木花開耶物語 番外編 12話C
12話B同様、12話Aのまえがきを12話全体のまえがきとしますので、ご了承くださいm(__)m
――お化け屋敷
僕達は順調に[二、中]へと上がり、[三、中]へと続く階段を確かめた。
「やっぱり、開いてないか」
予想通り、そこも[一、前]と同様に踊り場から先が瓦礫で埋まっていた。しかし、落胆はなかった。むしろ、僕は自分の考えたゴールまでのルートに確信を持てた。
その事を二人に伝え、僕達は[二、前]へと進んだ。
道中、特に脅かし役に遭遇する事もなく、無事[二、前]の階段へと辿り着いた。
「此処は開いてる……よし」
僕の予想が的中し、二人のモチベーションも上がる。
「やっぱり、サクが居ると安心ね~」
「うん、頼りになる……!」
面と向かって褒められると中々気恥ずかしく、僕は聞こえなかった振りをして先に階段を上がった。
三階に到着、辺りを見回すが特に目新しい物も無かった。
(そろそろ、何か仕掛けがある頃かと思ってたけど……勘繰り過ぎかな)
「上がって来ても大丈夫だよ」
しかし、踊り場から数段上がった所で二人の足はピタリと止まる。
「えっと、サク。それも、またお友達?」
「え?」
振り返ると、そこには左半身と内臓を丸出しした人体模型が立っていた。
(やっぱり出たか……!)
しかし、僕に焦りはなかった。それは骸骨の一件で脅かし役は決められた動作しか行わない事が把握済みだったからに他ならない。
(コイツはどんな動きをするのか……)
そんな調子で人体模型を見ていると、不意に僕は人体模型と目が合う。
すると、人体模型の目が見開いた。
その直後、急に両手を広げて突進して来た。
「ちょっ、お前、その硬さで当たったら怪我するだろ!?」
けれど、避けるにも僕の後ろにはクッシー達が居る。そんな事をすれば、この危機を抜け出した後、何を言われるか分かったものではない。
(ここで食い止めるしかない、か)
意を決し、僕は人体模型のがら空きとなった腹部へ思い切り蹴りを入れた。
「あれ、柔らかい……?」
人体模型の身体は、くの字に折れ曲がり、現れた部屋の扉(絵)に強くぶつかった。そして、うつ伏せに倒れ、動かなくなった。
「ふぅ……骸骨と同じ強度だったら死んでたよ」
一息吐いていると二人が階段を駆け上がって来た。
「大丈夫、サク!?」
「ぁわわっ……!?」
「うん、何とかね。人体模型ももう動かないみたいだし、先へ進もう」
「そ、そうなの……?」
それだけ告げて僕は[三、中]に向けて歩き出した。二人は人体模型を一瞥してからすぐに僕の後ろを付いて来た。
(たぶん、あれは目が合った者を襲う、または迫るという動作がインプットされている。今は大丈夫だろうけど、いつまた起き上がるかは分からない。一刻も早く此処は離れた方が良い)
直接危害を加える様な脅かし役はいないと、僕は高をくくっていたけれど、此処からは考えを改めて行かないと二人を守りきれないかもしれないと感じていた。
僕達が丁度[三、中]の下り階段を通り過ぎた頃、それは発生した。
最初に気づいたのは、玉ちゃんだった。
「ひゃっ……!?」
「どうしたの、玉ちゃん?」
「な、何か後ろで音がした様な……」
「後ろ?」
クッシーが目を凝らすと、確かに何かが動いていた。その位置は、階段より少し奥に行った所で、先程の人体模型とはシルエットが明らかに異なっていた。
「サク、何かこっちに来てる!」
「え?」
呼ばれて振り返ると、床から天井近くまで丈のある何かが不思議な音を立てて僕達に迫って来ていた。
「あれは……? とりあえず、殿は僕がやるから二人は走って[三、奥]の階段に!」
「分かった。玉ちゃん、行こう!」
「う、うん……!」
二人を先に逃がし、僕は目を凝らしてその正体を探った。
(木が軋んでいる様なこの音は何だ?)
その時、急にその物体に明かりが灯った。否、燃え出したのだった。
そして、やっと僕はその正体を肉眼で捉えた。
「あれは……火の車!?」
水車から羽根車だけ取り出した様な出立ちのそれは、燃えながらゆっくりとこちらに向かって来ている。
(逃げるか……? いや、さっきみたいに僕が食い止めるか……?)
