第1話「異世界改革、初日から詰みました」
政権交代から三ヶ月──俺は、今日もため息をついていた。
「……なんで、俺、定時で帰れないんだ?」
議会で多数派を獲得し、夢の“残業ゼロ社会”を実現したはずの俺、シン=カグラ。
だが、目の前のデスクには**“改革開始前・事前手続き申請書(第1万4732号)”**の山が積まれている。
「うーん……これは地獄ですね♡」
いつものテンションで笑うのは、選挙管理精霊リエル=サンドラ。
なぜか今は副魔王省担当政務官のバッジを付けている。
「リエル、お前……まさか副魔王省にスカウトされたのか?」
「いえ♡“強制出向”です♡」
異世界ニッポンの政治、相変わらず闇が深い。
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「さーて! 本日から“副魔王省予算ヒアリング”で〜す♪」
リエルが元気よく言った瞬間、ドアが吹き飛んだ。
「失礼します!!」
現れたのは──
「副魔王省 総務調整局長、カゲカツ=クロガネ、参上!!」
全身黒スーツ、黒マント、黒ネクタイ、顔は能面のように無表情。
唯一の特徴は**“どこからでもツッコミを入れたくなる完璧すぎる逆三角形体型”**だった。
「あなた方の改革案、我が副魔王省の規定により──全却下です!!」
「即日否決!?俺まだ口開いて3秒しか経ってないんだけど!?」
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毒舌官僚クラリスが冷静に資料をめくる。
「……理由は?」
「第一条:新制度導入は“現体制温存の原則”に反するため!
第二条:残業ゼロは副魔王省のアイデンティティ危機につき不可!」
「もう存在がバグじゃんこの省庁!!」
猫耳詩人ミャウルが一句詠む。
「ゼロ目指し
役所の圧で
残業倍」
「詩で状況悪化するのやめてくれ!?」
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俺は立ち上がった。
「ふざけんな! この国のトップは議会の民意だろ!?」
カゲカツがニヤリと笑う。
「“副魔王省調整権”により、議決後でも“現場裁量での握りつぶし”が可能です。
異議があるなら、“予算ヒアリング魔法討論”で対抗するがよい!」
リエルが耳打ちしてきた。
「……シン様、副魔王省は**“予算爆破術”**の使い手です。
過去には税収の50%を“茶会予算”で消し飛ばしました♡」
「改革開始1秒で負けそうな未来しか見えねぇ!!」
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だが、ここで怯んでたまるか。
俺は手を掲げた。
「やってやろうじゃねぇか。
副魔王省、まずは残業ゼロ補助金で殴り合おうぜ!!」
クラリスがキリッとメガネを光らせた。
「論破開始ね。
──最低でも“帰宅ポイント制度”だけは通すわよ」
ミャウルも静かに拳を握る。
「帰りたい
だから戦う
その想い」
俺たちの第二部の戦いが、今、始まった。
異世界議員は、まだまだつらい!!
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(第1話 了)




