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第1話 王命

「おーいジャック。ちょっと来てくれ」

 ある日、騎士団長のグスタフは一人の戦士を呼び止めた。


 このジャックなる人物は平民にとっては憧れであり、狭き門でもある戦士団に試験を受けずに入団している。それはこのグスタフの口利きがあったからである。


 グスタフがジャックを戦士団にスカウトした理由は極めてシンプルだった。

 ジャックは人間性とかそういった定性的なことはともかく、単純に戦士として強かったのだ。

 ジャックに比べるとグスタフの直属の部下である騎士団員たちは、下級とはいえ貴族である。その為、実戦的な強さ……とりわけ根性の類が全く期待できない。いわば騎士団とは名誉職的な組織であって、使えない人間の集まりなのである。


 そういった理由から、グスタフは重要な任務の為にジャックの様な者を側に置きたかったのである。

「おいジャック。一介の戦士であるお前に王命が下ったぞ。とてつもない栄誉だ」

 そう言ったグスタフはやや興奮しているように見えた。ただこれはジャックのやる気を(あお)る為の演技であろう。


 実際、その命令を下した王自身はジャックの事など知る(よし)もなく、ジャックを指名したのはグスタフであろうことは誰の目にも明らかだった。

 しかし、それでもグスタフは管理職としてジャックのやる気を出させるよう持っていかなければならなかった。


 そう、ジャックはスカウトされたから戦士団には入ったものの、基本的にやる気が無かった。やる気が無いというより何事にも無関心……という方が正しいのかもしれない。

 仕事は暇つぶしの為になんとなくやっている……そんな感じの男なのだ。

 しかしその一方で、引き受けた仕事は黙々とこなすという生真面目な一面も持っていた。


 要するに上の者から見れば、うまく使えさえすればとても便利な男ともいえるのだ。

 グスタフがジャックに王命を伝える時、ジャックの気合を煽ろうとしたのはこの辺に理由があったといえよう。


 グスタフがジャックに伝えた任務の内容は「四十年前に勇者が使っていた剣」の捜索である。

 何故その剣が必要なのか? とか、その剣にはどのような力が秘められているのか? といった詳細は一切知らされない。

 一介の戦士にとっての任務とはそういったものである。


 とはいえ、どんな任務であろうと平民が王命を受けるといったことは滅多にあることではない。普通なら感泣するような話である。


 しかしジャックの反応は薄かった。

「了解しました。準備を整えて明日にでも出発します」


 ジャックの反応は、貴族社会にどっぷり浸ったグスタフからは信じられないほど淡白なものに映ったようだ。そんなジャックにいささか怒りを覚えたように見えたグスタフだったが、冷静にいくつかの連絡事項を伝え、支度金をジャックに手渡した。


「そうそう」

 忘れるところだった、とでも言いたげにグスタフは振り返りざまに付け加えた。

「王命だから連絡係兼、お目付け役が付くからな。出発前にはお前の所に行くよう手配しておくからそのつもりで」

 最後に付け加えることで拒絶しにくくさせるという管理職ならではの手法であろう。しかし、ジャックには不要な気遣いであった。

 ジャックにとっては他に同行者がいようがいまいが仕事は仕事だし、一介の戦士がその仕事を部分的にでも断ることは出来ないのだから……


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