とある勇者と魔王の話
とある勇者と魔王の話
「まさか、女勇者に負けるとはな……」
魔王の首には勇者の剣がピタリと付けられていた。
少し動けば、魔王の首は切れるだろう。
「早く殺せよ。もう魔力も残っちゃない。俺の負けだ」
諦めたように遠い目をする魔王に女勇者はニヤリと笑う。
そして一気に剣を振り上げると……
「そう簡単に死なすとお思いですか?」
魔王の目の前でピタリと剣を止めた。
その行動に魔王は不機嫌そうに眉をよせる。
「何を…」
「貴方はわたしに負けた。ならばわたしの命に従うのが普通でしょう?」
「……何を望むというのだ」
勇者は笑った。
「わたしは貴方に負けたことにしてください。そうすればきっとこの城にはまた新たな勇者が来る。その勇者をどうか魔王城で過ごさせてあげてほしいのです」
「はぁ?」
魔王は分けが分からないといった表情である。
「たとえ、今の魔王が死んでも、また新たな魔王が生まれる。そしてこの勇者と魔王の戦いは永久に終わることはない。そうでしょう?」
「――そうだが」
「どうか頼みます魔王よ。あなたが思っている以上に勇者たちは傷ついているのです」
そう言った勇者は、泣いていた。
「今のままでは、あまりにも傷つく人が多すぎる」
その涙があまりにも綺麗で、魔王は頷いてしまった。
それが全ての始まり。