第3話 公開討論会!論破は戦争だ
フクナミ州議事堂、中央ホール──
そこは、魔力と野次とヤジロベエが飛び交う、言論と混沌の戦場だった。
「我ら、残業ゼロ党!いざ、初陣ッ!!」
気合いを入れて叫んだのは俺だったが、その背後には冷静沈着な毒舌官僚クラリス=ミナセと、五七五しか喋らない猫耳青年ミャウル=マンダリンが控えている。
「……勝ち筋、あるの?」
クラリスが眉ひとつ動かさずに言った。
「うん、まぁ、ゼロではない」
「それ、九割五分五厘負けるやつよ」
事実、今日の討論会の相手はフクナミ州の現職代表、トドメ=ヤブカラス。
“選挙6連覇の男”“利権の化身”“魔法的牛耳り屋”の三冠王である。
「シン様、敵の支持率は現時点で72%ですわ!」
「うちのは?」
「2%です!」
「嘘だろ!? どこで拾ってきた数字だそれ!」
「ミャウル様の女性人気が一部熱狂的で……♡」
猫耳の本気をなめていた。
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そして、討論会が始まった。
司会進行のエルフが開会を告げると、
まずは現職・ヤブカラスが壇上に上がった。
「私はこの州の繁栄を守るため、合法的な献金を受け取り、合法的に道路をねじ曲げ、合法的に票を集めてきたッ!!」
なにが合法だ。全部アウトだ。
だがこの世界、**“論理の通った主張”**であれば魔力が増幅され、
聴衆の支持率を直接揺さぶることができる。
「論点すり替え魔法・オブラートクラッシュ!」
彼の発した言葉が、光となって空中に浮かび上がる。
《地域密着=親戚優遇=温かみある政治》
爆発音とともに観客がうなずいた。支持率+6%。
「ちょっと待て!? その論理飛躍しすぎだろ!!」
「魔法ですので♡」
リエルがにっこり笑った。笑ってる場合じゃない。
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「……私がいくわ」
クラリスがすっと前に出た。
「この世界の予算配分表を見直してみなさい。
“茶会予算”が“子育て支援”の4倍? 正気とは思えない」
そう言って、クラリスは手元の魔導書からページをめくる。
「発動──**“理路整然砲”**!」
《茶と子供、どっちが未来を育てるか》
ズドン!!
魔力が観衆を揺さぶり、一部のご老人が爆笑しながら涙を流した。
支持率、+8%。
ヤブカラスが舌打ちする。
「小娘が! 感情論で勝てると思うなよ!」
「ふーん、じゃあ次はこの子でどう?」
俺が目配せすると、猫耳の青年──ミャウルがすっと前へ出る。
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静寂。
ミャウルは一歩前に出て、口を開く。
「未来見えぬ
道なき道に
茶をまくな」
観衆「……おおお……」
その一句が、まるで魔術詠唱のように空間を染めた。
「発動──“世論誘導韻”」
空中に浮かび上がった句が輝きを放ち、ヤブカラスの頭上で炸裂した。
爆発音。
髪が逆立ち、スーツがボロボロになる現職。
「な、なんじゃこりゃあああ!!」
支持率、マイナス12%。
そして、俺たち残業ゼロ党──
**+20%**の大躍進!!
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「……まさか、ここまでとは」
リエルが驚いた顔をしていた。
「ミャウルの一句、そんなに効くのか……」
「詩は、刃。政治、舞台よ。
舞うがよいぞ、正義の吟遊詩」
「さすがにそれ五七五じゃないな?」
だが、この世界では──
論理も、情熱も、言葉も、全てが武器になる。
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そして最後に、俺が壇上に立った。
「俺たちの政策はたった一つ!
“定時で帰れる社会をつくる!”
残業ゼロ、それが未来への第一歩だ!」
その瞬間、俺の全身に力が走る。
《魔力特性発動:職場改革願望》
「発動──“理想追求ビーム・ノー残業光線”!!」
俺の拳から放たれた謎の光線が、議事堂の天井を突き抜けた。
ヤブカラス、完全に白目。
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「決した!! 公開討論の勝者──残業ゼロ党!!」
支持率:初期2%→現在38%!
「まさか……ここまでやるとは」
「やった……! やりましたわシン様!」
クラリスが小さく笑い、ミャウルが“ガッツポーズ風の猫ポーズ”を決めていた。
俺は、ぐったりと座り込みながらつぶやいた。
「定時で帰るつもりだったのに……なんで爆発魔法撃ってるんだ俺……」
──だが、異世界は変わり始めていた。
ひとつの討論、ひとつの言葉が、世界を動かす。
次の相手は、さらにヤバい奴らが来るらしい。
まだ、戦いは始まったばかりだ──。
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(第3話 了)