表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧・木花開耶物語  作者: crow
第一章
22/40

木花開耶物語8話 A

どうもお久しぶりです\(^o^)/

最近、忙しくて……(>_<)

次の投稿は……ゴールデンウィークを目指します(^_^)v


今回の話は過去篇でーす(*^_^*)

それでは、是非最後まで読んで下さいm(__)m

「今は遠き日常」

――一時間後、半生半死桜樹の下

瓊瓊杵ににぎ様、御到着なさいました」

「むぅ……もう着いたのか」

 仏頂面の少女が、到着を告げた侍女を見ようとかごより顔を出すと、視界一杯に桜の花弁はなびらが舞っていた。十数メートル先に見える大樹から舞い落ちているのは


、誰の目からも明らかであったが、その光景は見惚みとれる程に美しく、立ち会った者は皆、言葉を失っていた。

 ただ、三名を除いては。

 一人目は、瓊瓊杵の侍女の鈿女うずめ。彼女は静かに顔を伏せて、瓊瓊杵が籠より降りるのを待っている。

 二人目は、どこからともなく現れた婿との仲介役兼侍女の葦津かやつ。彼女もまた籠の前で瓊瓊杵が降りるのをひざまずいて待っていた。

 そして、三人目は此処へ呼んだ張本人である木花佐久夜このはなのさくや。大樹の根元付近に、寄り掛かる様に座して、出迎えるでもなく瓊瓊杵の方を眺めていた。

 その視線に気づいた瓊瓊杵はほうけた顔を、普段の凛々しいものへと戻し、毅然きぜんとした態度で葦津の前へと出た。

「遠い所、御足労をお掛けしまして申し訳御座いませんでした」

 開口一番、葦津は謝罪をした。

「木花佐久夜様は彼方あちらに居ります。どうぞ御案内致します」

「結構です。そのくらい私にも見えています」

 不機嫌な瓊瓊杵ではあったが、八つ当たりではなかった。ただ、もう見えている所へ案内させる手間を掛けさせたくなかっただけだった。

「瓊瓊杵様、その様な――」

 瓊瓊杵の言葉足りない対応をいさめようとする鈿女だったが、それを葦津が止める。

「お気にさらず、鈿女さん。それでは私達おいとま致しましょうか」

「そう、ですね。それでは瓊瓊杵様、迎えは明日のお昼で御座います。呉々(くれぐれ)も――」

「くどいぞ、鈿女」

 それを最後に、二人は瓊瓊杵の前から姿を消した。当然、乗って来た籠もいつの間にか消えていた。残された瓊瓊杵に退路は無かった。いや、むしろ自ら退路を断ったのだ。鈿女


という拠り所を、自らの意思で冷たくあしらったのだ。もうこれ以上私事に巻き込まない様に、と。

「よし、行くぞ……」

 後押しするようそう呟いた。


「私は天邇岐志あめにぎし国邇岐志くににぎし天津日高あまつひこ日子番能ひこほの邇邇藝ににぎのみことで御座います。不束者ですが、本日はどうぞ


よろしくお願い致します」

 彼の元へと辿り着いた私は、沈黙に耐え切れず、とりあえず自己紹介と簡単な挨拶をした。すると彼は感嘆の声を上げて、頭を掻きながら言った。

「ふーん、名前、長いのな。俺は木花佐久夜。好きな風に呼んでくれて構わないぜ。アンタの事は……そうだな、ニニギって呼ぶわ」

(何て適当な人なのだろう)

 私の中での彼の第一印象はこんな感じだった。

(でも、この人……今までの人と違う)

 私を一人の女として扱っている。人はそれを無礼と言うのかもしれないけれど、私にとってそれは待ち望んだ《対等》な関係だった。


 あまり乗り気じゃない縁談だった。故に、俺は出迎えも放り出した。そうすれば《天孫》の中で俺は、今まで会った男の中で最低という評価を得られるだろう。結果的に縁談は無


かった物となり、俺はまた今まで通りの生活を送れる。そう、信じていた。

――《天孫》を見るまでは……。

 黒く、己の背よりもやや長い艶のある髪が、桜舞う樹の下でなびいた。

 赤く、誰よりも澄んだ瞳と大きな目が、舞う花びらの一つ一つを捉えていた。

 一目見て思った。

――綺麗だ、と。

 けれど同時に、俺とは決して釣り合う人ではない、とも思った。


――同地 対面から一時間後

 兎に角それ以来、沈黙は続いていた。

 少女は青年の傍らで立ち続け、青年は樹に寄り掛かって自らの足元をずっと眺めているだけだった。どちらも寄る事も離れる事もないまま、時は刻一刻と過ぎていった。

 その沈黙を破ったのは、意外にも青年の独り言だった。

「おっ、危ねえ」

 短く小さい呟きだったが、少女は聞き逃さなかった。その言葉に従って、辺りに注意を払うが一向に何も起こる気配はなかった。不思議に思った少女が辺りを見回しても、自分達


と桜樹以外、何も見当たらなかった。

(一体、何が危ないのだ? もしかして、私じゃない……?)

