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One more the BRAVE!  作者: It.
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第三話『再会した彼は、記憶と同じで同じでない』

 割り切ることにした。

 なにを、と聞かれれば答えに窮するが。そんな状態が、ユキトの今の不安定な心境を物語っている。

 すでに一度、『勇者』として知らない世界に放り込まれた経験があるため、当時よりは柔軟な対応が出来ている。わけもわからず、ただ困惑して何も出来なかったあの時よりは成長している。そうユキト自身は断言出来た。


 だが、今回はその経験が逆に今のユキトを困惑へと蝕んでいる。

 同じ世界。

 しかし時は遡り。

 再会が不可能な友に再会する。

 見覚えがない土地(結果的には知る土地だったが、ユキトはあまり覚えていない土地だった)に飛ばされたというのには、余裕があるなと自分で感心するほど冷静に対処が出来た。

 一夜あけて。

 不安も多少は解消され、とりあえずあてもなく水浴びをしている時に、それが起きた。

 ユキトは切実に問いたい。

 死んだはずの人間が生きているって、そんな話があるか?

 夢じゃない。幽霊でもない。たしかに、生きている。

 ユキトの記憶の中と変わらぬ姿で。けれど決定的に違う部分を携えて。

 それは、ユキトのことを知らないこと。

 困惑を示すメーターは知らず知らずのうちに振り切らた。だからだろうか。通り越した困惑は、ユキトに一時的にではあるが余裕を与えた。

 余裕が出来たおかけで考えが巡り、同じ世界でも時間を遡っているのではないかと仮定できた。そして、それらを割り切ることも。


 それが出来たおかげで、アラムにもなんとか対応ができた。そして、そのままアラムに誘われる通りにユキトは森の中を歩いている。

 狩りをするためだ。

 腹に何もいれないまま過ごしていたユキトは、アラムと話しているうちに不本意なことに盛大に腹が鳴ってしまった。それを聞いたアラムは、これ幸いとでも言うように狩りに連れ出したのだ。

 空腹を訴えている上に、狩りの経験があるのかも聞かずに強引に連れ出す姿に、同じだな、という感想を持ってしまう。不意に過去の記憶が蘇り、足が止まる。

 不意に止まったからか、アラムが声をかけてきた。


「ここら辺にたぶんいるぜ。ん? どうかしたか、ユキト?」

「……いや、なんでもない。ちょっと考えごとしてただけだ。気にしないでくれ」

「あいよ。じゃ、気を張っていけよ。集中不足で獲物を逃がすなんてまっぴらごめんだ」

「そうだな。俺も早く空腹をなんとかしたい」


 気を引き締めて歩き出す。ただ、頭の中ではどうも昔のことを思い出してしまう。

 アラムと狩りをすることは、旅の中で何度もあった。要領がイマイチ分からないまま旅に出たので、食料が次の街まで持たないことがあったのだ。

 そんな時はアリスティに木を集めて火を起こしてもらい、その間に近くにあった適当な草原や森、川でアラムと共に狩りをした。頻度がそれはもう多かったため、次第に狩りのスキルは自然と身についていった。

 ただ、ユキトもアラムも罠は作れないし、弓もそんなに得意ではない。アラムは村の近くの森(つまり、いまユキトがいる森)で狩りの経験があったとはいえ、慣れない地では思うように事が進まなかったりもした。

 その点、今回はアラムは地形や獲物を特徴を知っているため、かなり堂にいった狩りの行動をしている。今も狙い目の獲物がいるらしいエリアに入ってからは、足音を殺し、周囲にかなり注意を向けている。

 発見は予想以上に早かった。


「見つけたぜ」


 アラムが指差す方向を見れば、暗い赤茶色の毛をずんぐりした身体に纏い、四足方向で移動するイノシシのような生き物がいた。


「あれは?」

「コトイノイってやつだ。肉は脂もほどよく乗ってて旨いし、大きな牙と比較的丈夫な毛皮は加工品としても重宝する。狩りの獲物としては、かなりアタリだぜ」


 狙って探したんだけどな、と言ってアラムは笑うが、ようはその【コトイノイ】という生き物が、森のどの辺りに住んでいるのか、どんな時にどこに現れるのか、そういった生態を知っているということだ。そういった所に詳しいのは、やはりアラムか、とユキトは変なところで感心する。


「さすが、狩りと資源集めだけで生計を立てれる体力バカなだけはあるな」


 小声で呟く。こんなこと聞かれたら、アラムに叩かれそうだ。

 弓や罠を使わない時点で効率的ではないし、体力バカも事実だしいいか、とひとり納得する。


「それで、どうやって仕留めるんだ?」

「もちろん、ユキトにも手伝ってもらうぜ。……あ」

「どうしたよ、いま重要なことを思い出した、みたいな顔をしてよ」

「ユキト、お前、狩りの経験ってあるか?」

「………………いま聞くのか。やっぱり、そういうとこが抜けてるよな」

「う、うるせーな。うっかり忘れてただけだぜ!? ……あれ、やっぱりってなにがだ?」

「あー、いや、なんでもない」


 目の前にいるのが『アラム』だからか、いつの間にか砕けた口調を使ってしまい、内心焦るユキト。目の前の人物は、『アラム』ではあるけど、まだ初対面だということを忘れないようにもう一度心に留める。

 同じ世界でも、どんなことが起きるのか分からない以上、ユキトがすでにアラムのことを知っているのは、隠すべきだ。下手なことをして、不測の事態に巻き込まれるのは必ず面倒になる。

 疑問を逸らすため、強引にでも話題を戻す。


「それで、狩りの経験はあるよ」

「そりゃよかったぜ。やっぱ人は見かけによらないな」

「どういう意味だよ、それ」

「会った時から思ったんだけど、ユキトってどうも優男みたいな雰囲気がな。生き物は殺せない! ってなこと良いそうな顔をしてやがるぜ」

「……よく言われたよ。でも、生きるためだ。昔はそんな時期もあったけど、いまは躊躇わない」


 『勇者』となって間もない頃。まだ慣れない剣を扱おうと、必死になっていたころだ。

 初めての狩りの時、『アラム』に同じことを言われた。その時は虚勢を張って、そんなことはないと言ったが、実際に目の前にいる獲物に剣を突き立てようとした時、どうしても出来なかった。その油断のせいで反撃をうけ、胸に怪我をした。その傷は、いまでも残っている。

 生きるために躊躇をしてはいけない。それを忘れないために、回復魔法もあまりかけてもらわず、残したものだ。


「それでこそ男ってやつだぜ。やっぱ、男の生きがいは生きるか死ぬかを競い合うとこだな! くーっ、わかるじゃねぇか、ユキト!」

「あぁ、そうだな。まずはあいつを狩って食うか!」


 急にテンションの上がったアラムに苦笑しつつも、懐かしいそのノリにユキトも思わず合わせてお互いに手を立てて強く握り合う。


「やるぜ!」

「おう!」


 お互いにやる気を高め合い、さぁ狩りをしようと獲物の方をみれば――……


「あ、あれ?」

「…………いないな」


 赤茶の体表をしたイノシシもどきは、いつの間にか消え去っていた。

 ユキトとアラムが、逃がしたのは互いのせいにしだして、さらに周りから動物たちが逃げていったのは二人には預かり知らないことである。


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