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One more the BRAVE!  作者: It.
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第七話『思い出深い街を通り抜けて』

 【王都シトノーシア】についた翌日の朝、ユキトとアラムは簡単な朝食だけをを済ませて宿を出て【シトノーシア城】へと向かった。昨日入ったはいいが、すぐに宿が決まらず夜遅くにようやく寝るぐらいだったために、朝起きた時には朝市の活気は消え去り今は日中ののんびりとした空気が流れている。

 そんな街並みを眺めながら、記憶を辿りながら歩いているとふと違和感に気付く。


(あれ、少し街並みが違うような……)


 差異を探しながら記憶を掘り起こす。たしか最後に城下町を歩いたのは、『アリスティ』と一緒で、ゆっくりと歩きながら屋台を巡って――ああ、屋台だ。あのときは魔王を倒したお祭りモードだった。そこへ皆の後押しもあってユキトと『アリスティ』ででかけたのだ。

 そうしたら、二人に気付いた人たちが野次馬のごとく集まるものだから慌ててにげて、街中を駆けていきついた路地裏で諸々の事情が有って……その……その……キスをしたりだとか、と考えが至ったところで急にそのときの光景や彼女の姿が浮かんできて――……それを打ち払うように頭をぶんぶんと振った。隣でアラムが「どうした!?」と言ってきたがそれを無視して自分を落ち着けるために深呼吸をする。

 よし、大丈夫だ。切り替えないといけない。

 地球に還るはずが同じ世界に戻ったあげく、何故かはわからないが時間が遡っている。過去のことを思い出してそれに囚われたら、いつそこからぼろが出てしまいかねない。なんとか自重する必要がある。

 まだあってないのにこの状態か、とユキトは少し溜息をつく。彼女がいるのは、出会うことのなかった『アラム』にすでにあっている時点でほぼ間違いないだろう。城にいけば多分会う。

 そのとき、自分は素知らぬ顔をして彼女に会えるだろうか。ユキトのことを知らない彼女に。誰よりも大切な人が、自分をしらないのだと割り切って会えるだろうか。

 できそうにないな、と思いながらユキトは静かに笑った。自分の胸元にあるネックレスに向けて。


「アリスティ。俺、やっぱり変わらないな。お前のことになると強くいられそうにない」


 ぼそりと呟いた言葉は、アラムには聞こえなかったらしい。それぐらい小さな声だった。

 誰にも聞こえていない独白。でも、彼の胸元のネックレスの持ち主にはとどいたような気がして、それでユキトには満足だった。




 

「用が有る?」

「ああ。最近そこらじゅうに流れているについてなんだが……」


 城の門の前。監視役の騎士のひとりにユキトとアラムは入城の許可を求めていた。もっとも、交渉はアラムしかしていないが。


「あぁ、お前もか」


 騎士はうんざりとでも言いたげな溜息をついた。なんのことかわからないアラムはしかめ顔をする。


「も? どういうことだ?」

「ここ最近の話だが、どうも姫君の【召喚】についての噂が流れてしまったようでな」

「そんなの前からだろ。【勇者】を召喚しますってのは嫌ってほど聞いているぜ?」

「それじゃない。別のものだ。……お前、知らないのか?」

「は? なにをだよ」


 アラムと話していた騎士はまるで信じられないものを見るかのような顔をした。もちろんアラムが知らないことはユキトも知らない。というか、以前のこの時の記憶はそんなに色濃く残っていないのだ。だから、その騎士の反応に二人は首を傾げることしかできない。


「お前たち、どこから来た?」

「俺は【トータム】って村から。連れのこいつは近くの森で迷ってたところで会ったんだよ」

「……なるほど。たしかにそれなら知らないのも無理もない」

「それで、その噂ってのは?」


 騎士はしばらく悩むそぶりをみせたが、どうせ知ることになるからと話し始めた。

 騎士の話によると、【召喚】はもうすでに行われたらしい。けれど、完全ではなかった。召喚は確かに成功したが、召喚して魔法陣の真ん中にには人影どころか、何の影すらなっかたらしい。

 【召喚の巫女】いわく、確かに導いたが途中で見失ってしまったと。たしかにいるが、どこにいるかはわからない。

 それでは困るので、城をあげて勇者を探しているという噂。


「それはどれくらいがほんとなんだ?」

「……正直、ほぼ全てにおいて事実だ」


 騎士は苦々しそうな顔で言った。声が小さいのもこれ以上噂を広めたくないからか。

 ずっとやると公言していた【召喚】で勇者はいまだに見つかっていないのもそうだし、【召喚】を行ったのは王の娘、そして騎士たちが仕える主でもある。主の失態を平気で言うような騎士は普通いない。


