木花開耶物語6話 B
前回同様、少なめで載せます~
量の割に時間が掛かり過ぎました……。
宜しければ、読んで見てください。
白い壁、白い仕切り、白いベッド、およそ視界に入る物が「白」で統一された空間・保健室。尤も、黒い保健室など正常な施設なら却下されて当然の代物だが。
「ここが、ほけんしつ……ですか?」
と、言いながらもウズメは、既に並べてある物に目を奪われていた。何やらヤバそうな液体の陳列棚やら、ゴミ箱から溢れ出ている大量の血が付着した包帯やら、乱雑に置かれた個人情報の山とか。ごく普通の学校では見られない光景があったのは明白だった。
しかし、それを見てクッシーと玉ちゃんが驚かない点から察するに、これはこれでいつも通りの光景なのだろう。それ程までに異常が普遍化している空間なのだ、ここは。
「あら、どちら様~?」
保健室の奥・準備室、とプレートに書かれた扉から誰かが顔を覗かせていた。この部屋の荒れ様と不吉な予感からニニギは瞬時に臨戦態勢へと移り、ウズメへと視線を送る。が、ウズメは部屋の物色に夢中になって突然の来訪者など、存在すら気付いていない模様だった。
「まだ授業中じゃなかったかしら~? ん~? それとも、もう昼休みだったかしら~?」
と、訳の分からぬ事を呟きながら扉から出て来た。
(この部屋の有り様、この者の仕業か、それとも……)
白衣を羽織ったその人物は、平然とした物腰でクッシーと玉ちゃんの前までやって来た。
どうやら、この人にはクッシー達の姿が認識できている様で、二人は先程から抱き続けていた不安と緊張から解放され、安堵の溜め息を吐いた。
「はあ、良かった。私達のこと見えてるみたい」
そして、クッシーは言う。
「あっ、そうだ。先生、紹介しますね」
(なっ……! この者、先生じゃと!?)
ニニギの驚きなどいざ知らず、クッシーは言葉を続けた。
「彼女達は本日付で転校してきた天野 ウズメさんと、日高 ニニギさんです。って、先生なら資料とか話とか聞いてますよね」
あははは、と笑い合うクッシーと玉ちゃんから先生と呼ばれた者の視線が自分へと移る気配をニニギは感じた。そこで一瞬、両者の視線が合う。
その時のニニギの脳内は困惑で満ちていた事だろう。なぜなら、その者の視線からは何も読み取れなかったからだ。
本来ならば目を合わせた時、その人物の大よその考えや心意というものは、確認できるものだ。だが、目の前のこの人物に関してはそれが適用されなかった。つまり、何を考えているのか、その瞳からは察する事が不可能だった。加えて、言動からは鈍感な印象を与えているが、それさえも真実かどうか、定かではなかった。
しかしながら、ニニギの困惑は瞬く間に確信へと変わった。
(この先生とやら……――敵、じゃな)
そう、結論付けたのには確かな理由もあった。が、此処で相手の正体を明かすのは、ニニギ達にとっても得策と言えない。今回の様な学校への出入りは今後またいつ必要になるか分からない。そして万が一の場合、ニニギ達の行いが開耶へと返る事も考えられる。つまるところ、ニニギ達は無闇に騒ぎを起こす訳にはいかなかった。そうとなれば、ここでの対応は自ずと決まった。
「先生でしたか、紹介に預かった日高 ニニギです。以後、お見知りおきを」
ニニギは生徒が教師に向けてする対応を完璧にこなした。それは一部の隙もない反撃だった。だが、相手もその程度の事で取り乱す阿呆者ではなかった。
「貴女が日高さんね。資料で見るよりも、ずっと可愛いわ~」
間延びした調子の声と、持ち前の無邪気な笑顔でニニギの反撃を難なく切り返した。
と、ここまではニニギも読んでいた。そして、次の手も考えてあった。もしもの時に備えて二重、三重にも張り巡らせた巧みな策などもあった。が、相手はその考えを越える、もしくは避ける様な形で、ニニギを追い詰めようとした。
「ホント、日高さんの肌は綺麗そうですね~ぇ……」
