クシ玉物語(木花開耶物語 番外編)1話
本編には直接関わってこない物語です。番外編4.2話がサク(開耶)視点で展開したので、こちらはクッシー(夏澄)と玉ちゃん(美七)視点の同じ時間の物語を書いてみよう、という作品です。
ネタバレをしない為にも、前書きはこの辺で切り上げます。
読み辛いところもあるかもしれませんが、是非読んでみてください。
あらすじ……
市立南海高等学校に通う主人公・木花 開耶(愛称・サク)は親友・神屋 春樹(愛称・ハル)の突然の欠席に落ち込んでしまう。
それにいち早く気づいた仲良し四人組の残り二名、櫛灘 夏澄(愛称・クッシー)と豊玉 美七(愛称・玉ちゃん)は、サクを元気づける為、昼食に誘う。しかしサクはそんな二人の厚意も知らず、教室を出ていってしまう。
この物語はその後の教室で在った二人の物語……。
――午後十二時十六分
「じゃ、二人で食べよっか~」
私は後ろでそわそわしている玉ちゃんにそう告げて、自分の席に向かって歩き出した。
(そういえば、玉ちゃんと初めて知り合ったのは、去年の今ぐらいだったっけ? それにこう二人きりになるのは、出会ってから初めてじゃないかな……?)
ふと記憶を辿った。
――出会い
同じ中学の出身で、去年も同じクラスの友人・ハルの誘いで、クラス親睦会に出席した。その時に、同じクラスでわりかし仲の良い男子・サクから紹介された友人が彼女だった。
後で知ったんだけど、このクラス親睦会はハルが(内緒に)準備した合コンだったらしい。私はなんとなく気づいていた(仲の良い女子を誘って来てくれ、とハルに言われてたからだ)。しかし集まったのは私とハル、サク、玉ちゃんだけだったので、予告通りのクラス親睦会になったらしい。あれから今ままで、いや今も二人はあれをハルの厚意で開催した親睦会だと信じている。事実、サクはハルにとって大切な友人となった。私も玉ちゃんと出会え、仲良くなり、大切な友人が一人増えた。結果だけ見ればすべてうまくいっている。だから、私も黙っていることにした。この関係を壊したくなかった。
――みんなが笑って居られる日常
これ以上幸福なものは無い。だから私はそれを目指す。たとえ辿り着くまでに、自分を何度も裏切ることになったとしても……。
――去年の夏休み
八月の中旬、サクの提案で南海市の夏祭りに、いつものメンバーで参加した。
「お待たせ~」
私は気合を入れて、浴衣を着て行った。浴衣の着付けが手間取ったせいで、待ち合わせの時間に少し遅れてしまった。
「いいよ、まだハルも来てないし」
待ち合わせ場所にはサクと玉ちゃんしか居なかった。ちなみに玉ちゃんは普通に私服だった。
周りは夜店に向かう人の通り道のようで、すごく賑っていたのがとても印象的だったから鮮明に覚えている。そして道行く人の視線が不思議なモノを見るように私を見ていたのも……。
この夏祭りはとても規模の小さいもので、やって来るのは市民と隣の町の人ぐらいなもの。当然、その中に浴衣を着るような気合の入った人など居なかった。そういう意味で私は、周りの人から異端視されていた。
それでも「帰りたい」とは思わなかった。知らない人に何と思われても構わなかった。それよりも二人が素直に「似合ってるね」と言ってくれた事の方が、私をここに繋ぎ止めて置くのには充分過ぎる理由だった。
不意に泣きそうになった、でもここでは笑顔で居たかった。だから自分の泣き顔を殺し、涙を棄て、満面の笑みで返す。
「ありがと♪」
このやりとりが終わるとちょうど、ハルが駆け足で来た。
「ごめん、ごめん。寝てた……」
手を合わして謝る彼が可笑しくて、笑ってしまう。それを見て、サクが、ハルが、最後には玉ちゃんも笑い出す。ハルの寝坊は今に始まった話ではないし、それを咎めたところでハルには無意味。その時は反省するが、次に活かされることは決して無いのだから。だからハルの謝る光景は、見飽きるほど見てきた。それは既に私の中で「呆れ」を通り越して「笑い」となっていた。
その後はいつも通り、みんなでワイワイ騒いで夜店を回った。特に目新しい物が在るわけでもなく、普通ばかりが立ち並んでいたが、私にとっては夏休みで最高の思い出となった。理由は単純明快。みんなと一緒だったから! ただそれだけ。
――去年の体育祭
保健委員の私は、救護テントの下で怪我人の手当てが優先のため、どの種目にも出場できなかった。それに関して知った時、私に反論は無かった。特に出たい種目も無かったし、このクラスの誰もが優勝など狙っていなかったし、少し面倒にも思っていたから。
しかし、個人の種目決めになって事は起きた。いつもこういう時は寝ている彼が、挙手して発言する。
