第7話 希望の架け橋と透明な情熱
ヴァレリウス領から王都へと続く街道。そこには古くから「嘆きの湿地」と呼ばれる難所が存在していた。
底なしの泥濘が続き、いかなる馬車も、いかなる重量物も沈み込ませるその地は、物流という観点から見れば、王国東部を孤立させる最大の「壁」であった。
だが今、その湿地の上には、これまでの異世界の常識を覆す光景が広がっていた。
「――第4区画、コンクリートの打設開始! 魔導ミキサー、回転数維持! サトシ様の計算した配合比を1ミリも狂わせないで!」
埃と泥が舞う建設現場の最前線で、凛とした声が響き渡る。
声の主は、ヴァレリウス領インフラ開発局長、リンネだ。
19歳の彼女は、圧倒的な透明感と瑞々しい美貌を湛えていた。
身長168cm。すらりと伸びた背筋と、作業服の上からでもわかるしなやかなプロポーション。艶やかな黒髪をポニーテールにまとめ、額に光る汗を拭うその姿には、現場の荒くれ者たちを惹きつけてやまない「清潔な色香」があった。
彼女が手にしているのは、サトシが設計し、ミラが魔法的な調整を施した最新の「魔導測量機」だ。
「……リンネ、進捗はどうだ」
背後から響いた、低く、落ち着いた声。
リンネは弾かれたように振り返った。そこには、194cmの巨躯を包む軍用ロングコートを翻した男、サトシが立っていた。
鋭利な知性と野性味を宿した30歳の貌。朝日を浴びたプラチナブロンドの髪が、埃にまみれた現場で異様なまでの気高さを放っている。
「サトシ様! はい、予定より12分早く、橋脚の基礎工事が完了しました!」
リンネは、サトシの姿を認めた瞬間、それまでの厳格な「局長」の顔から、一人の恋する少女のような、花が開くような笑顔に変わった。
抜けるように白い肌がわずかに上気し、漆黒の瞳が尊敬と憧憬で潤んでいる。サトシとの身長差は26cm。見上げる彼女の視線には、サトシへの絶対的な忠誠と、隠しきれない初々しい恋心が混じり合っていた。
「……12分の短縮か。上出来だ、リンネ」
サトシは194cmの視点から現場を一瞥し、リンネの隣に立った。サトシが近づくと、リンネの鼻腔を、現場の泥の臭いをかき消すような、サトシ特有の清潔な石鹸の香りがくすぐった。
「リンネ、あなたが構築したこの『トラス構造』の橋。これが完成すれば、王都までの輸送時間はこれまでの40%まで短縮される。……王都の守旧派貴族たちは、自分たちの利権が崩壊する音を、間もなく聞くことになるだろう」
「はい……! サトシ様の描いた図面は、魔法よりもずっと凄いです。私、この橋が完成して、領主様や皆が笑顔で王都へ行く姿を見るのが、何よりの夢なんです」
リンネは熱っぽく語った。彼女にとって、サトシはただの「物流総督」ではない。自分たち石工の娘に「理論」という名の武器を与え、泥の中から引き上げてくれた、人生そのものの恩人であり、憧れの人だった。
「……サトシ様。あの、もしよろしければ……この橋が繋がったら、私と……一番に渡ってくださいますか?」
リンネは作業服の裾をぎゅっと握り、真っ直ぐにサトシを見上げた。その透明感あふれる、穢れのない瞳に見つめられ、冷徹なサトシの脳内の計算が一瞬だけノイズを走らせる。
「……検討しておこう。それまでに、第5スパンの強度試験をパスさせろ」
「はいっ! 絶対、完璧に仕上げてみせます!」
リンネが元気よく返事をした、その時だった。
「――ちょっと待ちなさい! リンネ、あんたまたサトシに色目使ってるでしょ!」
建設現場の入り口から、けたたましい声が上がった。
現れたのは、17歳のエララだ。深紅の領主マントを翻し、エメラルドグリーンの瞳を燃え上がらせている。
「エ、エララ様! 色目なんてそんな……。私はただ、業務の報告を……」
「嘘よ! その顔、完全に『国民の初恋』みたいな顔して甘えてるじゃない! サトシ、あんたもよ! リンネは19歳なんだから、あんたみたいな30歳の枯れた男が誑かしていい相手じゃないわ!」
「……枯れてはいません。私の代謝機能は正常です、閣下」
サトシが淡々と返すと、さらに後続が到着した。
「……エララ様、少し落ち着いてくださいな。リンネ様の頑張りは、私の台帳にもはっきりと現れていますわ。資材のロス率、わずか0.5%。……素晴らしい管理能力ですわね」
28歳のリディアが、知的な微笑みを浮かべて歩み寄る。アッシュブロンドの髪を美しくまとめ、大人の色香を漂わせる彼女の視線は、リンネの「若さ」を眩しそうに、そして少しだけ警戒するように捉えていた。
