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One more the BRAVE!  作者: It.
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第十八話『変わり果てた精霊』

 久しぶりに感じる全身を叩くような濃密な障気に、ユキトは驚愕する他なかった。

 すぐさま後ろを振り返れば、予想を違うことなく、アリスティが真っ青な顔になっている。“あてられた”のだろう。

 見れば、アラムもディネストもくらっているではないか。無事なのは自分だけなのを確認したユキトは、まずい状況なのを悟る。

 油断していたせいで受けた被害に、やる瀬ない気持ちが込み上げるが、それを押さえ付けて【気】を練る。

 奇襲を許してしまうほどに緩んでいた気持ちを引き締めて、敵を見据える。

 正直なところ、旅の中で死に物狂いで敵への観察眼を鍛えたユキトには、これ以上不覚を取る相手ではないことは確信している。

 けれど、それだけに先程の失態に歯痒い思いが高まる。

 その思いを吹き飛ばすように。


「………………ッ」


 短く、大きく息を吸い込み、


「破ッ!」


 ただの一息で、練り上げた【気】を放出する。

 ユキトによって放たれた【気】は、空気を震わせながら広がり、すくんでいた三人を立ち直らせた。


「わ、わりぃ。助かったぜ」


 【気】とは【魔力】と同じように、身体のエネルギーのひとつだ。違いとしては、【魔力】を好むものが多いのと違い(【魔力】は精霊、動物、魔物など、多種多様なものが持ち、また摂取を好むものいる)、【気】を好み、扱うことができるのは一部の人種のみ。

 しかし、特性は似通うところが多い。向き、不向きはあるが、身体能力の強化、怪我の治療などはどちらも出来、また、熟達者は自らの力を空気を伝えて使うことができる。

 【活激】。ユキトがいま行ったのは、そう教えられた技術だ。

 溜め込んだ気を、あえて軽い衝撃を与えるだけにすることで、身がすくんでいたり、今のように何らかの外的要因によって動かない体を回復させることができる。


「口を開くなら身体を動かせ!」


 ユキトの放った気に影響されてか、直ぐさま風の塊が飛んできた。荒々しい風は、烈しく唸りをあげながら直進してくる。

 明らかに敵意の塊でもあるそれは、どう見ても気軽に受け止めれるものではない。アラムとディネストはすぐに安全圏に跳び、ユキトはいまだふらついて動けないアリスティをかばいながら、退避する。

 地面で当たったそれは破裂して辺りに風を撒き散らし、煽られて四人はさらに広がってしまった。

 アリスティを抱えながら、バックステップをふみつつ、さらりと周囲を見渡して状況の確認をする。想像以上に悪い配置。

 アラムとディネストが孤立して、そして敵は遠くにいる。

 近距離の攻撃方が主体のユキトやアラムにとっては、あきらかに得策ではない距離で、かといって魔法が主力のアリスティや、ある程度、風系統の魔法が使えるディネストも、いくら攻撃されたとは言え、自らが恩恵を受ける精霊を攻撃できるかは疑問だ。

 加えて、詠唱をすれば風塊が飛んでくるのは確実だ。ディネストはともかく、アリスティはそれを安定して避けれないだろう。

 アリスティには誰かが付きながら護る必要がある。現状ではそれがユキトだが、それが原因で攻撃方法が有るのにも関わらず、精霊に近付くことが出来ない。もしユキトが攻勢に出るのならば、現状で敵に有効打のないアラムにアリスティを任せる必要がある。


 霊系統に属する精霊たちは単純な直接攻撃はあまり意味をなさない。

 彼等にダメージを与えることが出来るのは、世界に干渉する【魔力】や【気】、もしくは同系統のものによる攻撃だけである。

 それ以外にあるとすれば……。

 飛んできた風塊をアリスティと避けながら、ユキトは首にかけてあるものの一つを手にとる。


「アラム、ディネスト!」

「どうした、ユキト!」

「チッ……なにか策でもあるのか!」


 大声を張り上げて二人に声をかけ、また集まるように言う。

 時間が経つにつれ、一層と増える風塊を避けつつ、精霊から遠ざかりながら四人が集まった。

「アリスティ、なんでもいい。とにかく向こうの攻撃を防いで、少しだけ時間を稼いでくれ」

「は、はい」


 四人が一カ所に集まったせいで、向こうも遠慮なく風塊を打ち込んでくる。それに対し、アリスティは焦りながらも、その澄み渡る声が空気を伝う。


「ムーザ・ヴァーレ・シュ・ヘッダ」


 彼女の紡いだことばは、彼女の【魔力】と共に世界に、そして大地に宿る精霊たちに働きかけた。

 ユキトたちの前に、瞬時にユキトの二倍は高さのある厚みある堅牢な土の壁が立ち上がり、荒れ狂う風を受け止める。衝撃と爆音が広がるが、ユキトたちは髪が揺れた程度だった。


「相変わらず、すげぇな。巫女様は」


 迅速かつ強固な壁の出現に、アラムが口笛とともにアリスティを褒めた。もっとも、『アリスティ』のことならよく知るユキトは当然とでもいう面持ちである。ディネストはどこか仏頂面だったが。

