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第4話 ボケていた勇者

 酒場で聞いた勇者様の住処は町の中心から歩いて三十分ほどの、まさに町外れといっていい寂れた場所にあった。

 しかしその家に人の気配は無い。


「いつもはその家の近くの川で釣りをしてのんびり過ごしているみたいだよ」

 さっきの酒場で聞いた話を思い出しながら、近くを流れる川の方へいってみる。すると、初老の男が釣りをしていた。


「勇者ジオさん?」

 ジャックは釣りの邪魔にならないよう小さな声で、かつ手短に尋ねた。


「んー?」

 初老の男はゆっくりと振り向くと、視力が衰えていて良く見えないのか顔をしかめながらジャックの顔を覗き込んだ。そしてその焦点をジャックに合わせたまま、しばらく動こうとしなかった。

 ピクシーはこの時、初老の男の反応に若干の違和感を感じ取って不思議そうな顔をした。しかし何がそう感じさせたのか、その理由を明らかにすることは出来なかったようだ。


「勇者のジオ様でいらっしゃいますか?」

 老いたりとはいえ、精悍な顔つき、年齢に不相応のたくましい肉体から本人で間違いないだろうと思ったジャックは、今度は目を見て丁寧にそう尋ねた。

 しかしその答えはジャックの期待を大きく裏切るものだった。


「う……ん? わしの名前……??? はて、なんじゃったろうか? ……お主がジオというなら、そういう名前……だったかも、しれんのぉ」

 発した言葉は少ないものの、その全てを聞き終えるのを待つには多少の忍耐力を必要とするほどゆっくりと初老の男は言った。


 会話のテンポに焦れていたピクシーが我慢の限界とばかりに、矢継ぎ早に質問を浴びせかける。

「四〇年前に魔物を撃退した勇者様でしょ?」

「なんでこんなところでぼけーと釣りしてるの?」

「奥さんとかいないの?」

「勇者様なのになんで町のみんなから放っておかれてるの?」


 何か聞く必要が無い……というより不躾(ぶしつけ)過ぎるものも入っているが、勇者様が気分を悪くしないだろうか? ジャックは質問への回答より、そっちのことが気になって気が気ではない。


「……」

 しかしジャックの心配は杞憂(きゆう)に終わった。ピクシーの言葉が聞こえているのか、聞こえていないのか……初老の男は無言のまま再び川面に視線を移すと、何事もなかったかのように釣りを再開した。


「もしかしたらボケちゃってるの?」

 先ほどまでの質問に輪をかけて失礼な言葉を投げかけたピクシーに苛立ちを感じたが、ジャックも同じ結論に達していた。そして勇者様なのに町の連中から忘れ去られようとしている理由も分かった気がした。


「これはなかなか大変な仕事になったな」

 ジャックは行き来に時間がかかるだけの「お使い」程度の仕事だと高を括っていたが、その難易度がここにきて跳ね上がったことを悟った。


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