第10話 氷の接吻、あるいは情報の凍結
王都は今、未曾有の「秩序」の中にあった。
サトシが持ち込んだコンテナ化とパレット輸送により、王都の物価は安定し、かつての飢えは遠い過去の記憶となりつつあった。しかし、サトシ・クドウという男の辞書に「停滞」の二文字はない。
「……第1段階は完了しました。ですが、現在の流通品目は、依然として穀物や魔石といった『乾いた物資』に偏っている。これは健全な市場とは言えません」
王都を見下ろすヴァレリウス通商本部の最上階。
サトシは194cmの巨躯を窓際に立たせ、冷徹な目で都市の鼓動を見つめていた。
30歳。鋭利かつ重厚な大人の色気。彼の纏う漆黒のスーツは、その圧倒的な存在感をより際立たせていた。
「サトシ様の仰る通りですわ。現在、王都に届く生鮮食品、特に南方の果実や魚介類は、その60%が輸送中に腐敗・劣化しています。……これは莫大な経済的損失ですわ」
サトシのすぐ傍らで、最新の財務表を掲げるのはセラフィナだ。
深いスリットの入ったドレスから覗くしなやかな脚を優雅に組み、サファイアブルーの瞳をサトシに向けた。彼女が動くたび、高級な薔薇の香りが部屋に満ち、その気品ある美しさは周囲の男たちを容易に跪かせる魔力を持っていた。
「そこで、これの出番ですね」
ミラの涼やかな声が響く。
24歳の彼女は、知的な顔立ちを微かに綻ばせ、テーブルの上に青く輝く「魔導冷却ユニット」を置いた。洗練されたライトブラウンのボブカットが、彼女が覗き込むたびに揺れる。
「サトシから提案された『断熱材』と、私の『吸魔冷却術式』を組み合わせました。これをコンテナに組み込めば、零下10度を14日間維持できます。……誤差は0.05度以内です」
「素晴らしいな、ミラ。……これで『コールドチェーン』が完成する」
サトシがミラの頭に軽く手を置くと、いつもクールな彼女の頬が瞬時にヘーゼル色の瞳と同じように熱を帯びた。それを見ていたエララが、椅子から飛び上がる。
「ちょっと! ミラばっかり褒めて! サトシ、私の『物流騎士団』も、その冷たい箱を運ぶ訓練を完璧に終わらせたんだから!」
17歳の若々しくも苛烈な美貌。ゴールデンブロンドの髪を逆立ててサトシの腕に抱きつく彼女は、34cmという圧倒的な身長差をものともせず、その独占欲を全身で表現していた。
「分かっている、エララ閣下。……それと、ユーナ。準備は?」
「バッチリだよ、旦那! 港にマリーナが用意した最新の『保冷船』が10隻、出航の合図を待ってる!」
24歳のユーナが、172cmの肢体を豹のようにしならせて答えた。エキゾチックな美貌に、プラチナブロンドのポニーテール。彼女が身を乗り出すと、引き締まったウエストと豊かな胸のラインがサトシの視界を掠める。
「サトシ様! 港の保冷倉庫、コンクリートの養生が完了しました! ……私、サトシ様が食べるための新鮮なイチゴ、一番に届けますから!」
19歳のリンネが、透明感あふれる笑顔でサトシを見上げた。抜けるように白い肌と漆黒の瞳。彼女の清純な美しさは、殺伐とした戦略室において、唯一の救いのような光景だった。
「……影の掃除も完了しました。王都の貴族共が仕掛けた、冷石の買い占め工作。……首謀者は、今頃地下で『氷の接吻』を味わっていますわ」
サトシの影から音もなく現れたプリヤ。エキゾチックな長身美女は、174cmの長い手足を活かしてサトシの背後に寄り添った。漆黒の瞳に宿る鋭い光と、エクボの浮かぶ唇が、サトシにだけ見せる甘美な色香を放っていた。
「……報告ご苦労、プリヤ。リディア、マリーナ。最終確認を」
「ええ、準備万端ですわ。王都の全市場に『鮮度』という名の革命を届けましょう」
「海軍の全航路を保冷船優先に切り替えました。……サトシ様、行きましょう!」
28歳のリディアと22歳のマリーナが、それぞれの「プロの顔」でサトシに微笑んだ。
