第9話 最後の敵、魔王党!討論バトル、開幕
「ついに来ましたわ……魔王党です……!」
リエルが震える声で言った。
彼女の顔には、これまでのどの対戦よりも濃い絶望の色が浮かんでいる。
「え、ちょっと待って。魔王党って何その絶望ワード」
「そのままですわ。
腐敗・圧政・利権・不正・謎の献金・煙に巻く答弁──
全てを詰め込んだ、“悪の集大成”ですの」
「どうしてそんな政党が存続してんだよ!?選挙制度バグってんのか!?」
「“バグ”ではなく、“仕様”ですわ♡」
この異世界の闇、深すぎる。
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そして現れた最終戦の対戦相手──
◆政党名:魔王党
代表:ダークロード・マサカズ
•称号:闇の支配者・元国会答弁無双・元祖なんでも反対マン
•特徴:何を言われても言い返さず、煙に巻く
•魔法スキル:うやむや結界
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開会式。ステージに現れたマサカズは、ダークスーツにフードを被り、光の当たらない椅子に腰かけていた。
「ふっ……ようこそ、若き理想主義者たちよ。
今日、君たちの討論は“議事録から削除”してあげよう……」
「言論封殺予告じゃねぇか!!」
観客もどこか怯えた様子だ。
この男、何を言われても動じず、あいまいな発言で論破を回避するという“最悪のスタイル”の持ち主。
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討論開始──
まず、俺が切り込む。
「マサカズ、お前の政治には“未来”がない!
利権と保身と責任回避だけじゃ、誰も前に進めない!」
「そうですね。ご意見はごもっともですが、それはそれとして今後の議論の推移を見守りながら……」
「話が、終わらねぇ……!!」
クラリスが即座に前に出る。
「このままじゃ討論にならない!
“議論回避結界”が張られてる!」
「はい。スキル名、《うやむや結界》ですわ」
リエルが補足する。
このスキル、相手の攻撃を自動で“曖昧な返答”に変換してかわすというチート技。
言葉のドッジボールならぬ、言葉のワカメスープ。
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だが、俺たちには──“人間力”がある。
「クラリス! ミャウル!作戦Cで行くぞ!」
「了解」
「言霊を かき乱すのは 正論だ」
まずクラリスが論点を一点に絞る。
「質問よ、マサカズ。
あなたは、若者の投票率低下をどう改善するつもり?」
「なるほど、ご質問ありがとうございます。投票行動については各々の自由意志が尊重されるべきであり、その中で──」
「発動!“ロジック拘束魔法・Yes or Noで答えなさい!”」
《質問:若者向け投票制度改革に、賛成か反対か!?》
空中に表示される二択!
マサカズの目が一瞬揺れる。
「そ、それは、ですね……さまざまな意見を踏まえた上で……」
「はい、討論スロー判定入りました!」
リエルの笛が鳴る。
“答弁回避”が3回続くと、支持率が自動的に下がる制度が、この大会にはあるのだ。
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次にミャウルが出る。
彼は、ふっと詩を紡ぐ。
「語らぬは
己の中の
恐れなり」
「詩的攻撃、発動──**“韻撃”!**」
マサカズの後ろの椅子が爆発した。
「なっ、なぜ!? 詩で破壊されるのか!?」
「この世界は“言葉が現実になる”んだよ。お前こそ、覚悟決めて語れ!!」
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そして、俺はマイクを握った。
「逃げてばかりの政治が、どれだけ人の心を遠ざけるか。
お前がやってきたのは“支配”だ。
でもな、政治ってのは──**“一緒に考えること”**なんだよ!!」
発動!
「“想い爆裂魔法・ディスカッションフィナーレ!!”」
拳を突き上げ、最後の言葉をぶつける。
「逃げるな、マサカズ!!
答えろよ、“あんたの信じる未来”を!!!」
ズゴォォォォォン!!
白銀の光が、結界を貫いた。
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沈黙──
そして、
「……ふっ……私は……なぜ……あんなに答えるのが、怖かったのか……」
マサカズのフードが落ちた。
その顔には、若き日と同じ、“信念”が宿っていた。
「討論不能状態──よって、勝者・残業ゼロ党!!」
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観客、総立ち! 支持率はついに100%に到達!!
リエルは泣いていた。
「……ついに、腐敗と沈黙を破りましたのね……」
ミャウルが一句。
「議会とは
黙ることなく
語る場所」
俺は静かにうなずいた。
そうだ──
言葉が、世界を変えたんだ。
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そして俺たちの戦いは、ここに終わり、
新たな始まりを迎える。
次期・統一連邦代表、シン=カグラ。
異世界に、初めて“定時で帰れる未来”が訪れるかもしれない。
いや──必ず、訪れさせる!
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(第9話 了)