。彼の頭には純粋な疑問が浮かんだ。

 ライオットはジュードの肩から飛び降りると、何処か誇らしげに胸――と思わしき部分を張りながら斧を構える男達の元へと歩み寄っていく。

 男達は、見たこともないような奇妙な生き物であるライオットの姿を怪訝そうに見下ろした。


「武器を収めるに、戦ってもなんの為にもならないによ。ここは平和的に、話し合いで解決するに!」


 ――あ、ダメだ、これ。

 ジュードは、咄嗟にそう思った。

 そして、その直感は見事に的中。男達は一拍の後に一斉にライオットに襲い掛かったのである。

 ボコスコと、典型的な打撃音を立てて男達はライオットを殴り付ける。


「なんだテメェ!」

「ふざけんな!」

「やめるにー!」


 ジュードは頭を抱えたくなった。

 なぜ、あんなにも自信満々だったのだろうか。ジュードの隣に並ぶちびも、反応に困っているように見える。

 そして程なくして、ボロボロになったライオットが地面に投げ出された。ぼて、と言う相変わらず気の抜けるような音と共に。

 ライオットは短い手を使って起き上がると、その手で目元を押さえながらジュードの元に戻ってきた。めそめそと涙を垂らして。


「ひどいに、ひどいに……」

「……」


 取り敢えず、ジュードには何も言えなかった。

 だが、ライオットはあれでも真剣だったのだろう。故に口喧しいことは言わず、苦笑いを滲ませながらも片手を差し伸べた。すると、ライオットはその手に飛び付き、よじよじと腕を伝い再び肩に乗り込む。もっちりとした身がなんとも言えない感触を与えてくる。


「ちび、行くぞ!」

「ガウッ!」


 男達も気を取り直し、再び武器を構えて駆け出してきた。

 ライオットはジュードの肩にしがみついたまま、瞳孔が開いている――と思われる目を潤ませたまま呟く。


「うう……ライオットもマスターのお役に立ちたいにー!」

「今はいい、しっかり掴まってろ!」


 男はジュードの目の前まで駆けると、薄笑いを滲ませて斧を振り下ろす。ジュードの右肩は、未だ本調子とは言えない。

 しかし、武器を振るうのに支障がないほどには回復している。普段とは異なり水色の光を抱く剣――アクアブランドを両手で握り締めて、振り下ろされた斧を剣で受け止めた。


 ウィルは奥へと駆け出し、魔法の詠唱に移る魔法使い達を片っ端から槍で薙ぎ倒していく。こんな時でもジュードの身を案じるのはやはり過保護と言われるウィルらしい。魔法は彼の身に何よりも害になる、これ以上撃たせる訳にはいかない。

 近付いてしまえば――詠唱の隙さえ与えなければ、魔法使いなどウィルの敵ではない。自棄になったように杖で殴り掛かってきた一人を武器でいなした後、刃を寝かせた腹部分で思い切り殴り付ける。見事に鳩尾に入ったその攻撃は魔法使いをいとも簡単に吹き飛ばし、この隙に詠唱しようとしていた複数の仲間を巻き込んで地面に転がった。


「悪いな、俺の可愛い弟に当たったら困るんでね……」

「へえぇ、ブラコンここに極まれりってヤツか?」


 鳩尾に思い切り直撃した為か殴り飛ばした魔法使いは目を回し、吹き飛んできたその身を受けて詠唱を中断してしまったその仲間も、転倒したままなかなか起き上がれずにいる。意識だけでも飛ばしておいた方が良いかと追撃を加えようとしたウィルであったが、それは彼の背中に不意に届いた声により阻まれた。

 聞き覚えのある――今のウィルにとっては何よりも忌々しい声だ。

 後方のテントを振り返ると、そこにはリュートが立っていた。手には緩やかなカーブを描く剣を携えて。湾曲刀(カトラス)と呼ばれる種類の剣だ、その形状は人を斬るのに最も適していると言われている。

 表情には人を小馬鹿にするような嘲笑を滲ませ、改めてリュートは口を開いた。


「そんなにあの女が大事なのか? ガサツで色気もなくて、ヒステリー起こしまくりのあんな女が?」

「…………なんだって?」


 その口調は、何処までも(あざけ)りを孕んでいる。

 ウィルは手にした武器を固く握り締め、その手が震えるのを堪えられなかった。――当然、恐怖などではない。言うまでもなく、込み上げる怒りによるものだ。

 いつもは纏め役、宥め役に徹することの多いウィルだが、今回ばかりはその役に回れそうにない。

 だが、込み上げる怒りのままに飛び出さないところは、冷静さを常に忘れない彼らしいと言えた。冷静さを欠いては実力の半分も発揮出来ない、それは当然理解している。

 リュートとウィルは暫し無言で睨み合った後、ほぼ同時に地面を蹴って駆け出した。



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