第12話 世界の規格化、あるいは万物のハッキング
王都の中心にそびえ立つ「ヴァレリウス中央物流センター」。その最上階にあるサトシの執務室は、もはや一つの国家の心臓部として機能していた。
「……第10フェーズ、『大陸度量衡の統一』を開始します。陸、海、空を繋いでも、それを測る『物差し』がバラバラでは、物流は常に3%から5%のロスを生む。これは私のシステムにおいて許容できないノイズです」
サトシは194cmの巨躯を、特注の黒い革椅子に沈めていた。
30歳。冷徹かつ完璧な美貌。彼が纏うのは、リンネが最高の職人に作らせた、機能美を極めた濃紺のビジネススーツだ。タイトなシルエットが彼の鍛え上げられた長い肢体を強調し、ブルーグレーの瞳は、目の前に浮かぶ巨大な魔導ディスプレイ――「大陸統合ダッシュボード」を凝視していた。
「サトシ様の仰る通りですわ。現在、王都と地方領、そして隣国との間では、金貨の含有率から重さの単位までが24種類も混在しています。……これを統合すれば、モルガン商会の計算コストは従来の15%まで削減可能ですわ」
サトシのすぐ傍らで、サファイアブルーの瞳を輝かせながら報告するのはセラフィナだ。
気品あふれる彼女は、今日は仕事用のタイトなドレスを纏い、ダークブラウンのウェーブヘアを優雅に流している。彼女が動くたびに漂う薔薇の香りが、無機質な執務室に甘美な色香を添えていた。セラフィナはサトシの隣に立ち、当然のように彼の肩に自分の細い指先を添えた。
「既に、隣国の有力商人たちの債権は私が全て整理しました。彼らにとって、サトシ様の『統一規格』を導入しないことは、破産と同義ですわ。……ふふ、彼ら、あなたの数字に跪く準備ができていますの」
「経済的な外堀は埋まったな。……ミラ、技術的な同期はどうなっている」
「問題ありません。サトシ。……あなたが持ち込んだ『メートル法』と『キログラム』。これを魔導水晶に刻み込み、大陸全土の『計量器』を強制的に上書きする準備は整っています」
ミラが、知的な表情を崩さず、手元の水晶板を操作した。
洗練されたライトブラウンのボブカットが、彼女が覗き込むたびに揺れる。165cmの細身の体をサトシの194cmの影に寄り添わせるミラの姿は、冷徹な機械を扱う魔術師というよりも、王を支える賢公女のようだった。彼女のヘーゼル色の瞳は、サトシという「真理」に触れている時間に、深い悦びを感じていた。
「サトシの理論を術式に落とし込む作業……。この知的な高揚感は、アカデミーのどんな研究よりも私を熱くさせてくれるわ。……サトシ、今夜、もう少し詳しく『十進法』の応用について聞かせてくれる?」
「……業務時間内であれば可能です、ミラ」
「ちょっと! 二人とも、仕事にかこつけて密着しすぎよ!」
扉を勢いよく開けて入ってきたのは、17歳のエララだ。
ゴールデンブロンドの髪を弾ませ、エメラルドグリーンの瞳を燃え上がらせる領主様。彼女は160cmの体で背伸びをしながらサトシとミラの間を割って入り、サトシの太い左腕を力任せに抱き寄せた。
「サトシ! 王都の広場に、あんたの言った『基準の塔』が建ったわよ! リンネの奴、あんたに褒められたい一心で、たった3日で完成させちゃったんだから!」
「サトシ様! 基礎の誤差は0.01ミリ以下に抑えました!」
エララの背後から、控えめながらも真っ直ぐな瞳で現れたのはリンネだ。
抜けるように白い肌と、凛とした漆黒の瞳。透明感あふれる美貌を持つ彼女は、現場での汚れを感じさせない白いワンピースを着て、サトシを見上げた。26cmの身長差。リンネの純粋な憧憬の眼差しは、サトシの冷徹な心を一瞬だけ揺さぶる。
「……感謝する、リンネ。あなたの土木技術は、もはやこの世界の理を超えている」
「……っ! はい! サトシ様に認めていただけるなら、私、世界中の道を平らにしてみせます!」
リンネが顔を赤らめる中、部屋の隅でワインを傾けていたリディアが、雄弁に動く眉を上げながら微笑んだ。
「ふふ、リンネ様もエララ様も、相変わらずですわね。……サトシ様、実務面の準備も完了していますわ。王都の全役人に、新しい台帳の記帳法を叩き込みました。……逆らう者は、私の『笑顔』で黙らせておきましたから」
アッシュブロンドを美しくまとめ、大人の色香を漂わせるリディア。彼女の知的なブルーの瞳には、サトシのシステムを完全に理解し、それを運用するプロとしての誇りと、彼への深い愛着が宿っていた。
「ま、固い話はそれくらいにしなよ! サトシ、私の『雷脚』は、新しい標準化された『統一貨幣』の輸送準備を終えてる。空からはアイリスが、海からはマリーナが待機してるよ!」
24歳のユーナが、172cmの肢体を躍動させて割って入った。引き締まったウエストから覗く健康的な肌と、プラチナブロンドのポニーテール。彼女の野性的な美しさは、サトシの194cmの威容と並んだ時に、最も鮮烈な輝きを放つ。