 不意に、今まで気にも留めていなかった青年の視線の先を覗いてみた。すると、そこには見た事も無い世界が映し出されていた。

 そう、青年の足元には《下界》と称される所が映し出されていた。

「そ、それは一体……!?」

 少女は信じられない光景に思わず声を上げた。すると、青年は少女の方へ視線を移す。

「ん? もしかして、アンタ……じゃなかった。ニニギは《下界》を見るのは初めてか?」

「は、はい」

 映像に目を奪われ、生返事をする少女。しかし青年は、その言葉を聞くと急に得意気に語り出した。

「実は今ココに映ってんのは、俺の管理する《下界》なんだ。スゲーだろ、ココとか、ソコとか、アッチもソッチも、後は……」

 青年が指差す度に景色は変わり、その全てが少女の知らない物だった。しかし、青年は出会ってから一番良い表情をしていた。

(よく分からないけど、もう少しだけ……もう少しだけなら)

 そうして、少女は青年の話に相槌を打っていくのだった。それがたとえ、内容の理解出来ない話だったとしても、少女には楽しそうに話す青年の顔を崩したくない、それだけで充


分だった。


「この仕事さ、ホントは俺の仕事じゃねえんだわ」

 愉快に快調なペースで様々な景色を見せてくれた青年が、突然そんな事を口にした。急な変わり様に一瞬、戸惑う少女だったがすぐに我に帰り、質問を返した。

「それはつまり……御父君様の御仕事を引き継いだ、という事でしょうか?」

「……残念、真逆だよ。《下界》の管理なんて下級の仕事だってさ。バカにしやがってあのクソオヤジがよ」

「なっ……!?」

 少女も両親の身勝手な物言いに怒りを感じる事はあった。けれども、侍女の鈿女に愚痴る事はあっても、流石に初対面の、しかも婚約者(候補)の前で発言する内容とは思えなかっ


た。

 そんな少女の唖然とした表情に気づいてか、青年は付け加えるように言った。

「おっと、今のは内緒な」

 そして、青年はニッと笑うのだった。

(この人……本当に――違う)

 少女が今までに見た事のある笑顔はどれも愛想笑いであり、周りには常にそれが溢れていた。少女の言動、果ては物事の成功も失敗も、全てそれで片付けられた。それが正当な評


価でない事くらい、少女には痛いほど分かっていた。その事に気づいて以来、少女は自発的に何かをする気にはなれなかった。

 故に、少女はその笑みを浮かべる者との縁談をことごとく蹴った。そういった者達に、本当の少女が見えている様には到底思えなかったからだった。そして、そんな些細な


抵抗だけが少女の唯一、許された我儘だった。

 浮かない表情を見せる少女に、今度は青年が問い掛けた。

「もしや、ニニギも親父がダメな派か?」

「……は、はい。多少の不満は抱いております」

「ははっ、俺達似た者同士ってか」

 また、青年は笑った。

「おっ、やっと笑ったな」

 青年に指摘され、少女は自分も笑っている事に気づく。

(いつの間に……? 楽しんでいる……? この者との時間を……)

 少女は茫然と頬に手を当てたまま思考を巡らせた。するとそれを知ってか知らずか、青年が思い掛けない言葉を口にした。

「やっぱ、笑った方がニニギは綺麗だ」

 それは、御世辞でも、嘘でも無い、青年の本心からの言葉だった。何故か、少女にはそう感じれた。


――同地周辺 黄昏時

 二人が、自分達の見たり聞いたりした他愛も無い話をしていると、すっかり日が暮れ、辺りは薄暗くなっていた。

「そう言えば、葦津さん。御夕飯や御就寝は如何どうなさるのでしょうか?」

「お、恐らくですが、佐久夜様が準備をされていると思われます……」

 此処は、桜樹の裏側。二人に気づかれない様、離れて見守る侍女の二人が居た。

「だ、大丈夫ですよね。二人はあのように仲良くなられておりますし、瓊杵様も流石に人前では御怒りになるとは……思えませんし」

「佐久夜様のせいで、申し訳ないです」

 顔を伏せた葦津の肩に鈿女はそっと手を置いた。

「気にしないで下さい、葦津さん。瓊瓊杵様のあのような笑顔はわたくしも久方振りに拝見できました。それは佐久夜様の御蔭で間違いありません」

「……恐縮です」

 そう言うと、侍女二人は再び視線をそれぞれの主へと戻した。


――同地 夜

 予告通り迎えが来なかった事に、少女は複雑な心境だった。

(この者と一緒に居ると楽しい……でも、夜はいけない。それは愛する者同士が過す時であり、私達はまだ……お互いの事をよく知らない間柄。でも、迎えは来ないし私も帰りたく