「やるからには勝ち、目指そーぜ!」
教室は一瞬、静まり返ったが、サクが一人拍手をした。それに便乗して他の生徒も賛成しだした。こうして私を除く私のクラスは一致団結して、優勝を目指した。最初は嫌がっていた生徒も、ハルのしつこさに負け、一人また一人と放課後の練習に参加するようになった。
当日、見事な体育祭日和になった。
炎天下で行われた体育祭は、当然の如く熱中症者を出した。救護テント内は忙しさを極め、全く競技を見ることができなかった。
それは昼が過ぎても変わらず、落ち着いたのは最後の競技の中盤が過ぎてからだった。なまじ競技に出た方が楽だったかも、と後悔しながら、最後の種目・クラス対抗リレー一年の部を見た。私のクラスは練習の成果を存分に発揮して、二位と半周差をつけて独走していた。
ちょうど、次のバトンをもらうのはハルだった。綺麗なバトンパスでタイムロスなく、ハルはスタートした。ハルはどんどんスピードを上げた。最下位の走者と並んで走っていた姿は明確に覚えている。
応援席でみんなが「抜かせー!」とか「がんばれー!」とか言ってるのが、とても悔しかった。私もそちら側に居たかった。そう後悔したのが馬鹿みたいに思える出来事が起きるまでは……。
「よう、クッシー。救護、お疲れさん」
今までグラウンドを走っていたハルが、私の目の前に居た。当然、私は慌てた。何がどうなっているのかさっぱり分からなかった。夢かと思ったが、現実だった。そして彼は言う。
「一緒にゴールしようぜ。だから、走るんだよ。何でって、……クッシーが手当てしてくれたから、今のクラスが在るんだ。クッシーもクラスの一員だ! だから最後は一緒に、だ」
とてもうれしかった。放課後の練習が始まってから、クラスの誰とも話せなくなった。自分は仲間外れになってしまった、としか思えなかった。いつもの楽しい昼食の思い出が、帰ってから何も思い出せなかった。そんな苦痛な日々は今日で終わり。団結していたクラスは、またバラバラになる。
本気でみんなを恨んでいたのが、馬鹿らしくなった。みんなは私に近づこうとしていたのに、私が勝手に勘違いして避けていただけだった。
その時、私は保健委員になったことを後悔した過去の私に後悔した。
そして私はハルに手をひかれて、トラックに出た。他クラスの生徒達や教師達がざわついていたが、関係無い。そんな事よりも、今は「一緒に走ってゴールする」という事の方が私にとって最重要だったから。
それから私はハルと一緒にゴールテープを切った。ゴールにはサクと玉ちゃん、その他にもクラスメイト達が待っていた。みんなが私達を持ち上げて胴上げをしてくれた。突然の事だったけど私は快く受け入れることができた。私は独りでは無かった。こんなにも、同じ感情を分かち合える人たちが居ると気づいた。
しかしながら、リレーを一位でゴールした私達のクラスは、優勝する事は無かった。
原因は私の参加だった。私の途中参加が不正行為とされ、リレーの得点は二位のD組に取られ、私達は反則負けとなった。
リレーの得点は私達の優勝計画には必須条件で、これが無ければ優勝することはほぼ不可能だった。結果として、私達は優勝できなかった。
「みんな、……ごめんなさい」
片付けを終え、教室にみんなが帰って来たのを見計らって、私は言った。深々と頭を下げて目を瞑った。みんなの視線が私に集まった。
(分かってる。みんなきっと怒っているだろう。私がハルの無鉄砲な考えに乗らなければ、クラスは優勝していた。私は責められて当然なの……)
しかし、私を責める言葉は一向に聞こえてこなかった。あの時、聞こえたのはだんだん近づいてくる足音だけだった。
足音が止み、私が目を開けると、足元には誰かの靴があった。靴から足を辿りだんだん顔を上げていくと、そこにはよく見知った人物が居た。彼は言う。
「胸、張れクッシー! 誰が何と思ったって、クラスの優勝は変わらない! あんなもん誰も気にしてねーよ。そうだろ、みんな?」
ハルの問いかけにみんなは、拍手や奇声などを発して賛同した。中には、「クッシーだって、頑張ったし」と言ってくれる子も居た。
そして私はまたハルに手をひかれ、教壇に上がった。そこでハルは宣言する。
「クラスの一員の完走と、クラスの優勝を祝して、ここに来年も優勝することを誓う!」
言うまでも無く、みんな大賛成だった。
――去年のクリスマス
丁度、部活も休みですることも特に無く、家でゴロゴロしていると、携帯に一通のメールが届いた。
送信者:サク
内容:クッシー、暇? 暇なら今日、みんなでクリスマス会やろうと思うんだけど、適当に女子誘って、サクの家、来てくんね?
