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第2話 騒がしい同行者

「長旅になるかもしれないからこれも持っていくか……」

 そう言ってジャックは家の片隅に置かれた剣を腰に差した。

 今は亡き母親が大切にしていた剣である。父親のものだったのだろうか? と考えたこともあったが、記憶が全くない人間のことをあれこれ考えても答えは出ない。

 その剣はジャックにとっては唯一母親の記憶が宿る物として特別なものではあったが、剣は剣でしかない。剣術より格闘術の方が得意なジャックにとっては無いよりはマシだろう程度のものであった。


 準備がほぼ整った頃に外から元気よく声をかけてくる者がいた。

「やっほー! 準備出来てる?」


 ジャックは声のした方に視線を向けたが、そこには誰もいなかった。周りを見渡しても人の姿は無い。(いぶか)しんでいるジャックに向けて更に近くから声がかかる。

「おーい。ここ、ここ」


 相手が人間だと思っていたから気が付かなかったが、良く見れば目の前に自分の顔位の大きさの生物が羽をパタパタさせて飛んでいる。


「妖精族か?」

 初めて見る妖精にジャックは驚きを隠せなかったが、すぐにいつもの無表情へと戻っていた。


 そんなジャックを意にも介さず妖精は自己紹介を始める。

「ボクは王宮から派遣されたお目付け役。名前は……うーん人間の言葉だと難しいからピクシーでいいよ。主な役目は王宮との交信と簡単なヒーリングね」


 妖精族は人間には出来ない不思議なことができるらしい。代表的なものが同種族同士の念話のようなものと、ちょっとした怪我の治療だ。

 まぁ旅先でいちいち書簡を書いて王宮に報告するのに比べれば手間も時間も省けるし、万が一怪我をした時には治療してもらえるなら邪魔にはならないか……ジャックはそんなことを考えていた。

 しかし、ピクシーを連れていくことについては後に少しだけ後悔することになる。


「それじゃあ出発だ」

 ジャックは自分の発した声に自分の背中を押させると、王都を後にした。

 目指すはグスタフからの指示にあったフリースラという鉱山都市だ。


 ジャックの口数は比較的少ない……というより無口といっていいレベルである。

 同行者がいるとはいえ、道中は無用な会話をするつもりはなかった……のだが、そうはいかなかった。

 というのもピクシーは無類のおしゃべり好きで、しゃべってないと死んでしまうのか?  と思えるほど起きている間は何かしらしゃべっている。

 もちろんそれは独り言とはならず、ジャックへの質問という形をとっていた。


「ねぇねぇ、ジャックは何で戦士になったの?」

「なんとなく」

「なんとなくで戦士になれるって凄いね~もしかしたらジャックって超強いの?」

「さぁ? どうだろうな」

「ジャックはどうやって強くなったの?」

「……」


 幼い子供が「なんで?」、「どうして?」と次々に疑問をぶつけてくるようにピクシーの会話はそのほとんどが疑問形だ。しかも大半が「Yes」か「No」だけで返事が出来るようなものではなく、相手をするだけで多少の労力を必要とした。

 質問は永遠に続きそうだった。適当に相槌を打つだけでもジャックは疲れてきた。


 それにしても妖精というのはサイズはともかく、黙っていれば貴族の令嬢かと見まがうばかりの清楚で美しい外見を持っている。しかし、この口調と口数の多さでそれも台無しだ。


「天は二物を与えずとはこのことだな……」

 ジャックはそう独り呟くと、滅多に見せない笑みを浮かべた。もっともそれは自嘲的なものではあったのだが……


「ん? なんかいった?」

 珍しくジャックから話しかけてきたと思ったのか、ピクシーは嬉しそうに反応した。


 そしてそれをきっかけにして道中の会話は続いていく……


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