木花開耶物語6話 A
タイトルにAって書きましたが、Dまで続くのか、Eまでいくのか現状未定です。把握できてなくてスミマセン。
気長に読んで下さい~、としか言えないですね……。
「迫りくる新しい日常」
――これまでのあらすじ――
瓊瓊杵と鈿女は突然、体調を崩した開耶の病状を和らげるため、とりあえず情報収集へと出かける。二人がその適地と選んだのが、開耶の通う南海高校だった。二人は転校生として学校に侵入したところ、侵入先である開耶のクラスは授業を放棄し、怒涛の討論会を繰り広げていた。そうとも知らず二人は堂々と正面から入り、皆の注目を浴びるが、その容姿の端麗さから口調や二人の関係については特に問われる事も無く、クラスへと順調に解け込んでいった。
そして、学校生活を充分に楽しんだ二人は本来の目的を忘れかけていた。だが、瓊瓊杵は帰る寸前の所で本来の目的を思い出す。そして手短に居た櫛灘 夏澄 ことクッシーと、豊玉 美七 こと玉ちゃんの二人を呼び止めた。しかし情報を得ようとしたその時、悪戯の如く吹いた風が鈿女のスカートを舞い上げた。鈿女自身にダメージはなかったものの、見ていた二人に異常なショックを与えた。そう、鈿女のファッションは現代人の思想から大分外れていた。
そんな鈿女を見過ごす訳にもいかず、クッシーと玉ちゃんは二人をある場所へと誘導する。
――二XX六年六月九日 昼前
時刻的には授業中というこの時間帯だが、廊下に複数の人影。しかも、教師ではなく生徒が四名、列になって廊下の真ん中を堂々と移動中。
「あのさ、それって最近流行りのファッションです、とかってオチじゃないよね?」
列の先頭を行くクッシーが、その後ろを歩くウズメへと尋ねた。
「はやり、ですか?」
ウズメの要領を得ない解答が返ってくる。だが、クッシーは至って冷静に返事をする。
「そう。流行り」
クッシーとしては、冗談のつもりで切り出した質問だったので、ウズメの返事は当然「NO」だと踏んでいた。しかし、待ち望んだ答えは一向に返ってこなかった。
「え、あの、ですね……」
返答に詰まるウズメは助けを求めるべく、隣を歩くニニギに視線を送った。
「そんな道理がある訳なかろう。世の女子達が揃いも揃って何も穿いて居らなかったら、世の男共が黙って居る訳なかろう?」
列の一番後ろを歩く玉ちゃんがそれを聞き、顔を真っ赤にして同意する。
「二、ニニギさんの言う通りですよ、か、夏澄ちゃん」
「う、うん、そうだね……」
――違和感。
クッシーは二人に只ならぬ「何か」を感じていた。しかしそれが何なのか、言葉で表現するまでには至れなかった。それは正に「何か」という表現が適切だったからだ。
「…………」
両者の間に沈黙が流れた。恐らく、ニニギ達がそれを破るような真似はしない。そして、クッシー達にもそれは見受けられなかった。なぜなら、互いが互いに対して無意識の内に一線を置いたからだ。
(この人達、私達とは「何か」が決定的に違う……)
クッシーは思う、彼女達は自分とは違う、と。しかし、その証拠足る物は何一つとして無い。ただ、クッシーがそう感じた、というだけだった。
(さっきから夏澄ちゃんの様子がおかしい……? 転校生さん達も黙っちゃったし……どうしよう……?)