二人の方を見ると、後ろを気にして走っているせいか、まだあまり離れていない。
(やっぱり、此処で食い止めてから合流した方が良いか……)
視線を前へ戻すと、意外にも火の車は停止していた。
「止まってる……?」
今が好機、と僕は二人の方へ走り出した。
「サク……!」
「どういう訳か知らないけど、止まってる今がチャンスだ! このまま階段まで逃げ切ろう!」
しかし、僕が走り出した途端、火の車も進行を再開した。しかも、さっきより速度が速い。
(なっ!? 急に止まったり、動いたり……コイツだけ遠隔操作されてるのか?)
そんな事を考えていると、先に走らせていた二人に追いつく。
「ゴメンね、サク。この格好だと走り辛くって」
「大丈夫だよ、クッシー。まだ距離はあるし、このまま行けば僕達の方が先に階段に着く」
そこで、僕はある事に気がつく。
「そうか。そういう事か……!」
「どうしたの、サク?」
「二人は先に階段に行ってて、僕は後で行くから」
そう告げて、僕は立ち止まった。二人も急いで止まった。
「……分かったわ。行こう、玉ちゃん」
「え、いいんですか?」
「たぶん、サクは何か理由があって残るんだから、大丈夫だよ♪ そうだよね?」
「勿論!」
「よし。じゃ、私達は先に行こう」
「……うん!」
二人が走り出したのを見て、僕は後ろへ振り返る。
すると、予想通り火の車は止まっていた。
「やっぱり、これも遠隔操作じゃなくて決められた動作を行っていただけか」
僕の読み通り、火の車の決められた動作というのは、最後尾と一定の距離を空けて近づく事だった。随分と不可解な動きをするので気づくのに少し手間取った。
「でも、絡繰りさえ分かれば後は簡単」
僕は二人に追いつかない様にゆっくりと[三、奥]の階段へ歩き出した。その後ろを火の車が追ってきたがその間隔が詰まる事は結局なかった。
――ハルと八千矛
六度目の分岐から少し歩くと七つ目の分岐に着いた。そこでも、ハルの予想は外れ、連続ミス回数は順調に更新されていた。
それから、三百メートル近く進んだが分岐はなく、当然その間二人の会話はなかった。
(あー、随分歩いたなあ。もしかして道に迷ったのか? ま、ヤッチーに限ってそれはないと思うけど……黙ってて言い出し辛いなら俺から話しかけるべきか? いや、でも、ヤッチーなりのけじめを無駄にするのも可哀想だしなあ……)
(あーあ、詰まんない。折角ハル様と二人きりになれたのに、敵地のど真ん中とか、はあ。もっとロマンチックな所で二人きりになりたかったなあ。
でも、タカナシの事も気にならない事もないし、まずは此処を抜け出さないとね。
ああ、もう、ハル様と話したい! けど、索敵に集中しないといざって時にハル様を護れないし……こんな所、早く出たい!)
それぞれの思惑を抱えた二人が更に少し進むと、第八の分岐に到達する。
「やっと分岐か。俺はてっきり道に迷ったのかと……あっ」
「ハ~ル~様、私が道に迷う訳ないでしょ~?」
「あ、ああ。勿論、信じてたぜ」
「嘘、絶対疑ってた」
「そ、そんな事はないぞ」
「じゃあ、ハル様。私への愛の力でここの分岐を正解できるよね?」
「は?」
「ハル様、頑張って♪」
(ちょっと待て。いくら俺がバカだからってこれはおかしいって気づくぞ。
つーか、俺にまでとばっちりが来るって事はヤッチー相当ストレス溜めてるな……)
ハルは考えるのを止め、分岐を見た。
直進の道と左に曲がる道、二者択一、正解がノルマで不正解時には何が起きるか想像つかない。
「んー……」
(ここは正解したいところだな。ずっと不正解ってのも性に合わないし、何より少しでもヤッチーの気が晴れる様に、俺は俺の出来る事をする!)