「……影の掃除も終わっています。サトシ。統一規格を『悪魔の儀式』だと扇動していた宗教団体……。今頃、彼らの『情報』は、私が闇の中で処理しておきましたわ」
サトシの影から音もなく現れたプリヤ。174cmの長身とエキゾチックな美貌を誇る彼女は、漆黒の瞳に微かな熱を宿し、サトシの背中にそっと自分の体を預けた。彼女の唇に浮かぶエクボは、サトシという主に対する、絶対的な服従と独占の証だった。
194cmのサトシを巡る、7人の絶世の美女たち。
17歳のエララ、28歳のリディア、24歳のユーナ、24歳のミラ、25歳のセラフィナ、28歳のプリヤ、そして19歳のリンネ。
それぞれの極致の美しさを、内面から滲み出るオーラへと昇華させた彼女たちが、サトシを支え、同時にその「隣」の座を狙って激しい心理戦を繰り広げている。その光景は、もはや一つの帝国を優に凌駕する華やかさだった。
「……第1次基準化を開始します。これより、この大陸の全ての『価値』を、私の数字で定義する」
サトシの冷徹な号令とともに、王都中央の「基準の塔」から強烈な魔導波が放たれた。
◇◇◇
王都の地下水路。
かつて栄光の勇者と呼ばれたアルフォンスは、今や湿った壁にもたれかかり、震える手で「銅貨」を数えていた。
「……なんだ。この銅貨は……。昨日まで使えていたはずなのに、重さが違うと言われて、パン一つ買えないなんて……」
彼の前には、ヴァレリウス領の腕章をつけた若き役人が立っていた。役人の手には、サトシが配布した「精密デジタル秤」が握られている。
「勇者様、いや、アルフォンスさん。今の法では、その銅貨は不純物が多すぎて価値が認められません。……サトシ様が定めた『新王立基準』を満たしていない金銭は、ただの金属屑ですよ。……あ、どうしても食糧が欲しいなら、あちらの『物流センター』で、パレット洗いの労働に従事すれば、1時間で3枚、正規のコインがもらえますよ?」
「……っ! 荷物持ちの仕事を、私にしろと言うのか……!」
アルフォンスの聖剣は、もはや鞘の中で錆びつき、抜くことさえ難しくなっていた。
自分たちが「力」だと思っていた魔法も剣も、サトシが構築した「数字と規格」という巨大な暴力の前には、ゴミ同然に無価値なものと化していた。
「サトシ……! お前は、人の心まで……数字で量り売りするつもりか……っ!」
勇者の慟哭は、王都を駆け抜ける新型配送馬車の、軽快な車輪の音にかき消された。
◇◇◇
その夜。王都を見下ろすヴァレリウス・センターのテラス。
「度量衡の統一」の初期稼働が100%の精度で完了したことを祝い、7人のヒロインたちがサトシを囲んで祝杯を挙げていた。
サトシは194cmの体をデッキチェアに預け、月明かりに照らされた王都の「秩序」を見つめていた。
「……お疲れ様。サトシ」
最初に隣を確保したのは、エララだった。彼女はパーティ用の白いドレスに着替え、サトシの大きな手に自分の手を重ねた。
「あんたの言った通り、規格が揃ったら、街の人たちが喧嘩しなくなったわ。……みんな、あんたの決めた数字を信じて生きてる。……私、そんなあんたが、少しだけ誇らしいわよ」
「……誇る必要はありません、閣下。これは管理を容易にするための、『ハッシュ値』の固定に過ぎません」
「ふふ、相変わらず可愛くない。……でも、そういうところが、私たちを惹きつけて止まないのですわね」
リディアが、バイオレットの瞳を潤ませながらグラスを合わせた。
「サトシ、統一規格による魔導共鳴で、大陸の資源分布も可視化できました。……次は、どこを『ハブ』にしますか?」
ミラが、知的な期待を込めてサトシを見つめる。
「旦那、私の『雷脚』はいつでも行けるぜ。世界中どこだって、最短ルートで届けてやるよ」
ユーナが、自慢の脚を組んで微笑む。
「経済の『心臓』は、もうあなたの手元にあります。サトシ様、世界をあなたの色に染め上げましょう」
セラフィナが、サトシの髪に指を滑らせた。
「あなたの影に潜むものは、全て私が排除しますわ。サトシ、あなたはただ、その玉座に座っていればいいの」
プリヤが、背後から首筋に甘い吐息を吹きかける。
「サトシ様……私、もっと大きな、世界を繋ぐ港を作ります。あなたの夢を、石と鋼で形にします!」
リンネが、純粋な決意を瞳に宿して宣言する。
194cmのサトシ。
30歳の冷徹な管理職。
その巨躯に寄り添い、絡みつき、支える7人の絶世の美女たち。
彼女たちの瞳には、もはやサトシという「システム」の虜になった、盲目的なまでの愛情が渦巻いていた。
「……第11フェーズ、移行」
サトシは、彼女たちの熱を一身に受けながらも、冷徹に独りごちた。
「次は、魔王城そのものを解体し、大陸最大の『自動仕分けセンター』として再構築します。……魔王というリソースを、私の物流網における『動力源』として最適化するために」
30歳の冷徹な男の瞳が、青白く、そして底知れない知性の深淵を覗かせながら、夜の静寂を切り裂いた。




