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千夜学園の女神さまっ!! (8月までに完結させるぞい)  作者: 影咲シヲリ
第1章 新入生編
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第4話 黄金大仏  

【4月8日午後6時45分】

「今の声が神様ですか!?」


 八坂が忌々しげに部屋の奥を見つめたので、零斗も視線の先を追った。

 応接ソファからは死角になるパーテーションの向こう側にも部屋は広がっているようだった。


「あの向こうに神様がいる」


 零斗は興奮して飛び上がるように席を立つ。

 八坂は肯定も否定もせず、とぼとぼと自分の事務机へと戻っていった。そして席に着くと視線を戻すこともなくこう告げた。


「忠告だよ。もし君が平穏無事に学園を卒業したいなら、ここで引き返すべきだ。君に悩みがあるというなら、生徒会副会長として僕が相談に乗ってあげよう。だが一瞬でも君が彼女と関わったのなら、もう引き返すことはできないよ」


「おいおいおーい、英樹君。それはルール違反だぞ。"重大な"ルール違反だ」


「これで僕の0勝11敗だ。未来ある若者に対する忠告くらいは許して欲しいね」


 少女が釘を刺すと、彼はそれきり黙ってしまった。

 八坂に対する申し訳ない気持ちを振り切って、歩みを進める。このままで終わりにするには期待は大きくなりすぎていた。

 奥にはまた十畳ほどの広さを持つ空間が広がっていた。先ほどの部屋とただ一つ違っていたのは、その空間がただ一人の人間のために存在していること。壁際には世界中の調度品が並び、中央には英樹が座っていたものより二回りは大きい執務机。いかにも年代ものといった雰囲気で相応の傷と気品を帯びていた。


 そして、驚くべきことに。

 いや、本当に零斗の予想を裏切って。

 そこに鎮座するのは黄金に輝く頭をした人間大の大仏様だったのだ。


「あぁぁ、うわぁぁぁぁ」


 零斗は神々しい威光に気圧され思わずその場で土下座した。

 黄金大仏、その空虚な瞳ははたして眼前の零斗を捉えているのだろうか。大きな頭を微妙に揺らしながらゆっくりと立ち上がった。


「コンニチワ、藤原零斗クン」


「えっ、どうして俺の名前を!? アンタが神様なのか」


「ああ、そうだよ。ボクがこの学園の神だ。だから、君の名前くらい知っていて当然さ。さて、君のような悩める子羊が現れるたびに、ボクはいつも悩まされるんだ。分かるかな?」


「どうすれば俺の悩みを解決できるのかなと……」


「チッチッチッ。だって、人間の願いを叶えるのはむしろ神様の本分だよ。本業であり、基幹産業であり、存在意義だ。そこで躊躇してるようじゃ、プロ失格だね。アマがみ様だよ――ねぇねぇ、そもそも神様って何だろうね」


「はいぃ?」


「なんだよ、その顔。キミだってここに来るまでに何度も考えたろ?神様って何なんだってさ。それはボクにとっても重要な命題だ。いきなりボクなんかが神だと名乗ったところで、キミたちは簡単には信じてくれないだろ」


「いえ、俺は信じる、信じてるよ」


 神様は机の上に飛び上がり、零斗を見下ろした。


「バカモーン。他人を簡単に信じるな!」


 いきなりの黄金大仏に面食らってしまったが立ち上がった大仏様を見ると、そのアタマこそ煌めく黄金のそれだが、体は千夜学園の制服。それも女生徒用だ。カッコよくポーズを決めているようでいて、大きすぎる頭がアンバランス。よく見ればかなり間抜けな姿である。

 ツッコミたいことは、たしかにある。


「じゃあ、少しだけ質問させてほしい。神様って声は普通の女の子だよな。っていうか被り物だよな、それ」


「……」


「最初のコンニチワだけ声作ってたけど、すぐ諦めたよな? 」


「……」


 間延びした時間が過ぎる。

 痺れを切らしたのか、とうとう大仏が動いた。両手でがっちりと頭部を掴みゆっくりと持ち上げる。金属製のそれはかなり重そうで、ぐぐぐと腕に力を入れてようやく脱げた、スポンっと。

 そして、投げた。投げつけた。思いっきり投げつけた。


「ぎゃふん」


 大仏頭部(ヘッド)が零斗に襲い掛かる。


「どうだね、驚いたかな」


「驚くとかじゃなくて、ただの物理攻撃だろっ!」


「当たらなければどうということはない、だろ?」


「直撃したら死ぬよ!?」


 足元には金属製の大仏頭部(ヘッド)が転がっていた。軽く足で蹴飛ばしてみるがビクともしない。よくもまぁこんな重いものを被って。

 零斗は続いて直立不動で自分を見下ろす少女に目を向けた。

 大仏頭の中から現れたのは零斗とそう歳の変わらない少女。状況に惑いつつも、言葉を失ったのがその美しさにだった。

 一言でいうと目鼻立ちが整った正統派の美人。表情は自信に満ちていて、眉毛は意志強そうに吊り上っていた。アシンメトリ―の奇抜な髪形で、片側だけがツーブロック。反対側は胸にも届く長髪。そして、その髪はアニメのキャラクターのように鮮やかに染め上げられていた。

 身長は170cmほどあるのだろうか。足はすらっと長く、スカートから延びる生足が眩しい。


「言われなくっても、正体は明かすつもりだったんだよ。だいいち声なんてのは簡単に変えられるから何の根拠にもならないんだぜ。実際ボクが可愛い女の子だったのは、まぁただの結果論さ」


 少女は喉元に指をあてると、野沢那智風のダンディな声色で語りかけた。


「いよいよ神様登場だなと思わせておいて、出てきたのが仏様だったら?どうだい、最高に笑えるだろ。聞き手の予想を裏切るいわゆる『ずらし』って奴だよ」


「いや、分かりにくい」


 神様は顎に手を当て渋い顔で反省をする。


「うーん、また失敗か。少し高度すぎたかな。ちなみにマスクは大仏ではなく、あくまで大仏"風"だよ。デザインはボク自身だ。著作権にも宗教問題にも配慮している。コンプライアンスは大事だろ?」


「あ、おおう」


※ あくまで大仏"風"なので、仏教界隈のクレームはご遠慮いただきたい

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