第8話 王都陥落、あるいは物流による征服
その日、王都の城壁を守る兵士たちは、地平線の向こうから迫りくる「未知の光景」に言葉を失った。
かつては「嘆きの湿地」と呼ばれ、いかなる軍隊の行軍も拒んできた泥濘の地。そこには今、リンネが心血を注いで建設した白く輝く直線――「ヴァレリウス高速街道」が、矢のように王都の正門へと突き刺さっていた。
そしてその上を、見たこともないほど巨大な、しかし統一された美しさを持つ輸送隊が、凄まじい速度で進軍してくる。
「……あれは、何だ? 魔王軍の進撃か?」
「馬鹿を言え。あの旗を見ろ。深紅の地に二つの歯車――ヴァレリウス領の紋章だぞ!」
先頭を走るのは、ユーナ率いる高速輸送部隊「雷脚」だった。
サトシが設計した低重心のパレット専用馬車100台が、一寸の乱れもなく隊列を組み、アスファルト代わりの魔導コンクリートの上を滑るように走る。
「あはは! 見てよ、あの門番たちの顔! 最高に間抜けじゃない!」
先頭馬車の御者台に立つユーナは、24歳の野性味あふれる肢体を躍動させ、爆走する風の中でプラチナブロンドのポニーテールをなびかせていた。しなやかな長身に、極限まで引き締まった腹筋が覗く革鎧。彼女のハニーブラウンの瞳は、これまでにない「速度の快感」に輝いている。
「ユーナ、速度を維持したまま第2減速区間へ。……ミラの誘導ビーコンに従ってください」
馬車内に設置された通信用の魔導具から、サトシの冷徹な声が響く。
サトシは、194cmの巨躯を特注の指揮馬車の奥に預け、手元の水晶版に流れる膨大な「配送データ」を処理していた。30歳。男としての円熟味と、冷酷なまでの合理性を湛えたブルーグレーの瞳。彼の周囲には、この作戦を支えるヒロインたちが、それぞれサトシの体に触れそうなほどの至近距離で控えていた。
「サトシ、王都内の全ゲートの解錠を魔導ハッキングによって完了。……私たちはもう、許可を待つ必要はありません」
ミラの指が、魔導計器の上でピアノを弾くように舞う。24歳の彼女は、洗練されたライトブラウンのボブカットの下で、知的なヘーゼル色の瞳を鋭く光らせていた。彼女は165cmの細身の体をサトシの194cmの影に寄り添わせるようにし、淡々と、しかし熱っぽく報告を続ける。
「現在、王都の穀物ギルドが保有する在庫は、私たちの輸送量のわずか2%。……市場が開くのと同時に、価格破壊が始まります」
「素晴らしいわ、ミラ。……サトシ様、見てください。王都の商人たちが、私たちの馬車の列を見て泡を吹いていますわ」
セラフィナが、サファイアブルーの瞳を細めて窓の外を見下ろした。25歳の彼女は、深い紺色のシルクドレスを纏い、高潔な貴婦人としての気品を漂わせている。艶やかなダークブラウンの髪を揺らし、彼女はサトシの隣に座ると、ごく自然な動作で彼の大きな手に自分の細い指を重ねた。
「これより、王都の『情報の物流』も掌握します。プリヤ、手はず通りに」
「……ええ。既に王都の伝令ギルドの喉元は押さえましたわ」
いつの間にかサトシの背後の影から現れたのは、28歳のプリヤだ。174cmの長身、漆黒の瞳、そしてエキゾチックな美貌。彼女はサトシの耳元に顔を寄せ、絹のような肌を彼の頬に触れさせんばかりの距離で囁いた。彼女の唇に浮かぶエクボは、今は王都の腐敗を切り裂くナイフのように鋭い。
「これで王都は、あなたの言葉以外の真実を失いました。……サトシ、あなたが望むなら、今夜にでも王宮を『在庫』として処理して差し上げますわよ?」
「冗談はいい。……リンネ、リディア。最終確認を」
サトシが促すと、残る二人が前に出た。
19歳のリンネは、現場での汚れを拭い去り、透明感あふれる白いワンピースに着替えていた。抜けるように白い肌と、凛とした漆黒の瞳。彼女はサトシの194cmを見上げ、心からの尊敬を込めて微笑んだ。
「サトシ様! 街道の耐久値は完璧です。100台の重装馬車が同時に通過しても、一ミリの沈み込みもありません。私の作った道は……あなたを裏切りません!」
「……そして、こちらが王都に持ち込む物資の全台帳です。サトシ様」
28歳のリディアが、完璧に整理された羊皮紙の束を差し出した。知的なアッシュブロンドの髪を美しくまとめ、大人の色香を漂わせる彼女の視線には、サトシへの深い愛情と、自分たちが成し遂げた革命への誇りが宿っていた。
「パン、小麦、魔石、そして医療品。……これだけの量が定価の半額で市場に流れれば、利権を貪ってきた貴族たちは、一晩で民衆に引きずり下ろされるでしょうね」