言いながら先生は、一歩また一歩と距離を縮めていった。無論、それはニニギとの距離の事だ。当然、当事者であるニニギがその事態に気づかない訳もなかった。しかし、どういう事だろうか、ニニギは一歩も退こうとはしなかった。否、退けなかった。
(この場で接触を拒む、というのは些か生徒らしくない。だからと言って、敵に無防備な身体を舐め回すように触れられるのも見過ごせん……)
そんな考えがニニギの頭の中を巡っていた。つまり、如何にして生徒らしく振る舞うか、それがニニギにとっての課題だった。
だが、迷っている時間は無かった。両者を隔てていた空間は残り数メートル、時間にして二秒あるか、ないかだった。
――先生、と呼ばれた者の不気味な笑顔と魔の手が迫ってくる……。
――あの間延びした調子の声が囁いている……。
――さあ、私と遊びましょう……。
やはり、ニニギは一歩も退かなかった。それどころか、毅然とした態度で応じた。それはつまり、退く必要が無くなったからだった。
「何か用かしら~?」
先生がニニギへと伸ばした手、それを掴む別の手。先生は自然な動作で、その手の持ち主へと静かに視線を移す。そこに居たのは……。
「…………天野 ウズメさん~」
「瓊瓊杵様へ御用でしたら、まず私を通してからにして頂きたい」
そう、静かに言い放った。その瞳には、入室時の浮ついた気配などは微塵も無く、ただ純粋な君主への忠誠だけが宿っていた。
ウズメの要求を了解したのか、先生は伸ばしていた手を退いた。その気を察し、ウズメは掴んでいた手を放し、二人の間を遮るように入った。
「ん~? 何でしょう、初対面ですよね、私達~? どうして、こんなムードに~?」
この一部始終を黙認していた部外者達も、そろそろ事のおかしさに気づくと判断したらしく、それなりの対応をし出した。その空気を察し、ニニギ達も流れに身を任せる事にした。
要するに、壮大に惚け出したのだった。
「誠に不快だが、お主と同意見じゃ」
生徒のフリに飽きたニニギは素を出し、先生を罵った。その間もウズメは先生から視線を離す事は無かった。だから、先生もウズメ達への警戒を解く訳にはいかなかった。
沈黙が続いた。先に口火を切ったのは……ニニギだった。
「じゃが、何よりも不愉快なのは……お主のその調子じゃ」
今までの出来事を無かった事にするべく話題を逸らしたものの、生徒が先生を侮辱する構図など、どう考えても一般的でない事態に陥ってしまったのは言うまでもなく、ニニギの知識不足だった。いや、この場合は常識の欠落、と称すべきかもしれない。
「そんな事を言われましても、これが私のチャームポイントみたいなモノですから~ それよりも、日高さんの口調の方が私よりもずっとおかしいと思うんですけど~」
だが、そんな軽い挑発に乗って、先生も生徒を罵倒するというのは、先生の方にも問題がある。人の 器の底が知れる、というか……何とも居た堪れない構図になっていた。
結局のところ、それからも詰まらない言い争いは留まる事を知らず続き、最終的に争いの終止符を打ったのはクッシーだった。
「あっ、忘れてた。先生、替えの下着とかってありますか?」
突拍子もないクッシーの発言に一同は言葉を失った。そして、誰もが思っただろう。
――それって、今じゃなきゃダメか、と……
なかなか話が前進しないのは、一重に作者の効率が悪いからですね……すみません。ちなみに、保健室での話はそろそろ終わりですね……。順番的にそろそろ、アイツの登場が……!
そう言えば、近々番外編でも書いてみようかな、って気紛れ起こしたり……。すみません、本編の方にもっと力を入れます。
できれば、感想・批評・レビュー(?)など書いて頂けると、参考になります。よろしくお願いいたします。
追加:キャラクター紹介にクッシーが登場しました。是非、一度ご覧になってください。
ここまで読んで頂きありがとうございました。