第10話 就任演説!定時で帰る国のつくりかた
異世界ニッポン、統一議事堂──
その中央ホールには、満員の聴衆、魔導カメラ、空飛ぶ報道ドローン。
そして壇上には……俺がいた。
「では……これより、新統一代表シン=カグラによる就任演説を開始いたします」
司会エルフの合図とともに、ライトが俺を照らす。
俺の右隣には、クラリス=ミナセ。
左には猫耳の詩人、ミャウル=マンダリン。
そしてその背後には、選挙管理エルフ・リエルの感涙が滝のように流れていた。
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俺は、マイクを握り、深く息を吸った。
「はじめまして。
いや、今は“ただいま”と言うべきかもしれません」
笑いが少し起こる。
俺は続けた。
「俺は、ただの公務員でした。
定時で帰って、冷蔵庫の半額弁当を楽しみに生きてました。
そんな俺が、今こうして、異世界の代表になってる。信じられません」
「だけど──ひとつだけ、ずっと変わらなかったことがある」
俺は、拳を握りしめた。
「働く人が、ちゃんと笑って帰れる世界にしたい。
それが、俺の、最初で最後の政治理念です!」
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演説ホールに光が広がる。
「俺は、かつて“夢みたいなこと言ってる”と笑われた。
“現実を見ろ”と叱られた。
でも、誰かが夢を信じなきゃ、現実は変わらない!」
俺は壇上から、ひとつひとつ、政策を提示した。
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政策提案(ざっくりver)
1.公共サービス時短改革法案
→ 無駄な会議を魔法で短縮。報告書は“自動精霊化”
2.残業税導入案
→ 企業が労働時間を延ばせば国に追加納税(その金は働く人へ還元)
3.帰宅応援補助金制度
→ 定時に帰ったら“帰宅ポイント”が貯まり、魔法スーパーで割引!
4.討論議会の時間制限ルール
→ 長引く討論には「爆発カウント」が発動。だいたい物理的に終わる
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「この国を、笑って帰れる国にしたい!
難しいことかもしれない。けど、それでも──」
「俺は、帰りたいんだよ!定時に!!」
「みんなで帰ろう!! 一緒に!!」
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その瞬間、観客席が爆発的に沸いた。
「帰りてええええ!!!」
「残業なくせえええ!!」
「弁当半額ラブッ!!」
支持率は、**120%(魔法的補正)**を超えた。
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クラリスがつぶやく。
「……まさか、演説でここまで熱狂を……」
「言葉に心があった。
理屈じゃない、魂のポエムだった」
「ポエムじゃねぇよミャウル」
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演説後、俺たちは控室に戻った。
「シン様……まさか、本当に……
“異世界初・全会一致”での信任を得るなんて……」
リエルが涙を拭いながら笑う。
「やったな」
クラリスが肩を叩いてくる。
「次は……実行ね。言ったからには」
「わかってる。
始まりは“言葉”でも、変えるのは“行動”だ」
「その通り。
だけど、ひとまず……今日は、」
ミャウルが、マントをひらりと翻しながら言う。
「帰ろうぜ 定時過ぎたぞ 仲間たち」
「そこはポエムで締めるのか……!」
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こうして俺たちは、議事堂をあとにした。
空には星が瞬き、風は心地よく、どこかの家から夕飯のにおいがした。
「──定時って、いいな」
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(第10話 了)
第1部 ー完ー




