第5話 予算と爆発と焼きそば券
フクナミ州・中央アリーナ──
そこは普段、魔法プロレスや学園討論甲子園などに使われる屋内スタジアム。
だが今日は違う。
ステージ中央に“魔法式演説台”が二つ設置され、観客席には満員の観衆。
テーマはただ一つ。
「残業ゼロ政策の財源、どうするの?」
観客の視線が俺たち残業ゼロ党に集中していた。
対するのは、焼きそばと恫喝の政治集団・圧政党。
現れたのは幹部の一人──
「ヨォッ! 本日はお日柄もよろしく!
圧政党、金権担当のカネトモ・モーリだッ!」
観客がざわつく。彼は悪名高いが、人気もある。
前回の選挙では“焼きそば券戦術”で票をごっそりかっさらった実績を持つ。
「それじゃあいこうか。テーマは“予算”。
アンタらの“定時帰り政策”、どうやって財源つけんのか、見せてもらおうじゃないのォ?」
俺は、深く息を吸って演説台へ立った。
「まず、俺たちは“無駄な予算の再構築”を掲げている。
具体的には──フクナミ州の“お茶会推進費”年間17億ズリ(単位)をカット!」
観客が「うわー」とざわめく。
「ふむ、なるほど。ですがねぇ、我々圧政党は“お茶会”こそが地域の絆を育てるって考えてるんですよォ」
カネトモがニタニタしながらカバンを開く。
「たとえばこちら──**“焼きそば券配布プロジェクト”**。
これによって経済は回り、地域住民は喜び、支持率は爆上げ! ね?健全でしょ?」
「完全に買収やないかァ!!」
クラリスが横からツッコミを入れる。
「焼きそば券だけで州の予算の3割を食いつぶすって、もう政治というより屋台経済でしょ!」
「ふふ……ならば、実力で証明していただきましょうか!」
カネトモが掲げた魔導書から、不気味な金色のオーラが放たれる。
「発動──金権魔法《利権ビッグバン》!」
彼の足元から巨大な“領収書”が出現し、地面を叩きつける。
《内容:交際費 999,999ズリ 用途:飲みニケーション強化》
バゴォン!!
爆発とともに、会場が一部吹き飛んだ。
「お前の“爆弾”は税金で買った飲み代かよ!!」
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「こっちの番だ」
クラリスが冷静に前に出る。
「こちら、昨年のフクナミ州の“役所内マッサージチェア予算”──年間3億ズリ。
誰が使ってるのよ?」
そう言って魔導タブレットを掲げる。
「発動──**“理路整然砲・ver2.0”**
《快適さの前に快適な未来を》!」
ズドォン!!
衝撃波が観衆の心を打ち、支持率+10%。
「ぬぬぬ……!」
カネトモが一歩引いた。
次は……猫耳男の出番だ。
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ミャウル=マンダリン。猫耳。詩人。
見た目アイドル、中身は時々わからん。
彼はふらっと前に出て、一言。
「残業代
未来の借金
誰が払う」
静寂。
次の瞬間──空中に巨大な句が浮かび上がり、金色の帳簿を貫いた。
「発動──**“世論誘導韻・改”**」
会場全体に“定時の風”が吹き抜けた。
観客のハートがざわつき、カネトモがひざをつく。
「な……なんで俳句で説得力が出るんだ……ッ!」
支持率、さらに+15%。残業ゼロ党、ついに50%越え!
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最後に、俺が立ち上がった。
「金の魔法で人の心を買うな!
必要なのは、未来に投資する勇気だ!!」
右手を掲げ、全力で叫ぶ。
「発動──**“残業ゼロ光線・改”**!!」
白銀の閃光が天井を突き抜け、議事魔法空間が振動する。
カネトモの“金権防御結界”を打ち破り、直撃ッ!!
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「ぬあああああああああああ!!!」
スーツが焦げ、領収書が燃え、焼きそば券が空を舞う。
カネトモ・モーリ、討論不能状態(KO)。
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「勝者──残業ゼロ党!!!」
観客、拍手! 支持率は一気に62%まで上昇!!
リエルが涙ぐみながら言う。
「これで……この世界に希望の光が……」
「いや、まだ一県だよ!? あと十五自治区あるよ!?」
「でも、これは革命の第一歩ですわ♡」
ミャウルが一句詠む。
「議会にも
光さしたれ
定時風」
──俺たち、ちょっとずつ前に進んでる気がする。
焼きそば券に勝ったってことは、きっと何でもできる。
次の戦いは──さらなる強敵。
“テレビ討論番組”だという噂が入ってきた。
ああ、異世界議員はつらい。
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(第5話 了)