「今まで全部直感でこっちだ、って思った方を答えてたから……今回はその反対を答えればきっと正解――だから、ココは左だ!」
一瞬の静寂の後、八千矛がハルに跳び付いた。
「ハル様、すごーい♪ ホントに当てちゃった~!」
「ま、まあな。これが愛の力だ……たぶん」
ハルは自信が無さそうに目線を逸らした。
そして、二人は左の道へと歩き出す。
歩き出してすぐ、固く閉じていた口をハルは開いた。
「なあ、ヤッチー。タカナシセンセー、大丈夫かな?」
「……」
「俺達の方がこんだけ順調だと、逆にあっちは何かすげー仕掛けがあったんじゃないかって――」
「大丈夫だよ。タカナシも、ハル様も、神界では私の無茶に何度も付き合って生還してるんだから、そんな簡単に死なない」
(あれ? 俺、もしかしてヤッチーに励まされてる? いつもは励ます側の俺が? 何を俺らしくない事してんだかなあ、くそ!)
「……そうだよな。心配とか、不安とか、俺らしくもない。俺は黙って仲間を信じる、ただそれだけだ」
「うんうん。いつものハル様らしくなってきた♪」
「ぅおっし。出口まで走るぞ、ヤッチー」
「え、ちょっと、ハル様――」
ハルは八千矛の制止も聞かず、八千矛の手を強く握り走った。
無論、この時のハルに出口など見えていなかったが、先程の分岐が最後の分岐であった為、この時点で既に出口までは一本道だった。
二人が出口に辿り着くのは時間の問題だった。
――お化け屋敷
僕達は三階を無事脱出し、[二、奥]の階段前に居た。
三階で僕達を襲った火の車は案の定、階段で引っ掛かりそれ以上追って来なかった。
「サク! 無事で良かった~」
「そんな大袈裟な。これはゲームなんだから、ね?」
「それでも、仲間が居なくなっちゃうのは嫌だよ」
「ゴメン、ゴメン。今度からはしっかり説明してから行動するよ」
「うん。でも、サクの御蔭で私も玉ちゃんも何ともなかったよ、ありがとう」
「さ、木花くん、ありがとうございました……!」
「お礼なんていいよ。二人は僕が護るって約束だったし、当然の務めだよ」
そんな事よりも僕には気掛かりな事があった。
「たぶんだけど、この先に最後の仕掛けがある」
「まあ、出口の前だし、絶対何かあるだろうね。でも、分かってるだけ身構えれるし、今度は大丈夫、大丈夫」
「……これもたぶんなんだけど、第一発見者は二人の内のどっちかになると思う。今までの流れから推測すると、僕が先に行っても仕掛けは動かない。だから、先に降りるのは二人の内どちらか――」
「いいよ、私がやる」
「クッシー……」
「か、夏澄ちゃん……!」
「私はサクを信じてる。私と玉ちゃんを必ず護ってくれる、ってね」
「勿論、任せてよ」
「そ、それなら、私も夏澄ちゃんに付いて行きます……!」
「え、玉ちゃんまで無理しなくていいんだよ?」
「私も、さ、さ、開耶くんの事、信じてるから……!」
「よーし、作戦は決まった。後はそれぞれが頑張るだけね!」
「僕の方はいつでも大丈夫だから、スタートはクッシー達のタイミングで構わないよ」
「OK。玉ちゃん、準備いい?」
「はい」
「よーし、行くよ!」
二人が階段を降りだした時、佐久夜さんの声がした。
――よう、俺の出番か?
「いや、此処は僕が何とかしてみるよ」
――そうか。ま、頑張れよ
「うん、頑張るよ」
そう言って、僕も階段を降りた。
「きゃあ……!?」
玉ちゃんの小さな悲鳴が聞こえたのは丁度、僕が踊り場を抜けようとした時だった。
(仕掛けの起動が予想よりも早い……!)
