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One more the BRAVE!  作者: It.
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第一話『別れの言葉。』


 異世界。魔法。剣。勇者。


 こんな単語には、どんな夢が込められるのだろう。

 どれくらいの憧れ、期待、希望が寄せられるのだろう。


 過ごしていた日々は、退屈なことも多かった。代わり映えのない日々に、少しの刺激を求めることもあった。だから、非日常という言葉に惹かれたことはまるで否定などできなかった。むしろ束の間ではあったけど、喜んだ。

 突然の変化。見知らぬ風景。

 いろんな考えを吹き飛ばしてワクワクした。まさか求めていたものが、望みの叶う幻想ファンタジーではなく、厳しく辛い現実リアルだとは思ってなかった。


 人が外敵相手に戦うのには武器が必要だ。素手でできることには限界がある。

 加えて。平和な日常を取り留めもなく過ごす人が、じゃあ頑張れよ、の一言だけで化物相手に何ができるのだ。


 異世界。魔法。剣。勇者。


 その言葉の裏側には、もっと大切なものがあった。


 日常。命。


 失ってその大切さに気付いたものだった。

 


 喚ばれた【勇者】はただの【学生】だった。

 もういつの日だったか、学校に忘れ物をして暗い校舎を歩いていた時、教室から不思議な暗い明かりが見えてた。自分の教室だったし、何なのか気になったのもあって入ってみれば――――気付けば見知らぬ森の中だった。

 そこからは森でいきなり熊っぽいなにか(キラーベアー)に襲われかけ、それを通りかかりの人物に助けて貰い、村に連れてかれた。まだ状況整理が出来ておらず、ありのままに喋ってみれば、勇者ではないのかと言われ王都へ連行された。

 王都に着けば、まずは城に通され、異世界召喚をしたこと、勇者として魔王を討ってほしいこと、帰る方法は魔王を倒せばあるいは、なんてことをなんちゃらかんちゃら説明され、多少多めの路銀だけ持たされ、旅の仲間として【召喚の巫女】が付いてくるだけで、さようなら。

 展開に付いていけずに途方に暮れつつも、良い仲間にであったことで少しずつ進み出していった。


 後にして思う。剣の一つも、異世界ですら魔法を、ろくに扱えなかった自分が拳を頼りにできた理由である、少なくない幸運はその良き仲間だろう。親友とさえ呼べる相手もでき、想いを寄せる相手もでき、信頼し、信頼される関係となった仲間。


 彼らと一緒に過ごした日々は、喜びと興奮、不満と悲しみを織り交ぜながら、指の数では到底足りない死地の数々をくぐり抜け、先日、ようやく魔王を討つことが叶った。満身創痍での勝利ではあったが、その日の夜、大陸を渡り、長く濃密な体験を共にした仲間たちとささやかに上げた祝勝会を忘れることはないだろう。

 だからこそ、自らの世界に帰るため、皆に別れを告げた日も。惜しむ気持ちもあったが、元は地球の住民のため、いつまでも異世界に【勇者イレギュラー】が居続けるのはあまり良いことではない。

 密かながら、互いに思いを募らせていた相手、【召喚の巫女】のアリスティとは、別れの間際に向こうは常に身につけていたネックレスを、こちらは旅の間も持ち続けた、自分が地球にいた証でもある制服のボタンを交換した。その二つを魔力糸パスで結ぶことで、世界が違えども互いを感じることは出来るらしい。

 別れの儀式の時、仲間たちが目敏くも首にかかったアクセサリーが変わっているのを見付けられ、からかわれたのも恥ずかしながらも微笑ましく、別れの近さに淋しくなった。


 そして、別れの時。

 送還魔法陣の中心にたち、友に旅をした仲間たちを見る。

 気付けば、勝手に口が動き、ひとりひとりと思い出を確認しあい、感謝の言葉を述べた。それだけでもう視界は滲んでいたが、目の前に列を作る仲間の中にいるはずのない『彼』が見え、ずっと言えずにいた感謝の言葉を送った。『彼』が微笑んだ気がするのは、きっと気のせいじゃないだろう。

 静かに泣く【勇者】に声をかけたのは、【召喚の巫女】だった。

 【勇者】は最後に、想い人である彼女へ語りかけた。

 弱くてごめん、と【勇者】は言った。

 【召喚の巫女】はそれもあなたの優しさの一部だ、と言った。最初は嫌っていた私を、いまは受け入れてくれていることも、とも。

 成熟しきれない精神は弱く、されどそれが優しき証でもある【勇者】は、彼女の言葉に『ありがとう。俺は、お前をこの世界で一番好きだ』と、何よりも強い想いを伝えた。

 それを最後に、魔法陣にアリスティが魔力を流す。

 じゃあな、仲間たちにそう告げ、彼らの思い思いの返事を耳に聞き入れた瞬間、視界に目一杯の光が入り、意識が暗転した。





 異世界への招待は、唐突であるがために不満もあった。けれど、その不満と付随した不安、危険を乗り越えたことで、弱い自分を少しでも乗り越えれた。

 だが、さすがに二度も同じ経験をするのはごめんだ、と、元【学生】、元【勇者】、現在は【??】のユキト・オームラは思わずにはいられない。

 意識が目覚め、まず状況を確認してみれば――――見覚えのない森の中にいた。

 地球じゃないと分かった理由は、いつぞやの時とは違い、辺りにある植物や樹木の観察したためである。地球にはないであろう植物、そして虫がいた。

 決定打には欠けたが、むやみに動かない理由にはなり、川を見つけ出して一夜を過ごそうと夜を迎えた。夜になって見上げた夜空には、光を反射させた星が二つ昇っていた。

 見たことのあるその夜空に、ユキトはどうしようもなく不安に駆られるのだった。

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