第1話 転生しました、立候補はしてません
俺の名前はシン=カグラ。
地球では、ごく平凡な地方公務員だった。
毎日山のような申請書と、忖度にまみれた上司、そして定時という幻想と戦い続けていた。
──そんな俺が、今は異世界のど真ん中に立っている。
目の前には、長い金髪にスーツを着こなしたエルフの女性が微笑んでいた。
「ようこそ、イセカイ・ニッポンへ。貴殿を“第七自治区・フクナミ州”の代表候補に正式に任命いたしますわ。心から……おめでとうございます♡」
「いや、ちょっと待ってくれ。誰が立候補した?」
彼女の名はリエル=ヴァレンティーナ。
この世界での“選挙管理委員会”に属するエルフ族らしい。
妖精っぽいのに、めちゃくちゃ現代風の言葉を使ってくるから脳がバグる。
「なお、この世界では“討論魔法”によって政治が争われますの。論破すれば相手の支持率が下がり、爆発もします」
「どうして討論で爆発する世界に転生させた!?」
リエル曰く、この世界『イセカイ・ニッポン』は16の自治区に分かれ、それぞれに“代表”がいて、国のあらゆる政治を担っているらしい。
が、その代表たちはいずれも腐敗しきっており、利権まみれ、縁故まみれ、酒と焼き鳥まみれだという。
「そのため、異世界外から“清廉な人材”を転生召喚し、改革の一手として送り込んでいるのですわ。あなた、勤怠が真面目で、パワハラ相談件数ゼロでしたわよね?」
「そこ見る!?」
まさか、俺の公務員としての地味すぎる“実績”が異世界の人材スカウト対象になるとは思わなかった。
「ちなみに、あなたの職業特性から能力補正がこちらになりますわ」
•文書力:B
•議事録速度:A
•残業耐性:SSS
•忖度回避スキル:A+
•組織内異物感:EX(最大)
「最後のステータスだけ地味にショックなんだが!?」
どうやら、俺は本気で“異世界で選挙に勝つ”ことを期待されているらしい。
しかも、ただの立候補ではない。
政党を設立し、仲間を集め、討論魔法の訓練をしながら、3日後の公開討論会に出場する必要があるらしい。
「そんなの……無理ゲーすぎる……」
ふらふらとその場に座り込む俺に、リエルが優しく微笑みかけてくる。
「大丈夫。あなたは、選ばれし“代議士の卵”ですもの。ここからが、本当の闘いよ」
──かくして俺は、
気づけば異世界で**“立候補してないのに候補者”**になっていた。
だが、やるしかない。
この腐った政治を、少しでもマシにするために。
……いや違う。
選挙に勝って定時で帰るために。
俺は立ち上がった。
「よし……まずは政党名を考えるか。『残業ゼロ党』とか……」
──こうして俺の、異世界政治バトル人生が始まった。
ツッコミどころ満載の異世界議会で、今日も誰かが爆発する──!
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(第1話 了)