文面から察するに、送ったのはハルだとすぐに分かった。おそらくサクの携帯を借りてやったのだろう。どう考えても「サクの家、来てくんね?」は可笑し過ぎる。読んでて笑ってしまった。
しかしもう一つ思う事もあった。ハルがまだ合コンを諦めていない、という事。最終的にみんなが楽しめるものなら、私も大賛成だが、みんなの知らない人を連れて行ったとして、お互いに楽しめる気がしない。それならば、と私はあの子を誘うことにした。メールの返信は「いいよ、サク」にした。
そして木花家到着。
「お邪魔しまーす」
呼び鈴を鳴らして、誰も出てこなかったので、遠慮なしに中に入って行った。
「……勝手に入っていいんでしょうか?」
彼女は心配そうに私に尋ねてきた。笑顔で「大丈夫、大丈夫」と言って奥へと進む。実を言うと、サクの家に来るのは、これが二回目だ。一回目は、夏休みに(ハルの)勉強会に付き合った時に訪れた。だから中は把握済み。私は居間に繋がる廊下を抜け、扉を開いた。
――パン、パン
開くと同時にクラッカーが鳴った。やったのは当然この家に居る二人。
「よう、クッシー。(女子連れて来てくれて)ありがとな。で、クッシーは誰を誘ったのかな~」
そう言って、私の後ろでクラッカーの音に驚いて、縮こまっている彼女を見た。
「って、玉ちゃん!?」
そう、私が呼んだのは玉ちゃんだった。やはりハルの思惑通りになるのは、無視できなかった。そんな理由もあったけれど、本音を言えば彼女だけ誘わないのも無視できなかった。
「な~に~、ハル? 玉ちゃんじゃ、いけないの?」
「……そ、そんな事、無いよ」
私に考えがバレていると分かったハルはたじろぎながら言う。彼の言葉には全く説得力が無かった。後ろで静観していたサクが寄って来て、ハルをフォローする。
「玉ちゃんの私服姿がかわい過ぎて誰か分からなかったんだよ。……たぶん」
何についてのたぶんなのかは、突っ込まないことにした。そこまですると(良い意味で)関係ない玉ちゃんまで被害を受けない、とも言えない。ハルへの制裁はこの辺にして、私は来る途中で買った沢山のお菓子とジュースをサクに渡した。
「おー、こんなに? こっちで用意した分より多いよ。ありがと、クッシー」
「そんな事よりも、みんなで楽しもうね♪」
私は釘を刺すように言って、奥で放心状態になりかけているハルを、起こした。
クリスマス会は思ったよりも楽しいものだった。プレゼント交換、サンタについての思い出話、クリスマスケーキの創作、ツリーの飾り付けなど、いろんな事をした。
それは私の中で、とても楽しい思い出となった。
――今年のお正月
今回は私がみんなを誘って初日の出と初詣に行く、と決意した。振り返れば、私はいつも受け身ばかりだったから、「今回は」という考えが在った。しかし思いついた時は不安でいっぱいだった。
(みんな来てくれるかな……? もう違う人と約束してるかな……? みんな忙しいかも……?)
マイナスな考えばかりが浮かんで、私は一斉送信メールの送信ボタンを押すのに戸惑った。
結局、思いついたその日にメールを送ることは出来なかった。私は私が嫌になった。
次の日、冬休み中だったけどテニス部の活動日なので、学校に行った。
部活は午前で終わったけれど、私の迷いは全く解決してなかった。その日の部活に出て、良かったことは十二月三十日~一月五日までは部活が休みと知った事と、一時的にとはいえ、悩みを考えなくていい時間が在った事。
しかし逃げていても何も始まらない。それは分かっているが、勇気が不安を上回らない。
そんなどうしようもない戦いが続き、気づけば家に着いていた。あの時は昼食を食べる気にならず、すぐに部屋に行った。部屋に着くとベッドに倒れた。
(あぁ、どうしよう……)
そんな事をずーっと考えていると、いつの間にか寝てしまった。夢の内容はとても人に言えるものではなかった。
それは置いといて、私が目を覚ますと辺りは薄暗くなっていた。目覚まし時計に手を伸ばし、時間を確認すると午後七時を示していた。冬は日が早く沈むので一日をとても短く感じる。
昼に寝始めたので部屋に明りは点いていなかった。そのはずなのに、部屋の中は青色の小さな光が規則的に点滅していた。寝起きの私は、それが携帯の「着信有り」のことだと気づくには、相当時間がかかった。机の上に無造作に置かれた、私の少し傷ついた折り畳み式の白い携帯を取る。受信メールは三件。送信者と内容は……。
送信者:ハル
内容:よう、クッシー。一月一日ってテニス部休みかー? 休みならみんなで、はつもうで行こうぜ! ってか行くぜ! 準備しとけよ。寝坊すんなよ!
