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それからの話


それからの話



 「わたし、これからどうすれば……」


 暫く泣いた後、勇者様はそう呟きました。


 「お前が望めば元の世界に帰してやるけど、どうせ嫌だろ?」


 魔王様のお言葉に、勇者様は小さく頷きます。

 それはそうでしょう。

 この世界に召喚される勇者様は皆、元の世界から抜け出したいと思っていた人ばかり。


 どんな目にあっていたかは知りませんが、帰りたいと願う勇者はまずいないはずです。


 「では勇者様、この城で働いてみる気はございませんか?」


 落ち込む勇者様にわたしは笑顔で声をかけました。

 すると勇者様はびっくりとした表情でこちらを見ています。


 「――ここで?」

 「はい、そうでございます。何も不安がることはございませんよ。なんと言ってもここで働いている使用人は皆、元勇者様なのですから」

 「えっ?」


 わたしが後ろを振り返れば魔王様と勇者様との戦いが終わったのを見計らって出てきたのであろう現魔王城使用人の元勇者様がこちらを見ていらっしゃいました。


 「ようこそ魔王城へ」

 「勇者業おつかれさーん」

 「お腹すいてない?僕何か作るよー」

 「その前に着替えでしょ、馬鹿!ほらおいでよ、私の服貸してあげる」

 「アンタの服じゃデカイんじゃない?てか、お風呂が一番最初だって!」

 「落ち着けよ皆。勇者ちゃんびっくりしてるから」


 新たな仲間にウキウキした様子の彼らを見て勇者様はますます驚かれた様子です。


 「本当に……元勇者なの?」

 「えぇ、そうでございます。皆、だいたい貴方と同じような状況ですよ」


 傷ついた心を王に利用され、魔王を倒しに来た可哀想な人たち。

 傷ついた心を、また傷つけられた哀れな人たち。


 「魔王城は無駄に広いので、使用人が何人いても足りないくらいなんです。しかも、魔王様がアレでございましょう?」

 「何か言ったか?保乃花」

 「なんでもございませんわ、魔王様。さて……どうですか勇者様、ここで過ごされません?」


 その言葉に、勇者様はわたしの顔を見て、魔王様の顔を見て、そして元勇者様達の顔を見て……


 「よろしく、おねがいします」


 小さく呟いた声は、それでもきっちりとわたしの耳に届きました。


 「えぇ、よろしくお願いいたします」


 「よろしくー」

 「おっし!コレで一番下っ端卒業だっ」

 「配置どうしようかなー」

 「部屋用意しなきゃだね」

 「買い物も行かなきゃ!これから忙しくなるねー」


 浮き足立つ使用人たちに魔王様は呆れながらも優しい笑みを浮かべています。

 本当に、この魔王様は優しい方です。


 「あぁ、そうでございました勇者様。貴方様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」

 「あっ、わたしは……香奈、樋口香奈です」

 「香奈さんですか、分かりました」


 傷ついた勇者様。

 もう傷つく必要はないでしょう。


 「ようこそ魔王城へ。ここは楽しいですよ。香奈さん」


 わたしの言葉に、勇者様、香奈さんは満面の笑みを浮かべて……


 「ありがとうございます」


 そんな彼女を見て、わたしは幸せになればいいなと、心から思いました。


 「よし!んじゃお風呂行きましょう」

 「わわっ」 

 「ねぇねぇ、どういう服が好き?」

 「服は、えっと……」

 「香奈ちゃーん、なんか食べる?」

 「えっと、その」


 使用人に連れられた香奈さんは戸惑った様子だけれど、少し嬉しそうでした。


 「あぁー疲れた」

 「お疲れ様でございます魔王様。本日もすばらしいご活躍でございましたわ」

 

 せっかく褒めて差し上げたのに、魔王様は不機嫌そうなお顔です。

 何が不満というのでしょう。


 「あの日お前に負けたのは俺の人生最大の汚点だ」

 「あら、失礼な。魔王様だって、実は今を楽しんでいらっしゃいましょう?」

 「ばーか」


 踵返す魔王様を追いかけます。

 

 「さぁ魔王様。次の仕事に参りましょう」

 「はぁ!?まだ仕事させるのかよ」

 「もちろんでございます。勇者様がお見えになったことで通常業務がたまっていますし、後処理もございます」

 「本当、お前と出会ったことは俺の人生最大の汚点だ」

 「あら、わたしは魔王様に出会えてようございましたわ」

 「言ってろ!」

 

 ×月×日。天気は晴れ。

 本日も、魔王城は平和でございます。



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