お狐様
不気味なまでに静かな夜だった。
雲も風もなく、ただ月が近く異様に明るい夜だった。
見渡す限りの大草原で彼は力尽き、間近に迫った終焉を見据えるように夜空を見詰めていた。
「・・・見つけた」
まるで最初から其処に居たかのように、音もなく彼の傍らに狐の面をつけた少年が現れ言った。
少年の銀色に輝く純白の羽織りは高貴さを象徴するかのように立派であるにも関わらず、羽織りの下に纏う黒い着物はひどく草臥れ、古ぼけていた。
そんな少年を辛うじて視界に捉えた彼は、何と見間違えたのか自嘲気味に顔を歪めた。
「・・・それ、笑ってるの?」
呆れた様子で少年が言った。
「まあ、その様子じゃ普通は助からないしね。諦めるのもわかるよ。僕を何かの使いと勘違いしてのそれだろうし。・・・でもね」
少年は羽織りを彼に被せると、右耳に光る紅玉の耳飾りを外し、口づけた。
一瞬の閃光の後、少年の傍らに真紅の少女が立っていた。
身の丈をこえる槍を携え、太ももまである赤い髪を無造作に左へ流し、レヘンガを思わせる赤い扇情的な衣装を纏った少女は、彼を槍で指し、口を開いた。
「・・・間違いない?」
「ああ。時間がもうないからね。取り敢えず傷を塞いで、序でに血も元に戻しておこう。そうすれば貧血は避けられるし」
「了解」
言うや、少女は槍を引き、一欠片の躊躇もなく彼に突き立てた。
「・・・どう?」
「・・・問題ない。全部、正常」
「そ。なら、良かった。最近、耄碌したんじゃないかって気にしてたんだよね」
「狐も耄碌するのか?」
「さあ?」
小首を傾げてみせた少年は、少女の槍が霧散すると羽織りを取り、再び身に纏う。そして、でもと続けた。
「この世に不変のものなんてないからね。僕もいつかは終わりを迎えるんじゃないかな」
「・・・狐がいなくなったら、その時はー」
少女の言葉は最後まで発せられる事なく、飛び起きた彼の絶叫に掻き消された。
「・・・随分と騒がしい目覚めだ事で。気分は、どう?」
心底不快そうな声音で少年が彼に問うた。