「……ちょっと! みんなサトシに寄り添いすぎよ!」
最後に、17歳のエララが割って入った。深紅の領主マントを翻し、エメラルドグリーンの瞳を怒らせている。彼女はサトシの反対側の腕をぎゅっと抱きしめ、160cmの身長差を埋めるように背伸びをした。
「サトシは私の物流総督なんだから! 王都に入る時も、私の隣にいなさい!」
「……閣下、今は業務の遂行が最優先です。……ですが、この進軍の結末は、あなたが宣言してください」
サトシが194cmの背筋を伸ばし、立ち上がった。
馬車が王都の巨大な正門――「獅子の門」を、法的な手続きを一切無視して突破した瞬間だった。
王都の中央広場。
そこは、物資の欠乏と物価の高騰に喘ぐ市民たちで埋め尽くされていた。
貴族たちが食糧を隠匿し、飢えた子供たちが路上で震えている中、突如として現れた「ヴァレリウスの輸送隊」は、希望という名の暴力となって広場に雪崩れ込んだ。
「――配送開始! パレットを展開しろ!」
ユーナの号令とともに、馬車の側面が開き、機能的に積み上げられた物資が次々と降ろされていく。
サトシが導入したパレットシステムにより、本来なら丸一日かかるはずの物資搬入が、わずか数分で完了していく。
広場に設置された特設ステージに、サトシが降り立った。
194cmの圧倒的な威圧感。そして彼の背後には、それぞれが絶世の美女でありながら、一国を動かす才能を持つ7人のヒロインたちが控えている。
王都の民衆は、その光景に息を呑んだ。
それは武力による征服よりも、ずっと強固で、抗いがたい支配の形だった。
「王都の市民諸君」
サトシの声が、魔導拡声器を通じて全域に響き渡る。
「私はサトシ・クドウ。ヴァレリウス領物流総督だ。……今日、この瞬間より、この街の『物流』は私が管理する。無駄な中間搾取、不当な価格吊り上げ、そして物流を阻害するあらゆる『淀み』は、私が排除する」
サトシが手を挙げると、セラフィナが市場価格の改定案を掲げ、リンネとユーナが物資の山を指し示した。
「パンの価格は、現在の5分の1にする。……異論のある者は、私ではなく、空腹の自分自身と相談することだ」
瞬間、広場を揺るがすような歓声が爆発した。
民衆は涙を流してサトシを称え、その背後に立つヒロインたちを女神のように崇めた。
その光景を、広場の端にある安宿の窓から、震えながら見つめる一団があった。
勇者アルフォンス。
そして、彼のボロボロになったパーティメンバーたちだ。
「……嘘だ。あんなの、嘘だろ……」
アルフォンスの黄金の鎧はもはや灰色の錆に覆われ、聖剣は鞘の中で震えていた。
自分たちが命を懸けて魔王軍と戦い、正義を説いても、民衆は自分たちに石を投げた。
だが、あの日「荷物持ち」と蔑んで追放した男が、たった数日で王都の全てを掌握してしまった。
「勇者様……見てください。あの男の隣にいる女性たち。……王都の最高顧問だったミラ様に、モルガン商会のセラフィナ様、それに……隣国の伝説の隠密、プリヤまで……」
「……サトシ。お前は、一体何をしたんだ……!?」
勇者の叫びは、歓声にかき消されて誰の耳にも届かない。
彼らが捨てた「数字」と「効率」という名の魔法が、今や世界を正しく、そして残酷に支配し始めていた。
その夜。王都を見下ろす最高級ホテルのスイートルーム。
サトシは一人、バルコニーから夜景を眺めていた。
そこへ、7人のヒロインたちが、それぞれの正装を纏って現れた。
ワインを持ったリディア。
最新の経済予測を手にしたセラフィナ。
サトシの影からそっと現れるプリヤ。
サトシの腕を独占しようと駆け寄るエララ。
仕事の手応えに満足げなユーナ。
サトシの隣で夜の魔導数値を測るミラ。
そして、明日の都市開発計画を抱えたリンネ。
194cmのサトシを囲む、7人の美女たち。
月光に照らされた彼女たちの美貌は、もはや現実のものとは思えないほどに輝き、その瞳の全てが、一人の男――サトシに向けられていた。
「サトシ様、乾杯を。……私たちの、新しい世界の始まりに」
リディアが差し出したグラスを、サトシは受け取った。
「……始まりではありません。これは、全大陸規模の物流網構築における、第1フェーズの完了に過ぎない」
サトシは冷淡に言ったが、その隣でエララが彼の服の裾をぎゅっと握り、リンネが幸せそうに微笑んだ。
「……第2フェーズ、開始。……次は、海を渡る『流れ』を創る」
30歳の冷徹な男の言葉に、7人のヒロインたちは一斉に微笑んだ。
異世界の歴史は、もはや彼女たちの愛と、サトシの数字によって、不可逆の最適化へと突き進んでいく。