急いで階段を降り、[一、奥]の廊下へと辿り着くとそこには――
「鬼!?」
身の丈、二メートル程の赤い鬼が階段正面の部屋の前に居た。
「二人とも僕の後ろに!」
「見てサク、あれ!」
僕の後ろに避難したクッシーが右を指差した。そこには開いた扉があった。
(微かだけど、光が見える。恐らく、出口だろう。二人を先に逃がすべきか? いや、ダメだ。
この鬼の行動が何か分からない以上は迂闊に動くのは危険だ)
「まず僕が囮になって鬼の注意を引くから、二人は出口に向かって。出られそうなら先に出て、出られなかったら扉を背にして鬼の動きに注意して待機、OK?」
「OK。行けそう、玉ちゃん?」
「だ、大丈夫です」
「よし。じゃ、スタート!」
僕は出口と反対側に走り出した。
「おーい、鬼さん。こっちだよ~」
鬼の視線は僕を追うものの結局は部屋の前から動かなかった。
(この鬼の行動は何なんだ? それが分かれば出口が開いてなかったとしても活路は開ける)
「サク! 出口、開いてない!」
「分かった。さっき言った通りにして」
「OK、玉ちゃんは私の後ろに――」
「う、ううん、私も頑張る……!」
「うん、分かった。サク、早くその鬼、倒しちゃって~!」
その時、急に鬼が動き出した。
(どうして、クッシー達の方に!? くそ! やっぱり、出口に近い者を狙うのか?)
考えている暇はなかった。
僕は、鬼の横っ腹に蹴りを入れ、部屋の壁にぶつける。
「今の内に、二人とも出口から離れて……階段前に行こう」
「分かった。行くよ、玉ちゃん」
「う、うん」
二人は倒れている鬼の横を通って階段前へと戻る。二人が丁度、階段前に着くと鬼も起き上がった。そして、やはり動きは止まった。
(出口が開かないのに、出口に近づくと襲ってくる? どうやってクリアするんだ?)
「ひゃっ……!?」
「どうしたの、玉ちゃん?」
「今、そこで何か動きませんでしたか?」
玉ちゃんが示すのは出口とは反対側にある階段側の部屋だった。
(そこはさっき僕が居たけど、特に何も無かったような……)
クッシーが目を凝らしてみると、段々とそれの姿が浮かび上がってくる。
「サク! もう一体、鬼が居る! 青い鬼が居る!」
「なっ!?」
(この状況で、もう一体追加だって? 難易度の調整がおかしいだろ!?)
「とりあえず、二人とも階段から離れて部屋の壁に沿ってこっちに」
「OK。行くよ、玉ちゃん」
「あ、危ない、夏澄ちゃん!」
その言葉でクッシーが振り向くと、青い鬼が拳を振り上げていた。
「ちょっと、マジ?」
「二人とも、走って!」
クッシーはやっと我に返り、玉ちゃんの手を引いて階段から離れた。
その直後、鬼の拳が振り下ろされ、階段の手すりを貫通し、床に穴が開く。
「はあ、危なかった……」
「早くこっちに」
僕はクッシー達と合流し、出口に背を向ける様に構え、二体の鬼の動向を窺った。
(考えろ。青い鬼の行動を考えるんだ。それさえ分かればこの状況を打破できる……!)
青い鬼はゆっくりとこちらに近づいて来る。赤い鬼は立ったまま動かないが視線はこっちを捉えて放さない。
「サク、どうする? どっちとももう距離がない感じだけど?」
「ゴメン、今のところ良い打開策はないかな」
「いいよ。最悪、私とサクで一体ずつぶっ飛ばせば無問題。私は赤い方に突っ込むわ、ははっ。
……でも、その時は合図、頂戴ね。心の準備はしたいから」
「大丈夫、絶対そんな無謀な策は決行しない」
その時、今まで静かにしていた赤い鬼がこちらに動き出した。そう、正に最悪の状況だった。
(くそ、アイツは出口に近付く者を襲うんじゃないのか!?)
すると、救いの声は意外にも自分にしか聞こえなかった。
――赤鬼に敵意を向けず、女二人を赤鬼に触れさせるんだ、開耶!