送信者:サク
内容:こんにちは、クッシー。一月一日の事なんだけど、もしも部活が休みならみんなで、初詣なんてどうかな?
送信者:玉ちゃん
内容:こんにちは、一月一日なんですけど、皆さんで初詣に行きませんか? 弓道部が休みなので、もしかしたらテニス部も休みかと思って、違ったらすみません……。
このメールは、今も私の携帯の奥底に在る。消すなんてできない、何よりも大切なメール。この時の事は「今まで生きてきた短い人生の中でこんなにも嬉しかった思い出」として私の心に刻まれた。
メールの返信はもちろん「行く!」だが、勇気を振り絞って一つ付け加えた。
送信者:クッシー 受信者:ハル、サク、玉ちゃん
内容:もっちろん、行くよ! でも初詣もいいけど、みんなで初日の出も見に行かない? 南校の近くにある山ならきーっと綺麗に見えると思うの……。どうかな?
返信は言うまでも無い。今年の一月一日は、朝から夜までみんなと一緒に過ごせてとても楽しかった。
小学生みたいな感想かもしれないけど、あの一時は本当に「楽しい」という言葉以外で表すことはできない。きっとこれから先、様々な言葉を知っていくかもしれないけど、この時の事を表すのはやっぱり「楽しい」しかないと思う。
――午後十二時五十分
「あ、あのぉー、大丈夫ですか?」
私は、箸でミニトマトを持ったまま、ずーっと考え込んでいる(ように見える)彼女の顔を覗き込みながら言った。
彼女が何かを考え込んでいる内に昼休みは随分過ぎました。そして彼女は、まだ半分以上残っているお弁当を急いで食べ始めました。
「そ、そんなに、急ぐと危ないよ……!?」
私が心配して言ったけれど、彼女は「大丈夫」と言って、ご飯を頬張り続けました。
しかし彼女の動きは三秒ともちませんでした。彼女は顔を真っ赤にして噎せ始めました。私は急いでコップにお茶を注ぎ、彼女に渡した。彼女はお茶を一気に飲み干すと、一息ついきました。私は彼女が少し落ち着いたのを見計らって、本当に大丈夫か尋ねました。
「……大丈夫?」
「うん、もう平気。いや~、死ぬかと思ったよ。ありがとね、玉ちゃん♪」
そう言ってコップを返してくれました。その屈託のない笑みを見ると、彼女がどんな失敗をしても許してしまいます。そんな魅力が彼女には在るのです。
当然、彼女は私の憧れの人です。 勉強ができて、いろんな人から好かれて、居るだけで場が和む、そんな存在の彼女はたぶん全生徒の憧れだと思います。私には無いモノをたくさん持っている彼女に、勝るモノを私は何一つ持っていない。
その事に関して彼女を恨んでいるわけじゃないの。ただ……同じ人間、いえ同じ女の子なのにここまで違うのは何でだろう、って思っただけです。
こんな風に思い始めたのは、彼女と仲良くなってすぐでした。彼女の周りは常に人が居て、彼女はその人たちに必要とされていました。そんな彼女を見る私は、いつも独りで、誰からも必要とされていませんでした。
ある時、自分の席で読書をしていると彼女が私を訪ねてきました。
「ねぇ、豊玉さん。読書もいいけど、今日はみんなとお喋りでもしない?」
そんな誘いを受けたのは生涯で初めての事で、当時の私はとても戸惑いました。今となっては、どうしてそんな事で戸惑ったのかが不思議に思えます。
結局、あの時の私は何も答えませんでしたが、そんな事はお構いなしの彼女に連れられ、クラスの女子の輪に入りました。最初は当然、その輪に入っても何も話せませんでした。
しかし彼女だけは、諦めず私に何度も話題を振ってきました。その内みんなが……
「豊玉さんって何が好きなの?」
「趣味は?」
「何部だっけ?」
と、まるで転校生にするような質問を訊いてきました。しかしそれも仕方が無いことだったのです。当時の私はとても閉鎖的で、一日クラスの誰とも会話を交わさない日が日常的でした。
そんな私を変えたのは、紛れもなく彼女です。だから、私が彼女を恨む事など一つも在りません。私に無いモノを持っている彼女が居たから、何も持っていない私の「今」が在るんですから。それに、開耶君(口には出せないけど)と仲良くなれたのも、春樹君とも知り合えたのも彼女のおかげだから……。
でも最近、私が悩んでいる事は彼女との関係についてです。
彼女はとても面倒見が良くて、私みたいに一人ぼっちの人を、ほっとけなかったんだと思います。じゃあ、もしも私が普通の女の子だったら、彼女は私と仲良くなってくれたでしょうか?