「そして、ここ二、三日はその噂を聞いて、何を考えたのかは知らんが自分が勇者だ、と言い出す者が増えていてな。今日はすでに一人来ている」


 どうしてこうも馬鹿ばかりなのだと嘆息する騎士。その姿に苦労している姿が垣間見える」


「ご苦労様だな。でもそういう輩にはどうしているんだ?」

「無下には出来ないからな。王からの勅命もあって、中には通している。とはいえ、今までのやつらはもちろん皆勇者などではなかったから、たいていのやつがそれなりのものを貰って帰っていかせている」


 騎士の男が、『それなり』をやけに強調して口の端をにやりとあけるものだから、ユキトもアラムも身じろぎをしてしまう。

 しかし引くわけにはいかない。

 ユキトはいまの現状をしる手段として少なくとも話を聞きたいし、アラムは決めたことを途中で引き下がるような男ではない。勢いを削がれたような気もするが、目的を言う必要はあるだろう。


「あー、俺たちも一応目的はそれなんだ」

「やはりそうか……しかし噂は知らないと言ったな。ならばなぜ自分が勇者などだと思ったのだ?」

「いや、俺じゃねぇぞ。そうかもしれないのは連れのこいつのほうだ」

「ほう……」


 アラムに腕を掴まれ、騎士の前に立たされるユキト。

 半ば強引だったため、バランスを崩しつつも、軽く会釈する。


「お前か? 勇者だと言うにはずいぶんと頼りない顔だな」


 確かに強面とは程遠い顔立ちだが、頼りないは余計だろと心のなかで毒づくユキト。


「どうも。ユキトです」


 上から言ってくるのも気になり、つい無愛想な言い方になってしまう。ついでにケラケラと笑うアラムのすねを蹴ってやる。かなり痛がっているが、たいして問題はない。

 一連の行為にも騎士は笑うそぶりも無い。


「ユキト、か。あまり聞かない名だな」


 異世界の名だ。そう感じるのも無理はないとユキトは苦笑する。こちらで会った人の皆に言われるくらいだ。いまさら説明しても……と思ったが、そういえばここ・・では説明の必要もあるかと思い直す。


「でしょうね。多分、誰も知らないところから来ているので」

「誰も知らない? なら、あの海の向こうから来たとでも言うのか?」


 海の向こうを知らないと聞いて、ユキトはそういえばこちらの海は危険すぎることを思い出す。シトノーシアは特に海から離れた場所に位置をしているし、海を渡る術を知らないのも無理はない。


「いや、こいつが来たとこはそんなとこよりもずっと遠いところらしいぜ?」


 いつの間にか復活してきたアラムが口出ししてくる。言いすぎな感もあるが、どうせ言わねばならないことだ。仕方なしにユキトは黙ってアラムに言ってもらうことにする。


「なに? どういうことだ。この大陸に未開拓の地はないはずだ」

「ああ。それくらいは知ってるさ。でもよ、あるだろ。可能性はよ」


 騎士には正直わけがわからなくなってきた。結局こいつらもどこかで頭を打ったような口かと決めかけたとき、次いで聞いたことに耳を疑った。


「異世界だとよ」

「……まさか」


 異世界と聞いて思いついたらしい。手応えのある反応にアラムは笑みを浮かべる。


「こいつだと思うぜ。導かれたやつは。俺たちには聞いたこともない国や生き物を知っているやつが、辺鄙な森で迷子になってるなんてそれこそ【召喚】されてきたんじゃないか?」


 城門の警備を任されていた騎士は、アラムの話をきいて数瞬黙りこむとすぐ戻ると言い残して城へはいって行った。戻ってきたときに、また別の騎士が隣におり、入城が許可されたことを聞いてユキトとアラムは手を打ち合わせた。


「ただし、入城はユキト君だけだ」


 騎士団の副団長を名乗る騎士にそう告げられたアラムには、ぬか喜びであったが。


「当然だ。お前は勇者ではないのだろう?」


 城門警備の騎士にそう言われ、自分も【勇者】だといえば良かった後悔するがもう遅い。

 仕方ないだろ、と最初からそのことを覚えていたユキトに慰められるが、大して効き目はなかった。

 こんなことも挟みながら、ユキトは副団長と共に城にはいり、アラムは肩を下ろしながらも【ゴブリン】との戦闘で入手した戦利品を捌いて旨いものでも食べようと城下町へ向かうのだった。

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