アッシュブロンドをまとめた知的なリディアと、海軍制服から覗く美脚が眩しいマリーナ。
194cmのサトシ。その周囲を、17歳から28歳まで、各分野の頂点に立つ8人の絶世の美女たちが取り囲む。
この光景がもし公になれば、王国の全男性が嫉妬で発狂するだろう。だが、彼女たちの視線は、ただ一人の男――自分たちの存在価値を「最適化」によって見出し、世界を塗り替えていくサトシだけに注がれていた。
王都、中央市場。
そこで「奇跡」が起きた。
本来、南方でしか食べられず、王都に届く頃には泥のように腐っていたはずの「太陽の果実」が、サトシのコールドチェーンによって、まるで今もぎ取ったかのような鮮度で山積みにされたのだ。
「……冷たい! 果実が、氷のように冷えて、輝いている!」
「美味い……! 鮮魚が、海の香りをそのままに残しているなんて!」
市場を埋め尽くす民衆の歓声。
サトシがステージに立つと、広場を埋め尽くした数万の民衆は一斉に静まり返り、それから割れんばかりの拍手で彼を迎えた。
194cmの威容。その背後には、それぞれが女神のような美しさを放つ8人のヒロインが並ぶ。
彼女たちは、民衆からの羨望と畏敬の眼差しを一身に浴びながらも、誇らしげにサトシの半歩後ろを歩いた。
その光景を、市場の片隅で、ボロボロになったパンの耳を齧りながら見つめる影があった。
「……ああ、ああ……っ」
勇者アルフォンス。
かつてサトシを「無能な荷物持ち」と笑った少年は、今や見る影もなく落ちぶれていた。
彼のパーティメンバーであった女魔術師も、女戦士も、もはや彼を勇者とは呼ばない。
「勇者様……見て。サトシ様の隣……王都の最高顧問だったミラ様。あんなに幸せそうに笑う方だったなんて……」
「セラフィナ様もよ。あの方は王国のどの貴族が求婚しても見向きもしなかったのに。……今は、あのサトシという男の影を踏むことさえ幸せそうに見えるわ……」
アルフォンスは、震える手で聖剣の柄を握ったが、それを引き抜く力さえも残っていなかった。
かつて自分が「ゴミ」のように捨てた男が、今や世界の「欲望」と「供給」を統べる神のごとき存在となっている。
自分たちが命を懸けて魔王軍を倒そうとしていたその影で、サトシは「冷たい箱」一つで世界の理を書き換えてしまったのだ。
「サトシ……! お前は……お前だけは……!」
アルフォンスの恨み言は、幸せそうに果実を頬張る子供たちの笑い声にかき消された。
その夜。サトシの個人オフィス。
コールドチェーンの初期稼働率が120%を記録し、第8フェーズの成功が確定的となった頃、部屋にはサトシと8人のヒロインたちだけが残っていた。
「お疲れ様でした。サトシ様。……勝利の美酒を、冷やしておきましたわ」
リディアが、キンキンに冷えた白ワインをグラスに注ぐ。
サトシは194cmの体をソファに沈め、差し出されたグラスを一口飲んだ。
「……最適化に終わりはない。リディア」
「分かっていますわ。でも、今夜だけは……私たちがあなたを独占する時間を、最適化させてくださいな」
リディアの言葉を合図に、ヒロインたちがサトシを囲む。
サトシの腕に額を寄せるエララ。
彼の長い脚に自分の美脚を絡めるように座るマリーナ。
背後から首筋に冷たい指先を這わせるプリヤ。
知的な熱を瞳に宿して隣に座るミラ。
サトシの正面で、優雅に脚を組み替えてワインを煽るセラフィナ。
「旦那、次はもっと熱い仕事もしようぜ」と笑いかけるユーナ。
「私、サトシ様のために、もっと大きな倉庫を作ります!」とはしゃぐリンネ。
194cmの男を巡る、8人の絶世の美女たち。
彼女たちの瞳には、もはや隠しきれない情熱と、サトシという「システム」の一部でありたいという、狂信的なまでの愛が渦巻いていた。
「……第9フェーズ、移行」
サトシは、自分に群がる彼女たちの熱を感じながらも、冷徹に独りごちた。




