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One more the BRAVE!  作者: It.
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第十六話『こんな関係で大丈夫か』

「あーあ。マジかよぉ」


 アラムが妙な声を出しながら仰向けに倒れた。


「勝てると思ったのによぉ。ありゃねぇって。勇者さんよ」

「ははは……あそこまでやる気はなかったんだけど」


 意外に辛かったから、と言いながらアラムに手を貸す。

 どうやら胸の強打が効いたらしく、痛みに顔をしかめていた。とは言え、あとでアリスティに回復を頼めばなんとかなるレベルではある。


「ユキト。お前戦ったことねぇとか嘘だろ。ゴブリン共も簡単にあしらってたしよ。」

「あ……いや……」


 アラムには唯一、自分のことを話している。迂闊に力を出し過ぎた。


「……力がないと、ダメだったんだよ」


 【勇者】となっただけでは力が足りず。ただ強さを求めていた。

 その結晶がいまのユキトで、代償が胸を抉る心の傷。


「まぁ、一対一はそれなりに自信はあるよ」

「んだよ、ったく……ほんとお前がいた世界ってどんなとこなんだよ」


 この世界です、とはさすがに言えない。適当に笑いながらごまかすことにする。

 アラムの剣を回収してから野営をしている場所に向かう。

 ちょうどディネストも鍛練を終えたところらしく、ばったりと出くわした。


「おはよう、ディネスト」

「おっす」


 ユキトとアラムを一瞥した彼は、仏頂面を微塵にも変えもせず、ただただクールに。

 中性的で、やや鋭い刃のような印象の顔立ちもあってか、いつにもまして不機嫌そうに見える。端麗な顔立ちだというのに、もったいないなとは思うも、それは自分の心の中に閉じ込めておく。


「あぁ。アラムに……ユキトか」


 とだけ言い残して、先に行こうとした、のだが何を思ったか立ち止まった。


「どうかしたか?」


 少し考え込む姿をしていると、急に振り返る。


「お前たちも鍛練か?」

「今日から森の探索だしな。ユキトと身体を動かしてきた」

「そうか。手合わせか?」

「ああ。ちなみに俺の負けだった。しかも明らかに本気じゃなかったってのに」


 やってらんねぇぜ、と悪態をつく彼にユキトは苦笑するしかない。


「だろ、ユキト?」

「あー……まぁ鍛練だしなぁ」


 確かにアラムの言う通り、ユキトは本気ではやっていない。もし本気でやるとしたら、一瞬で潰しに行く。

 妥協なく身体を壊しに行く。戦闘など、微塵にもさせるつもりはない。

 とは言え。

 アラムもアラムで本気ではなかった。

 『アラム』がユキトの旅仲間としていられた、『アラム』の特異性をアラムは使っていなかった。『アラム』が使って、アラムが使えないとは思えない。

 もしそれを使われていたら、もう少しユキトも戦い方を考える必要があった。

 もっとも、使わない、というより使えないだろうという確証もあった。加えて、身体を動かす目的だったのだし、わざわざ全力でやる必要はない。むやみやたらとそんなことをすれば、身体が持たない。体力的にも精神的にも。

