くまさん
熊の居る山に入るときは、ラジオや鈴装備が良いと聞きます。
童謡に「くまさん」という歌がある。
内容はよく覚えていないが、陽気なメロディーにファンシーな歌詞だったような気がする。
なぜこんなことを思ったかと言うと、目の前に、私よりでかい熊がいる。
私は「くまさん」に出会った。
目の前に熊がいる。生で熊を見たのは初めてだが、すごい迫力だ。そして黒い。
こんなときどうすればいいのか。よく遭遇したら死んだふりをすればいいとは聞くが、あまり信憑性を感じられない。
あと少しの命だとは思うが、逃げる算段を考えられる私は結構図太かったのか。
とりあえず逃げても無駄だというのは解る。言葉も通じないだろうし、私のやるべきことは一つだけ。
死んだふり
うつぶせにぱたりと倒れこむ。この策をこれっぽっちも信用してはいないが、私にはこれしかない。
見やがれ熊公、これが宝塚を夢見た私の一世一代の演技よ。お願い見逃して。
心臓がばくばく鳴っている。演技派の私にも心臓を止めることはできない。
こんなことなら中国武術を学んでおくべきだった。
せめても死んでいる感を出そうと脱力、精一杯の脱力。
熊がこちらに近づいてくる、ゆっくりと。突然現れ、急に倒れた人間を警戒しているのだろうか。
このままどこかに行ってしまえばいいものを、熊は私の前までやってきた。
スンスンと私のにおいをかいでいる、足の方からどんどん頭の方へと近づいてきている。
もう終わりだね、走馬灯と言う奴はあいにく見ることはできなかったよ。
うごぇっ、げぅっ、げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ。
一瞬なにかわからなかったが、これは熊の吐しゃ物だ。つまりゲロだ。
大量の生臭い液体が私の頭に降り注いだ。生ぬるさが、気持ち悪さを引き立てる。
そうして吐くだけ吐いて、熊はどすどすと猛スピードで山奥へと消えていった。
熊の足音がしなくなったのを確認して、私は立ち上がった。
助かった、私は助かったのだ。絶望的状況から私は生還したのだ。
わきがでよかった
これから暑い季節ですね。