飽くまで玉ちゃんは、転校生達に疑惑や違和感は無いようだった。むしろ、彼女的にはこの暗い雰囲気の方が問題だった。それから玉ちゃんは、何か話そうと悩み、いつの間にか列から遅れていった。
(この女子共、こちらを警戒しておるな……)
クッシー達の動向から、そう感じ取ったニニギは自分達も警戒する様、ウズメに目配せをした。すると、視線を感じたウズメは前後の二人にバレないようにニニギを一瞥し、小さく頷いて見せた。
(……と、同意したものの如何したものか……)
そう、警戒云々と言われても具体的に今、自分に何が出来るのか、ウズメは悩んだ。それもその筈、彼女達は今、自分達が何処に向かっているのかさえ知らない。もしかしたら現在歩いているこの道が突然、崩落するかもしれないし、辿り着いた先が敵の巣窟かもしれない。そんな得体の知れない罠から主を守る為に、自分は何をすればいいのか。否、何が出来て、何が出来ないのかを、彼女自身が把握しなければならなかった。
各々が様々な考えを浮かべ、緊迫ムード全開の中、意外にもクッシーが声を上げた。
「あっ、見えてきた」
その声に反応し、顔を上げた三人の目に映ったのは一枚の引き戸だった。そこは……。
「……保健室?」
玉ちゃんが呟く様に答えた。クッシーは御名答、と言わんばかりに頷いた。
「ほけん、室……?」
訳も分からず、玉ちゃんの言った事を復唱するウズメ。ニニギは二人には目もくれず、ただ引き戸を凝視していた。
「そう、保健室。だって、ほら。此処なら替えの下着とか有るだろうしさ」
と、クッシーがウズメを見つつ得意気に答えた。
「…………」
しかし当の本人は、強張った表情で保健室を見つめ、まるで周りが何も見えていない様だった。それに逸早く気づいたニニギが、ウズメの身体を軽く突き、やっと我に帰る程だった。
「あっ、御心遣い感謝致します、くっしー様、玉ちゃん様……」
「う、ううん。気にしないで、困った時はお互いさまでしょ?」
少しの間を置いて返ってきた感謝の言葉に、二人は慌てて首を横に振り対応した。
それを見たウズメは二人に向けて軽く礼をし、再び戸の方へと向き直った。その光景を黙認していたクッシーだったが、到頭意を決するのだった。
「……それより、保健室がどうかした?」
「えっ、あの、その、特には……」
クッシーの唐突な質問に狼狽をしながらも、何とか誤魔化しの笑みを返すウズメ。しかし、その表情は誤魔化すどころか、苦笑い丸出しだった。当の本人は必死にやっているのだろうが、結果として相手にバレてしまっているので、水の泡と言うのか。
そして、その「違和感」にクッシーが気づかない訳もなく。クッシーに問い詰める絶好の機会を与えてしまったのだった。
「もしかして、ウズメさん達って……」
と、言い掛けたその時。
「もしかして、お二人の居た学校では保健室って呼び方じゃなかったのかな……?」
意外な事に、核心に迫ろうとしたクッシーを遮って話し出したのは玉ちゃんだった。だが、そこにはいつもとは違う玉ちゃんが居た。そう、呆気に取られる三人の心境など、全く意に介さない玉ちゃんがそこには居た。
(よ、よし。いいぞ、私。このまま、話を膨らませていこう……)
先程まで沈黙続きだった一行。そこに訪れた転機を玉ちゃんは見逃さなかった。
(いつもいつも、夏澄ちゃんが仕切ってくれてるけど、今日は何だか難しいみたいだし、私も見てるだけじゃなくて、何とかしなくちゃ……!)
玉ちゃんが意外な行動に打って出た理由はとても素晴らしのだが、それ以上に絶妙なタイミングでクッシーの邪魔をしてしまった事には……恐らく気づいていないのだろう。
不幸中の幸いで危機を脱したウズメ達でさえも、目を丸くしたまま返答を忘れて立ち尽くしていた。
「??? え、えーっと。私、何か変なこと言いましたか……?」
玉ちゃんが漸く場の雰囲気を察した頃には、既にクッシーは次なる手を思案していた。それはつまるところ彼女達の素性を暴く為の策を、だった。
ともあれ、この場を収拾しない事には何も始まらない、いや何も始められないので、とりあえずクッシーは玉ちゃんの切り出した話を終わらせる事に専念するのだった。
「そんな訳ないじゃん、玉ちゃん。ね、二人とも?」
と、固まったままの二人に話題を振るクッシー。そしてそれに応じたのはウズメではなく、さっきからずっと黙っていたニニギだった。クッシーの振りに答えようとしたウズメを、手で制してニニギが一歩前に出る。
「その通りじゃ。私達の所も保健室は保健室じゃ。多少、戸の造りが違うだけで名は同じじゃ」
顔に薄い笑みを浮かべながら、極めて冷静な口調で返すニニギ。その言動から彼女の本心を察する事は常人では不可能に等しい。
「そ、そうですよね……ごめんなさい」
故に、玉ちゃんはニニギがどのような感情を抱きながら答えたかなど知る由も無かった。だが、それは知らなくて良かったと言えるだろう。
――そもそも、彼女が人間などに興味を持つ筈も無いのだから……。
気づけば、再び沈黙が流れていた。この重い空気の中、誰が話を切り出すのか。いや、それは愚問だったか。そんなのが出来るのは――もう一人しかいない。
「ま、まあ、とりあえず、中に入ろっか?」
恐る恐る提案をしたのは、他でもないクッシーだった。やはり彼女にはこういった仕切り役がピッタリだと、玉ちゃんは深々と実感するのだった。
「そうじゃな。このまま立ち話というのも、馬鹿らしいからの」
と、言いながらウズメの方へ目配せするニニギ。
「はい、私も相違ないです」
「……わ、私も賛成です」
全員の意見も出揃ったので、一行はクッシーを先頭に保健室へと消えていくのだった。
一回で載せる量が半端ないので、今回から小まめに載せていこうかと思います。
あと、最近になって書きやすい書き方、読みやすい書き方っぽいモノが何となく自分の中で確立してきたので、作風が少々変わっていくかもしれません。その辺りは何卒ご容赦ください。
最後に読んで頂きありがとうございました。次回も是非読んでください。