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One more the BRAVE!  作者: It.
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第十七話『異変の森』

「ギイッ! ギイギイギ!」


 聞くのも嫌になるような、耳障な不協和音の鳴き声を無理矢理に意識の外へ追い出しながら、ユキトは特攻してくるコブリンを回し蹴りで吹き飛ばした。飛ばされたゴブリンは数体を巻き込んだ後、どこかの木にあたったようだ。

 しかし、その結果に気をかけることなく、ユキトは止まらず目の前にいる三体のゴブリンに向かっていく。ユキトが近付いたことで驚いたのか、慌てて持っていた木のこん棒を振り下ろしてきたが、それを難無くかわして横からストレートの一突き。吹っ飛ぶゴブリンAを尻目に、横から襲ってきたゴブリンBの振り下ろしをあえてギリギリでかわして、すぐさまアッパーカットで顎を打ち据える。

 宙を舞うゴブリンBが理解の出来ない叫びを上げていたが、きっと着地した時には静かになっているだろう。

 そして逃げずに攻撃しようとしてくるゴブリンCに舌打ちしつつ、今度は数歩の距離を【気】で強化した脚力で一足で詰める。そのままの勢いで掌底打ち。ゴブリンCは抵抗もなく崩れ落ちた。

 ようやく出来た空白の空間を、バックステップで周りを警戒しながら元の場所に戻る。案の定、ユキトを追うようにゴブリンが十体近く迫ってきた。

 が、彼等がユキトに一撃を加えるどころか、近くへいくことすら叶わない。


「シツァ・ピュ・スーウァ」


 無理矢理に文字にするなら、こう表現できるだろう言葉がユキトの後ろから聞こえてくる。


「さすが」


 口から思わず無償の感嘆が飛び出る。目線を少し上へ向ければ、ピキピキと音を立てて、瞬時に一メートルはあるであろう氷柱が十本ほど瞬時に作られ、射出された。

 射出されたそれらは、寸分違わずユキトへ迫るゴブリン共の体へ吸い込まれる。短い悲鳴を上げながら絶命するゴブリンから目を離し、ユキトは身を翻して今の魔法を使用したアリスティの側に戻る。


「あの、お怪我は?」

「ない。大丈夫だよ。それよりあんたは自分の心配をすべきだ」

「わ、私は大丈夫です。護って、貰えるのですし」

「……そんなこと言われたら」

「え?」


 頑張るしかないじゃないか。

 その言葉を飲み込み、短いやりとりの最後になんでもない、とだけ返た。

 周りにゴブリンの影がないことを確認して、今度は少し離れたアラムとディネストの方を見る。

 二人とも襲いかかってくるゴブリン共に危なげなく相手をしている。まだ数はいるが、この分なら問題なく切り抜けることが出来そうだ。




「うぇ、最悪だぜ」


 ゴブリンの一団と一戦を終えたアラムは、心底嫌そうな顔をしていた。

 全身に血が点々と散りばめられている様は、直接見るだけあって下手なホラー映画よりも恐い。結構な量のその血を見ると、ユキトは自然と顔が強張ってしまう。

 隣にいるアリスティも似たような状態なのを感じる。


(あぁ、そういえば血を見たことがほとんどないのか)


 生きるか殺すかの瀬戸際で暮らす者が多いこの世界で、彼女は完全にそんな殺伐としたものからは隔絶された場所にいたことを思い出した。よく見れば、手足も微かに震えている。

 その為に、と言われて修得した魔法でとは言え、きっと生き物を殺すことに忌避を感じずにはいられないのだろう。

 けれど、アリスティはそれを悟られないように我慢し続けているのだろう。いまでこそユキトも平然を装うことは出来るが、一年ほど前の自分は喚き散らし、ただただ現実から目を背けていた。