は無い……事も無い)

 少女はそんな事を考えながら、青年と距離を置いて座っていた。それどころか少女は、夜に近付くにつれ、まともに青年の顔すら見られない程に意識してしまっていた。

明りのない桜樹の下では、既に人の顔が鮮明に見える筈もないのに。

「そういや、ニニギは夢とかあんのか?」

 青年の唐突な質問に、少女は反応が遅れる。

「え、えっと。夢、で御座いますか?」

「ああ。何かになりたいとか、アレしたいとか、コレしたいとか……そういうの、ねえの?」

 少女は沈黙した。そして、少しの間が空き、答えを返した。

「……その様なものは私には御座いません。私は父上のお決めになった道を進む他にありません」

 桜樹の作る影によって、青年に少女の顔は見えていなかった。それが少女にとっては不幸中の幸いだった。なぜなら、うつむき、涙を堪える少女の顔は誰にも見られなかっ


たからだ。

「そっか。偉いヤツってのも色々大変なんだな」

 はい、と小さくか細い声で少女は頷き返した。

「……俺の夢はさ、いつか《下界》に行く事なんだ」

「えっ……!?」

「まあ、驚くのも無理はない。何故って思うだろ?」

 少女はコクリと頷く。

「ココの連中の大半は《下界》をバカにしてる。けどな、《下界》にしかないモノが在ると俺は思うんだ。そして、それを俺は見たい」

「そ、それを彼方あなたの御父君様は御承知ですか?」

 青年は一瞬、言葉に詰まってから少女の素朴な問いに応えた。

「なあ、ニニギ。そんなに他人の目が気になるか? 他人に認められないと不安か? 御利口さん気取って誰からも好かれていたいか?」

「そ、それは……――はい。私は、他人の目が気になって、認められないと不安で、誰からも好かれていたいです」

 青年から伝わってくる不確かな真剣さに応じる様に、少女は本心を隠す事なく語った。《天孫》として少女は自分が如何あるべきか、を。

 少女は目を閉じて、青年の返事をただただ待った。すると、少女を温かい何かが包んだ。それは……。

「な、な、何をしているのですか!?」

 少女を包んだ温かい何かは、青年だった。青年は、少女を抱きしめながら言った。

「非礼は詫びる。ただお前が……ニニギが可哀想に思えてな」

「可哀想……? 私が、ですか……?」

 青年の首が縦に動いたのを、少女は間近で感じる。

「……です」

「ん? 何か言ったか?」

「……初めてです。その様な事を仰ってもらったのは」

 少女は泣いていた。しかし、少女は悲しかったのではない。勿論、痛かった訳でもない。

――ただ、その言葉が嬉しかっただけだった。

「そうか、それは良かった」

 そう言うと、青年は少女からゆっくり離れた。しかし青年が抱きついた時、咄嗟に繋いだ手だけは離れる事は無かった。どちらかが望んだ訳ではなかった。二人が同時に離したく


ない、と思った結果だった。

 それから、二人は並んで樹へと寄り掛かり静かに眠りに就くのだった。


 そう、彼は受け入れてくれたのだ。《天孫》としての私ではなく、ありのままの私を。誰もが異口同音に私を褒め称える中で、彼は私に可哀想だと言ってくれた。私の待ち望んだ


、私の心を理解できる人。それは彼に違いなかった。

 だから私はそんな彼に報いるべく、彼の為になる事に努めた。傍に付いて、長い時間を共に過ごした。

 そして永久に朽ちる事の無い約束を交わした。それは、彼が考えたとても適当でどうしようもなく愛おしい結びだった。

――ソレナノニ……ワタシハ……ナニヲヤッテイルノダ……

ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m


新キャラは一応、木花佐久夜くんですかね……?(;一_一)

1話から名前だけはちょくちょく出てましたけどね~(-_-;)


まあ、今回の話はニニギが楽しい時の思い出を思い出してどんどん病んでく話だったわけですが……書いてるこっちもだんだん疲れてきて大変でした(+_+)


前書きで少し書きましたが、次の投稿はゴールデンウィークを目指しております。大分、空くと思うので今回は2話分を一気に投稿する予定です(^_^)v

次も是非読んで下さいm(__)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