佐久夜さんの助言で僕はこの二体の鬼の昔話を思い出し、絡繰りに気づいた。
「二人とも赤鬼に敵意を抱かず、触れるんだ!」
「えっ、触れる? ぶっ飛ばすじゃなくて?」
「そう、赤鬼は敵じゃないんだ!」
二人は困惑顔だったが、僕の言った通り敵意を抑えると赤鬼の動きは止まった。
「行くよ、玉ちゃん!」
「うん」
二人は恐る恐る赤鬼に近付き、目一杯、手を伸ばしてそのお腹に触れる。その瞬間、ずっと怒った表情だった赤鬼の顔が笑顔に変わった。
そして、赤鬼は青鬼の方に歩き出した。
「二人とも大丈夫?」
「うん、何とかね」
「私も大丈夫です」
「でも、これって一体どういう事?」
赤鬼が青鬼と対峙すると、青鬼は相変わらず拳を振り上げた。
「童話の赤鬼と青鬼は知ってるよね?」
「あー、アレでしょ? 赤鬼の為に青鬼が一肌脱いであげる話」
「そう、これはそれを模した仕掛けだったって訳さ」
青鬼が拳を振り下ろすと赤鬼がそれを受け止め、諭す様に首を振った。
「プレイヤーは赤鬼と協力して青鬼を撃退するってシナリオで、赤鬼と協力するには協力の証としてプレイヤー全員が赤鬼に触れなければならない。そこで重要になるのが赤鬼の行動、赤鬼は敵意を向けた者のみ襲うというもので、青鬼の方は最寄りの者を襲うというもの。だから、敵意を抱かなければ赤鬼は動かなくなるって事さ」
赤鬼の説得で満足したのか、青鬼は拳を引き、赤鬼と共に[一、中]の方へ去って行った。
「これで出口が開くはず……」
「ホントだ、通れる様になってる」
「よし。それじゃ、早く出よう」
こうして、僕達はお化け屋敷をクリアした。
(最後のはミヤにしては中々難しい問題だったなぁ……もしや、ミヤ以外にも誰か制作に係わってるのか……?)
お化け屋敷を抜けると、そこには小高い丘があった。右手側は相も変わらず樹海が広がり、その上をどういう原理か、滝の様に水が流れている。左手側にはいつか見た洞窟が続いている。
「とりあえず、丘を上がってみる?」
「そうね。あれで終わりかと思ったけど何かゴールって感じじゃないしね」
僕達は丘を上がった。なだらかな坂が数十メートル続き、丘の上に到着する。
丘には、滝から流れる水を溜める窪みがあるだけでそれ以外は何もなかった。
(まさか、これに跳び込むと現実世界に通じるとかないよね……?)
僕がそんな不安を抱いていると丘の左手側から新たに人がやって来た。
「え? ハル?」
「は? サクにクッシーに玉ちゃん……どうしてこんな所に?」
「なーんだ、ハルもゲームに参加してたの?」
「何、コイツ等? ハル様の知り合い? 敵? 敵なら殺――」
「俺の友達だから落ち着け、ヤッチー」
「そうだ、ハル。私達、出口探してるんだけど知らない?」
「ハル様、この水溜まりの先から下界の気が――」
八千矛がそう言いかけた時、空から声がする。
「ぁああああああああああああっ!!」
一同が見上げると、滝からボートが降ってくる。そのままボートは丘の水溜まりへと着水する。
「げ、ニニギ!?」
「お前は『天孫』の片割れ!?」
「ニニギちゃん!?」
「ぅう、酷い目に遭ったわ……ぬ、佐久夜様――と、どこぞのザコではないか」
「ハル様の前で雑魚って言うな! 今度こそお前を葬ってやる!」
「おお、よいぞ。また、返り討ちにしてやるだけじゃ」
一触即発のこの状況に僕達は当然、ハルも理解が追いつかない様だった。
「ニニギ、落ち着いて」
「まあまあ、ヤッチーも。それは置いといて、俺達は脱出が最優先だろ?」
「そ、そうだけど……あれはいずれ確実にハル様の仇となる存在に――」
「それでも、だ」
ハルに諭され八千矛は静まる。相手の戦意喪失を見て、ニニギも静かになった。
「それで結局、出口はどこ?」
丁度クッシーが話を本題に戻そうとした時、異変は起きた。
「ちょ、何か揺れてない? 地震?」
「いや、これは……たぶん違う」
「空間の強制変更、もしくは強制解除、かのぉ」
「やっぱり今回の騒動、お前が一枚噛んでるのね!」
「言い掛かりも甚だしい限りじゃ! こうして私も害を被って居るではないか!」
「あー、もう。こんな時までケンカするなって」
揺れは次第に大きさを増し、皆はその場にしゃがんだ。
「えっと、これ。大丈夫なんだよね?」
「ぁわわわっ……!?」
「大丈夫。たぶん、すぐに止むから」
僕の言葉通り、それからすぐ揺れは治まった。
しかし、異変は継続していた。
「ちょっと、これは何!?」
クッシーが驚きの声を上げて足元を指差す。そこを見ると黒い孔が開いている。そこにクッシーが段々と沈んでいる。
辺りを見回すと、同様の現象が全員に起こっていた。
「大丈夫、落ち着いて。たぶん、これが出口だから」