 だから、『彼女』のその強さには憧れた。


「ユキト、大丈夫だったか?」

「ああ。特にやられることもなかった。そっちは?」

「こっちも被害はナシだな。荷物も無事だし、怪我もねぇしよ。ゴブリン相手でこのメンバーなら当然だけどよ」


 さすがに数は多くて面倒だったぜ。そういってアラムは苦笑したが、血塗れた身体にその様はいささか不気味なものがあった。

 と、そこで、今度はやたら不機嫌そうに地面を踏み締める音がした。

 三人してそちらの方へ見遣ると、毅然とした表情で歩くディネストがいた。


「よっ、お疲れさん」

「まったくだ」


 気楽に労いの言葉をかけたアラムに、ディネストはうんざりといった風体で答えた。

 二人共が、ゴブリン一団の大多数を相手取っていたものだから、返り血を少なからず浴びており、むせ返るような血液独特の匂いがさらに強くなった。


「怪我は……あるわけないか」

「ふん。ゴブリンごときがいくらいようと、傷一つ受けるものか」


 言葉通り、ディネスト自身に外傷は見当たらず、それはアラム同じだった。

 ユキトとアリスティも無事だったので、誰ひとり怪我人はいない。


「それにしても、さっきからゴブリンたちが多いな。こんなにいるもんなのか?」

「多いってもんじゃねぇぞ、ユキト。異常だ、異常」

「だよな」


 ユキトの記憶では、この森では先程のように一度に数十ものゴブリンと出くわすことはなかった。

 せいぜい七、八匹。それも、たまたま集まりました、と言ってるかの如く(実際にそうなのかもしれないが)集団意識がまったく感じられなかった。

 対して、さきほどの一団は連携と呼べるものはなかったが、ある程度は団体としての行動をしていた。


「ゴブリンの数十体による団体か。異様なのは疑い無いな」

「騎士団にはそういう報告があったりしないか?」

「シトノーシア領に比較的魔物が少ないことは、お前は知らないだろうが周知の事実だ」


 加えて、ディネストは最近のシトノーシアは魔物の活動があまり見られないとも言った。


「そういや、うちの村もゴブリンどころか、近くの森からも何も来なかったな」

 どこか不思議そうなアラムが、さらにディネストの言葉通りなことを印象付ける。

「それなら、この森の異常さは一体……」


 最後のアリスティの一言は、誰も返す言葉が見つからず、虚空へと消えていった。





 その後も何度か襲撃を受けたが、予測できたこともあり、四人で安全に対処することができた。


「くっそ、まだ着かねぇのかよ」


 アラムが苛立たしげに地面を踏み付け悪態をつく。

 隣にいたディネストは顔をしかめるが、彼自身も相当のストレスが溜まっているのか、何も言わずにただ落ち着くように深く息を吐いていた。


「少し戦闘が多過ぎましたよね。そろそろ着くとは思うのですけれど……」


 アラムに答えるためにアリスティは気丈に振る舞おうとしているが、実際のところ一番の疲労が大きいのは彼女だ。遠出の経験が皆無だった彼女にとっては、歩き続けた上にそれなりに長い戦闘を続けることは体力に負担がかかりすぎた。

 仲間のそんな姿を見たユキトは、少し気分転換にと小休止を提案した。

 これには全員が賛成で、適度に広い場所を見つけ小休止を取ることにした。

 ユキトはまず、【気】を身体に巡らせ、とくに聴覚を鋭敏にする。この森にいる敵に奇襲をされても無傷で切り抜ける自信はあるが、用心にこしたことはない。


(木葉の音が酷いな。森の割には強めの風かな)


 強化された耳に、木々の擦れる音がついてくる。聴覚強化の難点と言えば、いらない音まで聞こえてしまうことで、こういう余分な音が多い場所では、万能とはいいづらい。

 探知にはアリスティの結界系の魔法が一番なのだが、準備に時間がかかり、なにより、たたでさえ疲労が大きい彼女に休憩で負担をかけるわけにはいかない。

 結局、念のためにと嗅覚にも強化をしたユキトが、微かにではあるが刺激臭に顔をしかめてアラムに笑われたのだった。

 その後も何度か同じ臭いが鼻腔を刺激してきた。その臭いはまるで良いものには思えず、どこか心の不安を掻き立てるようなものだった。




 太陽が下り始める前に出発しようと決め、それぞれ日持ちする硬いパンと燻製の肉を口に入れて軽く昼食をとって早々に森の深部に向かって歩みを進めた。

 日も大分傾き始めた頃。

 次第に強くなっていた風が急にぴたりと止んだ。


「風が……」

「あんたも気付いたか」


 ユキトは無論のこと気付き、アリスティもすぐにわかったようだった。

 立ち止まり、アリスティが不安げな顔を浮かべる。ユキトも歩みを止めると、前を歩いていた二人もこちらの様子を察したようだった。


「風がどうかしたか?」


 アラムが聞いてきたが、ディネストは早く進もうとかなり機嫌が悪そうだ。時々、ユキトは彼が騎士団の副班長であることを疑う。 少なからず人の上に立つ人物が、こうでいいのかと。