 が、便利なものではある。


「つーかよ、胸当ての上だからって力込めすぎだろ、いてぇ」


 ユキトに打たれた場所をさすりながら痛がるアラムだが、それくらいはすぐに治る。


「ははは……悪い悪い」

「なんであんな重い打撃になんだよ。ったく」


 愚痴たれながらも、歩き出すアラムに続き、ユキトも宥めながら続いていく。


「待て、アラム。素手、とはどういうことだ」


 その二人をディネストが止めた。有無を言わさないかのような圧力があるその声に、ユキトもアラムも立ち止まるしかない。

 アラムはなぜ、という顔を浮かべたが、ユキトは疑問の前に冷や汗が流れ出た。

 ディネストという男は、少なからず目に余るほど自分に自信がある人間だ。ここ数日を共にしてそれは特に感じたこと。

 加えて、自らが【勇者】にふさわしいと声高にユキトに叫んでいたことで、ユキトは彼を野心家だとも感じている。

 しかしそれでいて、騎士という職も相まってか誠意もたしかにある。決闘の勝敗を機に、彼は【勇者】にふさわしいのは、という類の話は口にすら出していない。

 だが往々にして誠意を持つ人物は、相手にもそれを求める。

 そう。例えば、自分の全力をぶつけるのなら、相手もそうすべきだ、と思う人物がいてもおかしくない。

 そしてシトノーシアの騎士団では、こと決闘においては互いに全力を尽くすという教えがあると小耳に挟んだことがある。

 ユキトの冷や汗が止まらない。直感が面倒なことになりそうだと告げてきている。


「あー、まだあんたはユキトの戦闘見てねぇんだよな。こいつ、剣じゃなくて素手で戦うんだよ。殴って蹴ってぶん投げんのが大好きなんだよ」


 別に好きなわけじゃない、と反論をしたくなったが、それを我慢してなんとか先に行こうと試みる。


「ほぅ。それは初耳だな。あぁ、ユキト、どこに行こうとしている?」


 無理であった。

 能面のように貼付いた笑顔で、まだ貴様にも話があるのだと言われたら、どうしようもなかった。


「アラムの話は本当か?」


 完全に目が据わっている。必死に頭を働かせてどう答えるか考えるしかなかった。

 話が本当だ、というのは構わない。いずればれることではあるし、隠しているつもりはなかったのだ。ばれる機会もなかったが。

 ただ、ディネストは確実にユキトの本気の戦いが拳にあるのだとしたら、いろいろと突っ掛かってくるはずだ。

 それらに対して無理矢理にでも納得させられる言い訳を考えつかなければならない。


「早く言え」

「えーっと……まぁ」


 少なからずあった【勇者】への配慮すら微塵にも感じられない声にユキトは逃避を諦め、頷いた。


「徒手で戦うか。興味深い」

「そ、そうか。じゃあ、とりあえず朝飯食べよう。アリスティも待ってるだろうし」

「そう急ぐこともない。もう少し話を聞かせてくれないか、ユキト。徒手と聞いて気になることがある」


 気付けば、ディネストとの距離がいつの間にか近くなっていた。ユキトの背中を流れる冷や汗が、さらに増えるのを如実に感じられる。


「なにかあるのか?」

「ああ。ある。あるとも」


 渇いた笑みを浮かべるユキト。

 綺麗な微笑みを浮かべるディネスト。

 どちらも顔は悪くないが、いまのユキトは少々優しげな顔立ちが、笑みのせいでどこか引き攣ったもので魅力が乏しいと言わざる得ず、ディネストはと言えば端麗な顔からくる微笑みは、ある意味においてかなりの威力を持っている。特に目が据わっているのがポイントだ。

 傍目にすれば、蛇に睨まれた蛙のような印象すら受ける。


「決闘のことは覚えているな?」

「え?」


 睨まれた蛙は、盛大に惚ける。

 が、それは睨む蛇の静かな怒りを逆なでるだけだった。

 さりげなく。本当にさりげなく、ディネストの手が剣の柄に添えられる。


「お、覚えてる。覚えてるって」

「覚えているのならば、問おうとも問題はないな。聞かせろ。なぜお前はあの時剣を使った。なぜ全力で私と対峙しなかったのだ」


 ディネストからの問いは、やはり予想通りであった。予想通りだからこそ、答えづらくもあるが。ユキトの顔が困ったものになり、頭をかきながらなんと言うべきか考える。

 全力でないわけではなかった。

 剣という武器は、たしかに得意ではない。攻めに技巧なんてろくになく、剣筋もまるで出鱈目である。我流に少しの指導を加えた程度。

 それでも使った理由は、【聖剣】を使う【勇者】が剣を使わないと言うのは納得されそうにないと思ったからだ。もっとも、それは表にこそ出していないが建前なのであって、ユキトの本音としては、【勇者】と『アリスティ』(アリスティではなく)を馬鹿にされた意趣返しとして騎士たる彼の土台に踏み込んで勝ってやりたかったのだ。

 今更ながら短絡であったと反省するほどに、あの時のユキト自信も心に余裕がなかった。

 つまりは、怒りに任せて性の悪いことをしたのだが、それを正直に話せばディネストがさらに騒ぐことは目に見えている。


「早く、言え」


 詰め寄ってくるディネストに、今更なんだよ、とか、そもそも剣で本気と勘違いしたのはお前が先だ、とか言いたいことはある。

 ディネストもそれくらいはわかっていると思いたいものだが、期待できそうにもないとも思う。

 だから、はぐらかそうと思った。


「本気でやってよかったのか?」


 思った、のだけれど、口から出たのは挑発ともとれる内容で。

 案の定、ディネストは顔にさらに憤りを広めた。


「この、お前!」


 ディネストが上擦った声をあげながら拳を振り上げる。


「やる気か。俺も今度は手加減はするつもりはないけど」


 意外に高音が綺麗だな、と頭の隅で考えつつ、牽制のつもりで忠告まがいのことをする。

 冷静なユキトを見たからか、ディネストの拳も止まる。

 そのまましばらく宙をさ迷うと、行き先をなくしたままディネストの下へ戻った。

 そのまま彼はユキトの横を無言で通りすぎた。


 足音が遠くなったところで、ようやく吐き出したかったため息をつく。

 尻が汚れるのも構うことなく、ユキトは腰を下ろし空を眺める。

 どうにも、ディネストとの距離感が掴めないというのが最近の悩みになっている。今、特にそれを感じた。

 それと、ユキト自信も思いの外、ディネストへ友好的とはあまり言い難い態度を取っている。一年という歳月の中で、【勇者】という立場の中にいたが、どちらかと言えば子供の癇癪のように、意味もない感情の揺れがあることは自覚している。が、自覚がまだ実行に伴っていないことには気付いた。

 いくらなんでも喧嘩腰はまずいと反省をする。と、共に、こんな調子で大丈夫なのかととも不安になる。


「俺がしっかりしなきゃ、な」


 晴れ渡る空を見て、自然と口から呟きがもれた。

 よし、と一声出して三人がいる夜営した場所へ向かった。


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