「サトシ、地盤の魔導共鳴は安定しています。……ですが、この橋が完成することで生じる経済波及効果の計算に、一変数を追加しました。……リンネの人気による『観光需要』です」
ミラが、魔導計器を操作しながら淡々と告げた。彼女のヘーゼル色の瞳は、サトシの隣で赤くなっているリンネの純粋な美しさを、一つの「強力なリソース」として分析していた。
「ま、いいじゃん! この道ができれば、私の『雷脚』は時速40キロを維持できる。……サトシ、あんたとこの子の作った道、最高に走り心地がいいよ!」
ユーナが、172cmの肢体を躍動させ、リンネの肩を抱いた。プラチナブロンドのポニーテールが揺れ、リンネの黒髪と鮮やかなコントラストを描く。
「……皆様、お集まりで。サトシ様、王都の商会連合からの『妨害工作』に関する情報が入りましたわ。……彼ら、この橋が完成するのを恐れて、下流の治水権を盾に工事を止めようとしていますの」
セラフィナが、サファイアブルーの瞳に冷徹な光を宿して報告した。彼女の気品ある佇まいは、現場の泥臭さを瞬時に「高度な政治闘争」の場へと変えた。
「……影に潜むネズミなら、既に処分を始めていますわ。サトシ。あなたの橋に指一本触れさせない」
いつの間にかサトシの影に立っていたのは、28歳のプリヤだ。174cmの長身とエキゾチックな美貌を持つ彼女は、漆黒の瞳でリンネを一瞥し、それからサトシの背中にそっと視線を走らせた。
サトシを中心に、17歳から30歳まで。
王国全土を揺るがす美貌と才能を持つ7人のヒロインたちが、この「泥にまみれた建設現場」に集結していた。
194cmのサトシ。
170cm前後の彼女たちが彼を取り囲む姿は、さながら一つの帝国の宮廷のようでもあった。
「……全員揃ったか。ならば指示を出す」
サトシは194cmの背筋を伸ばし、地平線の先に霞む王都を見据えた。
「リンネ、橋の完成を24時間前倒ししろ。ミラ、全工程に魔導加速の術式を上書きする。ユーナ、完成と同時に全物資を王都の広場まで一気に流し込め。セラフィナ、王都の市場で『供給過剰による価格暴落』を引き起こし、利権貴族たちを破産させる。……リディア、事後処理の台帳作成を。プリヤ、抵抗する連中の喉元を塞げ。エララ閣下、あなたは完成した橋の上で、領民に勝利の宣言を」
サトシの冷徹な、そして絶対的な命令。
ヒロインたちは、それぞれの瞳に情熱を宿し、一斉に頭を下げた。
「「「「「「「了解、サトシ!」」」」」」」
その夜。建設現場の簡易キャンプ。
サトシが一人、焚き火のそばで明日の「工程管理図」を見直していると、リンネが温かいスープを持って現れた。
作業服を脱ぎ、ゆったりとしたリネンのワンピースに着替えた彼女は、月光に照らされて、昼間以上の透明感を放っていた。瑞々しくもどこか儚い、まさに「国民の初恋」という言葉を具現化したような姿だ。
「……サトシ様。お疲れ様です」
「リンネか。まだ起きていたのか」
「はい。サトシ様がこうして夜中まで戦っているのに、私が眠るわけにはいきません。……あの、一口だけでも飲んでください。私の実家の、石工の家秘伝のスープなんです」
リンネはサトシの隣に座った。
194cmのサトシの横に座ると、彼女の存在はより一層小さく、守るべき存在のように感じられる。だが、差し出されたスープを一口飲むと、そこには現場で働く者たちを支える、力強く、そして温かい味がした。
「……悪くない。塩分と熱量、今の私の脳には最適な栄養補給だ」
「……ふふ。サトシ様って、本当にロマンチックなことを言わないんですね。でも、そういう『嘘を吐かない言葉』が、私は一番信じられるんです」
リンネはサトシの逞しい腕に、自分の細い指先をそっと触れさせた。
一途な想いが、夜の静寂の中に溶け出していく。
「……サトシ様。私、この道が完成して、王都へ物資が流れたら……いつか、サトシ様の故郷の話を、もっと詳しく聞かせてほしいです。サトシ様がいた世界は、どんなに素敵な『最適化』された世界だったのか、私、知りたいんです」
「……私の世界か。……そこには魔法はないが、この橋よりも巨大な道を、数万台の車が毎日走っていた。……いつか、似た景色をここでも見せてやろう」
「……はい! 楽しみにしています!」
リンネはサトシの肩に、そっと頭を預けた。
19歳の少女の純粋な情熱と、30歳の男の冷徹なまでの使命感。
明日、この「嘆きの湿地」に架かる橋は、ただの道ではない。
それは、異世界の古い利権を叩き潰し、サトシの物流帝国が王都を飲み込むための、不可逆の進撃路となる。
サトシは、焚き火の爆ぜる音を聞きながら、脳内のシミュレーションをさらに加速させた。