 本当に、彼の部下は大変そうだ、と思うユキトだが一番の迷惑を被っているのは団長のガトノフであることを彼は知らない。


「風が急にやんだんだよ。さっきまで結構吹いていたのに」

「そういわれてみりゃ……たしかにそうかもな」


 葉擦れの音が聞こえなくなったことに気付いたアラムが、天を仰いで木々の上部を見た。

 ユキトの話を聞いて、訝しさを感じたディネストもアラムに倣い上を見上げた。

 しかし原因など彼らには分からない。そればかりはユキトも同様だ。けれど、ユキトの一年をかけて育てられた感覚が少しずつ危機感の鎌首をもたげようとしていた。

 ユキトは静かにアリスティに問う。


「……アリスティ。ここって精霊がいる森なんだよな」

「えっと……この森は深部にある祠に風を司る精霊が多くいると言われています。もっとも、精霊は力にムラが出たりはしますが、どこにでもいますよ」

「なら、いまここにその精霊はいるのか?」


 ユキトの疑問にアリスティは、胡乱げな表情をうかべた。


「ですから、ここにだって精霊たちは…………え?」


 驚愕が彼女を駆け巡ったのは、見るからに明らかだった。その彼女を見てユキトの不安は留まることを知らずに大きくなり、同時に警戒心も増していった。


「なぁ、ユキト。風は止んだけど、だからどうしたってんだ?」


 しかし、まるで事情を理解できてないアラムはとりあえずユキトの元へ寄ってきた。

 同様にディネストもアラムに続いて歩いてくる中、ユキトはそれを感じた。


「風が、また吹きはじめた?」


 その風はかなり奥深くからの風であるはずなのに、妙にユキトは強く感じた気がした。

 高まる警戒心は、ついに彼に最大限の警報を高らかに鳴らした。


「全員、伏せろ!」


 反射的にそう叫びながら、突然の大声に反応出来ていないアリスティを腕に抱え込み、ユキトは地面に倒れ込んだ。

 アラムとディネストも驚きはしたが、すぐに身体を伏せた、次の瞬間。

 四人に向かって、吹き荒れる風が怒涛の勢いを持ってたたき付けられた。


「きゃっ!」


 小さく悲鳴を上げたアリスティを強く抱きしめ、ユキトは飛ばされねように身体を竦める。

 幸いなことに、簡単に吹き飛ばされるほどのものではなく、数十秒も曝された暴風にも被害はないに等しかった。


「今のは……どういうことだ、ユキト」


 被った土煙を払いながら、不機嫌面をさらに深めたディネスト。ユキトがなにかわかっていると思ってのことだろうが、正直、ユキトにもこれは予想外である。何が起きてるのか知るために、【気】の強化を最大限にまであげる。

 だが、今度はアラムがすぐに反応した。


「馬鹿いってんじゃねぇぞ。完全に攻撃されてる!」


 そう言いながらアラムは前に転がるも、彼のすぐ後ろが爆ぜて吹き飛ばされた。うめき声を上げながら転がり、木にぶつかったが、意識はまだあるようだ。

 それを見たディネストはすぐに抜剣をし、辺りに目配せをする。


「ディネスト! まずは固まった方がいい!」


 ユキトの提案に少々、渋るそぶりを見せたが、舌打ちをしながらも素直に後退する。その間にユキトは倒れていたアラムを助けおこし、アリスティも加わって四人で固まった。

 そして、何が起きてもいいようにと身構える彼らの前に、素人目にもわかるほどに大量の障気を纏う存在が現れた。


「これは……っ!」

「そんな、どうして」


 ディネストとアリスティから、悲痛の声が漏れた。

 二人ともに、縁の強いものだから、仕方ないのかもしれない。


 障気を纏いながら彼らに近づいてきたのは、この森を象徴する風の精霊なのだから。 


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