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トランス藥

〈肉食へばふと思ふなり熊祭 涙次〉



【ⅰ】


牧野旧崇。* 體内に「龍」を飼ふ男。彼はカンテラ事務所付「開發センター」の管理人である。健康な男の常として、勤務先での出世慾は旺盛。** 今日も新たな資格取得の為に頑張つてゐる。だが、カンテラが彼を雇つてゐるのは、主に「龍」の事に拠つてゐた。何も普通の會社員のやうな事をやらせて置く為ではない。彼が「龍」を吐き出すのは、彼が「心身喪失狀態」にある時に限られる。「龍」が必要な場面では、じろさんにその都度裸絞めを掛けられて、「落ちて(氣絶して)」ゐるのだが、その後の「龍」のオペレイトの事まで考へ併せると、一々「落ちて」ゐるのでは不便だし、朦朧とした意識の儘では危険でもある。



* 當該シリーズ第93話參照。

** 當該シリーズ第186話參照。



【ⅱ】


見兼ねて安保さんが助け舟を出した。安保さんは、一瞬だけトランス狀態に陥る藥を開發したのだ。「龍」を呼び出すには、ほんの一瞬だけ牧野が「落ちれば」良い。この藥に依つて、牧野の「龍」召喚は大分樂になる。裸絞め不要となるからだ。安保さんは甥・卓馬が、石田玉道の星から持ち込んだ、* フラーイの花を精製し、この「トランス藥」を造つた。効き目が後を引かない、安全な「麻藥」となる、筈だつたが...



* 當該シリーズ第141・152話參照。



【ⅲ】


この事に依り、卓馬が戀人のアンドロイド・寄與美と、フラーイ吸引に耽つてゐる事がバレてしまつた。親バレならぬ伯父バレである。安保さんは、卓馬が慾しがる物なら、何でも與へてきたつもりだ。戀人・寄與美も、卓馬の為安保さんが製作したのだ。然し、これでは大學受験どころの騒ぎではない。* 卓馬は、フラーイ中毒だつた。元より、安保さんには、石田に文句を付けるつもりはなかつた。フラーイ吸引は石田の星の、シャアム族の傳統的習慣である。それを眞似した卓馬が莫迦だつたのだ。流石の安保さんも、「佛の顔も何とやら」で、卓馬に雷を落とした。



* 當該シリーズ第151話參照。



※※※※


〈刻々と冬將軍の馬蹄音身近に聞きつ未明の喫煙 平手みき〉



【ⅳ】


で、安保さんの「トランス藥」には一つ欠陥があつた。副作用- この藥には習慣性があつたのだ。牧野、安保さんに「あの藥を下さい...」とねだる。これはいかん、と安保さん副作用止めの藥を「処方」した。牧野のケースはそれで終はつたのだが。



【ⅴ】


だうやら、「開發センター」に忍び込んだ或る【魔】が、その藥をくすねたらしい。怪盗もぐら國王のところの故買屋Xが、早くも「トランス藥」が合法ドラッグとしてブラックマーケットに出品されてゐる、と教へてくれた。フラーイの花の効き方は、言葉にすれば「じはじは」としてゐたが、「トランス藥」の効き方は、もつと手つ取り早いのだ。良く効く「ヤク」として、その筋の者らには重寶されてゐるらしい。



【ⅵ】


カンテラは、その安保さんの苦衷を察して、ブラックマーケットに乘り込み、「トランス藥」を盗んだ【魔】を斬つた。被害(?)は倖ひにも廣がらずに濟んだ。



【ⅶ】


牧野はヤク中ではなかつたから、「龍」を呼び出す際にはきちんと「トランス藥」と副作用止めとを併用してゐたが... 問題なのは卓馬である。安保さん、「甘やかし過ぎたか-」。彼と寄與美はフラーイ吸引を已めなかつた。安保さんにとり、頭痛の種が一つ増えた譯である。漢方藥も用法を間違へると、大變な事になるのは、良く知られた事だ。ナチュラル・ドラッグとは云へ、フラーイの花は問題だ。だうにかならんもんか- その安保さんの問ひには、さしもの(* カンテラとても、外殻に入つての灯油補給には「中毒」してゐた)カンテラにも、應へやうがなかつた...



* 當該シリーズ第129話參照。



※※※※


〈寒々と同化政策思ひけり 涙次〉



【ⅸ】


まあ我々には、安保さんの苦悩が脊負へる譯でなし、牧野と「龍」のより一層の活躍を待つばかりであらう。安保さんにも失敗はあるのだ。失敗のない人間なんて、詰まらないもの。と、云ふ事で、この案件はこれにて閉幕。問題は問題として殘して置くしか、我々には道がない。ぢやまた。


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