私にとって彼女は尊敬すべき人であり、良き友達です。しかし彼女にとっての私は「助けるべき対象」でしかない、のかもしれないと思うのです。
要するに「私は彼女を友達と思っているけれど、彼女は私の事を友達とは思っていないのかもしれない……」という事について悩んでいるのです。
(クラスで、いえ学校で有名な彼女と、近くに居られて舞い上がった私の勘違いだったのかな……? それとも彼女は純粋に独りだった私を助けただけで、私が勝手に彼女に付き纏って居るのかな……? 今訊いてみようかな……?)
――午後十二時五十五分
「え、えーっと、あの、その……。」
「ん? どしたの? ……そういえば、サク遅いね~」
流石に直接訊く程の勇気はありませんでした。開耶くんの事も心配ですが、聞けるチャンスは今しかないと思うから……頑張ります。
「そ、そうですね。……あの、その、変な事訊きますけど、どうか答えてください。わ、私って、夏澄ちゃんの……友達です……か?」
言えた。勇気を振り絞って、今まで疑問だった事を自分の力で何とかできた。昔の私だったら、疑問を疑問のままにしていたかもしれないけど、私、変わったんだ。
たとえこの質問の答えが、とても残酷なものでも受け入れる覚悟ができました。私はしっかりと彼女の眼を見た。
「えいっ」
彼女に軽く頭を叩かれました。それが質問の答えとは思えずにきょとんとしていると、彼女は話してくれました。彼女にとっての私を……。
「もう、ホントに変な質問だね。玉ちゃんが私の友達じゃないって、ありえないじゃん! 誰かに何か吹き込まれたり、自分自身を下に見て『私なんか』って思ったりして、そんな事訊いたのなら、しっかり言ってあげる。玉ちゃんは私のホントに大切な友達だよ」
そう言って彼女は私の手を握ってくれた。彼女の手はとても暖かくて、まるで彼女の優しさに触れているようでした。
「実はね、初めて玉ちゃんを見た時、昔の自分と重なったの。……小学校に入学した頃の私って今みたくなくてね、いつも独りだったの。そんな時、ハルが声をかけてくれたの、『お前も一緒に遊ぼーぜ!』って。それから私、とっても変わった。
……だから玉ちゃんにも、そういう人が現れたら変われると思った。けどね、現れるのを待つんじゃなくて、私がそういう人になればいいって分かったの。昔の私みたいな、独りで寂しい気持ち、もう誰にも味わってほしくない」
彼女の手を握る力が少し強くなった。彼女が強い信念を持っているのが、手を通して私にすごく伝わりました。
今日、私は彼女の過去を初めて知りました。そして私は勘違いをしていました。彼女は最初から面倒見が良くて、みんなから好かれる人ではありませんでした。彼女も普通の女の子だったのです。普通の女の子と同じように、努力して、自分の殻を破って、みんなに認めてもらったんです。
そして今は普通の女の子の殻を破る手助けをしているんです。
「……やっぱり、夏澄ちゃんはとてもすごい人です」
と、言った時にはもう彼女の姿は私の前に在りませんでした。教室を見回すと、ここから少し遠くの方にある、人だかりの中心に彼女は居ました。
私の小さな呟きは、彼女を訪ねて来た多くの生徒によって掻き消されてしまいましたが、こちらに向かって見せてくれた彼女のピースサインと笑顔が、私の言葉が「しっかり聞こえた」と言っているように見えました。
果たして、救った者と救われた者。両者を繋ぐ絆は永久に続くのか……。
この先も続くお話……かもしれないので一応1話として置きました。
続きはまた二人が二人きりになった時にでも……
本編の5話の方はdNOVELsでAパートのみあげて在ります。
残念ながら、まだ書き上がってないので、こちらの方に上げる目処は立っていません。
早めに続きを書く気はあるので、出来れば今月中には……と考えてはおります。
では、お読み頂きありがとうございました。次回も宜しければ読んでみてください。
by crow