 アリスティがほっと一息をつくが、まだ戦いが終わってないことを思い出し、もう一度気を引き締めた。


「おい、ユキト。これだけでどうにかなるとでも思っているのか。こんな土壁、いつまで持つかわかったものじゃない」

「防きれないと思っているなら、あんたはアリスティの評価を考え直した方がいい。見たとこの土壁なら、俺たちが今から逃げても確実に安全な場所まで行ける」

「そんな保証がどこにある!」


 ああ、まったく。

 この堅物騎士はどうしてこんなにもアリスティを否定したがるのだろう。彼女が【召喚の巫女】と呼ばれる理由は、国の人間なら誰しもが知っているはずのことだ。

 むしろ騎士であるなら、特にそのことについては一般民より知っているだろうに。

 ディネストのアリスティへの信頼のなさは、どうも目に余る部分がおおい。

 アリスティを、『アリスティ』と比べるユキトも似たところはあるのかもしれないが、ユキトは実力を見ることは公平にできる自信があった。


「アリスティ、気にするな。あんたなら大丈夫だ」

「……はい。ありがとうございます」


 一瞬ではあったがアリスティの表情が陰を含んだのをユキトは見逃せなかった。仲間に信用されないというのは、辛い。それがユキトもよく分かる。だがどうしようもない暗澹思いが胸中に渦巻いている。

 誰も口を開かなくなった頃、風塊の嵐がピタリと止んだ。


「お? 止んだみたいだぜ?」


 アラムがどうするよ、という顔で他を見渡した。


「ここで縮こまっていては始まらないだろう。攻めるべきだ」

「おいおい。いいのか。ありゃどう見ても風精霊だろうが」

「……手を出したくはない。だが、どうしようもないだろう」

「待て、ディネスト。危険だ。相手は精霊の上に、瘴気を纏ってる。明らかに分が悪い」


 真っ先に反応したディネストをユキトが諌める。しかし、ディネストは興奮しているようで、聞き耳を持ちそうにない。

 興奮しているということは、冷静でないということだ。冷静を忘れれば、必然のごとく、無謀で骨董無形な思考に陥りやすい。前々からユキトは彼がそういった傾向にあるとは思っていたが、ここにきて面倒なことになりそうだった。


「ならここに留まり続けるとでも言うのか!」

「案はある」


 ユキトは先ほど首から外した、アクセサリー状にしている聖剣を見せた。


「聖剣か。そりゃ確かに何とかなりそうだな。巫女様よ、どうなんだ?」

「確かに聖剣ならば、邪を払うことなど造作もないことだと思いますが……」

「貴様の剣の扱いは児戯にも等しいだろう。そんな状態でどうするつもりだ」


 たしかに、ユキトは聖剣を剣としてはその力を発揮することができない。しかし聖剣の形状を変化することのできる能力さえあれば、その姿はユキトが親しんだ、ナックルグローブとなる。

 ユキトが前回の旅でそれができることを知ったのは、この最初の旅のあと、シトノーシア城に帰ってからだった。

 今回もまだユキトはそれを知らされておらず、出処のない情報を旅仲間に話すのは気が引けていた。しかし、こうなっては出し惜しみをするわけにはいかない。


「見ててくれ」


 ユキトは聖剣に語りかけた。

 ただ、答えてくれ、と願いながら。

 その答えはあまりにも速く、ユキトが驚くほどの歓喜の念が手の中から溢れ出てきた。

 突如視界を覆った眩い光が収まると、ユキトの掌からは小さな聖剣は消え、彼の両手は銀の下地に金の装飾が煌めく指貫のナックルグローブに覆われていた。

 使い心地を確かめるため、二度三度と掌を開閉する。久しぶりの手に馴染む感覚に、自然と顔が綻んだ。


「これなら俺は負けない。それともまだ不安があるか?」


 ユキト以外の三人は未だに呆気に取られたような顔を浮かべていた。


「すげぇな、聖剣ってのは別に剣じゃなくてもいいのかよ」

「みたいだな」

「ハハッ。ユキトの拳なら安心だな。俺が巫女様を守っておいてやるよ。頼むぞ」


 アラムに頼むと言って頷いたあと、ディネストに向き直った。


「いけるか?」

「……もちろんだ」


 ユキトの問いかけに、ようやくディネストももとに戻ったらしい。


「お前と……アリスティしかどうしようもできそうにないな。私が先行して注意を引いておく。さっさと終わらせてくれ」

「ああ。任せろ」


 ユキトの言葉を聞いたディネストは、土壁の裏からすぐに飛び出した。その裏をユキトが追走する。

 猛る瘴気を纏う風精霊との戦いが再び始まった。


ずっと筆がとまって半年以上が立っていたのですが、ふとお気に入り件数の40という数字を見て活力が出ました。

お読みいただける方々に此度もまた、僕は感謝の念がつきません。

本当にありがとうございます。

いまだ盛り上がりも薄く、これからという拙作ではありますがもしよろしければ感想や評価をしていただければとおもいます。

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