「どういう事?」
「えっと、うん……あっちに着いたら教えるよ」
僕がそう言った頃には、みんな首から上しか残っていなかった。それで納得したのか、クッシーは頷いて目を閉じた。
僕も目を閉じ、現実世界に戻るのを待った。
こうして、一同が会した滅茶苦茶会談は幕を閉じるのだった。
EPILOGUE
――現実世界 上空
「解除は出来ましたか?」
「は、はい。全員、元の位置に戻して、空間の消滅を確認しました」
「分かりました。ご苦労様でした。
それで、どうしてこんな事をしたのか、話してもらえるのですよね、ニギハヤヒ?」
「そ、それよりも貴女様は何故、此処へ?」
そう訊き返すニギハヤヒの前には業務服に身を包んだ木花 秋穂が居た。
「変な神力を感知したので無理を言ってバイトを抜けて来たら、丁度あなた達が現場の周辺に居たので事情を聞こうと近付いたところ、まさか事の原因だったなんて……という流れですが、何かおかしな点でもありましたか、ニギハヤヒ?」
「い、いえ、滅相も御座いません! 至極当然の流れで御座います!」
「そう、それなら、早く理由を話して頂戴。私も暇ではないのですから」
「こ、これには深い事情がありまして……」
と、たじろぐニギハヤヒを横目に本当の元凶・ミヤはイワフネと話していた。
「あーあ、ニギハヤヒ様に悪い事しちゃったなあ」
「まあ、今までの嬢ちゃんへの冷遇の罰って事で清算じゃなぁ」
「んー、よく分かんないけどニギハヤヒ様がそれでいいなら、いいや。ってか、あれ誰?」
「何じゃ、知らんかったんか? あの人は――」
「イワフネ、貴方も共犯者らしいわね? こっちで詳しく話を聞かせなさい」
「む、ニギハヤヒの奴め……儂を巻き込み居って」
結局、一人になったミヤは秋穂の事情聴取が終わるまで船の縁から下を眺めるのだった。
――ハルと八千矛とタカナシ
「はっ、此処は……? 霊魂殿は……?」
タカナシはゴールまで辿り着けなかったが、強制解除に伴い空間を脱出できたのだった。
「元の街に戻ってる。結局あれは何だったんだ?」
「きっと全部あの阿呆の仕業よ。今度やったら問答無用で殺るから大丈夫だよ、ハル様♪」
「ははっ、程々にな」
二人の声でタカナシは状況を察し、八千矛の前で跪いた。
「主様、無事で何よりです」
「タカナシもな。
それで、お前はあの先の道で何を見た?」
「はい、あそこは神界の――」
「待て待て、二人とも。こんな所でそんな風に話すのは止めてくれ。周りからの視線が痛い」
ハルに言われて辺りを見ると、道行く人がみんな二人を見ていた。
「そうだね。じゃあ、私は一旦、陣に戻るね、ハル様♪」
「ああ、俺は今から遊ぶ約束だから夕方には帰る」
「あ、ハル様。今日の話は秘密だよ?」
「分かってる。アイツ等には関係ねえ話だからな」
そう言って、雑踏の中にハルは走り去った。
「それでは私達も戻りましょう、主様」
「何を言って居る? このまま尾行を続けるぞ」
「え、今し方、陣に御戻りになると……」
「あの場はああでも言わないと、主様が心置きなく羽を伸ばせないだろう。
それに、敵襲があってすぐに主様を野放しになど出来る筈もなかろう。更に、今回の敵襲は失敗に終わっているのだ、もう一度来てもおかしくはない」
「それは御尤も……ですが、主様、見つかった時に旦那様に何を言われるか――」
「その時の為のお前だろ。ほれ、行くぞ」
(その時の為、って……はあ、私は言い訳役兼怒られ役な訳ねぇ)
タカナシは深い深い溜め息を吐き、ビルの屋上へと跳ぶ八千矛の後を追うのだった。
――僕とクッシーと玉ちゃん
再び目を開けると、そこは街の入口だった。僕達は雑踏の中心で立ち止まって目を閉じていた。
当然、傍から見れば不可思議な光景だった。
「……二人とも、大丈夫?」
僕が声をかけると、二人は目を開け、辺りを見回した。
「え? あれ、此処は……街? やった、私達出られたのね……!」
「はぁあ、良かったです……本当に」
二人は無事、帰還できた事に胸を撫で下ろしていた。
「出られた? 何、言ってるの、クッシー?」
「え? 今までずっとリアルなんちゃらゲームってのに知らずに入って出られなかったんでしょ!? ねえ、玉ちゃん?」
「うん、ゴーストタウンとか、お化け屋敷とか、怖かった」
「ゴーストタウン? お化け屋敷? ホントに何の事? 二人とも急に止まったから大丈夫かと思って声かけたんだけど……?」
「ええ、何? どういう事? さっきの全部、夢!?」
「まあ、昼間だから白昼夢かな」
「でも、私と夏澄ちゃんが同じ夢を……?」
「そうだよね、二人同時に同じ夢を見るなんて有り得ないよ~」
「もう、二人ともそんな事、言ってるとハルに笑われちゃうよ?
それに、ハルもすぐ近くまで来てるだろうし、僕達も街の中央へ行こう」
「んー、納得いかないけど……ま、気にしても仕方ないか」
と、クッシーはすぐに思考を切り替えた。
「……」
「ほらほら、玉ちゃんも」
「ひゃっ、さ、木花くん!?」
僕は玉ちゃんの肩を持って前に押した。
そんな調子で僕達の歩みは再開した。
僕は嘘を吐いた。それは事の辻褄合わせの為だったけど、結果的には二人を傷付けたかもしれない。
でも、この話題を続ける事は避けるべきだった。ハルが今回の事をどう捉えているのかは定かではないけれど、きっと僕達とは全く異なる認識をしているだろう。
そんな僕達が今回の事について話し合えば、必ず綻びが生じてしまう。
だから、僕は後悔してない。
(三人を僕等の争いに巻き込んだりはしない……!)
間もなく、僕達はハルと合流し、当初の目的だった街を見て回った。
そして、何事もなく夕方になりそれぞれの家に帰った。
(何か忘れている気がするけど……まあ、大丈夫だろう)
「さあ、明日は月曜だ」
そう言い聞かせ、家路を急いだ。
――その頃、ニニギ
「此処は何処じゃ……?」
元々、微弱な佐久夜の神力を追ってやって来たニニギが帰り道を知ってる筈もなかった。更に、色々あったせいでニニギは完全に佐久夜の気配を見失い、日が暮れた今も相良の街(西側)を彷徨っていた。
「彼奴め、今度会ったらタダじゃ済まさぬ……!」
それを開耶が知る由もなかった。
ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
木花開耶物語 番外編 12話は如何でしたでしょうか?
長い時間をかけて書いただけあって濃い内容になっていたと自分では思っていたりします。
あとは、作者的には様々な書き方・ジャンルに挑戦した話でもありました。
会話を多めして、背景描写を極力省略し、開耶の勝手な思想をカットして、ホラーっぽいジャンルに挑戦し、、、と結構苦労しました。
ここで、話が飛びますが、今回の為に画像(資料)を何枚か自作し、HPに掲載する予定なので是非、見に来てください(^_^)/
話が戻りますが、これにて木花開耶物語 第1章は完結となります。次話(13話)からは第2章となります。
例によって、まだ1文字も書いておりませんので掲載時期は未定です。作者の気持ち的には4月までには何とかしたいと思っております。
しかしながら、並行して長編『IDEAL』の方も制作していきたいのでどちらが先に出来上がるかは、、、ちょっと分かりません。
最後に、感想・批判・助言、何でも募集中です!
特に今回は新しい書き方に挑戦したので、本編と比べてどちらが良いとか、そういう意見を頂けると参考になります(^^)
あー、忘れるところでした。
このあと、キャラ紹介(改訂版)を掲載する予定ですが第1章までの内容をネタバレする内容となっておりますので、ご注意を。
それでは、ここも最後まで読んで頂きありがとうございました、次話も是非、最後まで読んでくださいm(__)m