71 島津追撃1
「立ち入り禁止です」
授業が終わって音楽室に行こうとしたら警備員に止められた
私だけでなく音楽室にある楽器を使わせて貰おうとしたその他多数の人間も、である
警備員曰く、今日だけでなく明日からも閉鎖だそうである
コンクール数カ月前の私達に絶望が広がった
事の起こりは島津理事の息子が冷泉院に喧嘩を売ったことだった
「冷泉院が学院にいられるのは寄付をしているおかげだ!」
「だったら退学にして下さって結構ですわ」
次の日には寄付金が止まっていた
ここでこの不況の中、寄付金を以前と同じ額贈っていたのは冷泉院だと皆が知った
「はやく退学にしていただけないかしら?」
冷泉院雪子が一学年上の教室まで行って島津に言った
「・・・」
島津は何も言えなかった
雪子を睨むだけだった
「はやくしてくださらないかしら?」
雪子はさらに催促した
子供ではどうにもならない金額の寄付金が無くなったのだ
親からも叱られた
それだけではない
クレジットカードも取り上げられた
おそらく今ある広い家も売り払い、遅くなった時に利用していた小さな億ションに引っ越しになるだろう
「もうおまえはなにもするな」
父からの厳命だった
婚約も破棄された
沈む島津から逃げだしたわけである
もっとも逃げ出したのは婚約者だけではなかった
友達も、である
学校に来ると五月蠅いようにまとわりついてきた取り巻きが一人も居なくなった
おかげで教室では一人ぼっちである
そこに雪子が訪ねてきてはやく退学にするように迫ってきた
黙っている島津に対して何度も何度も問いかけた
もちろん雪子は1回で終わらせる気はなかった
連日通った
2日目からは今まで威張っていた島津の凋落を見るために多くの生徒が集まっていた
一日目で学校中の噂になり、その夜には各家庭に広がっていた
二日目からは状況を知りたい親が見に行くよう言っていた
もはや誰もが知る公開処刑となっていた
金が必要なら理事が払えば良い
冷泉院は支払わん!
冷泉院の当主の言だった
一つ下の女子生徒にコテンパンにされた島津は金銭的に精神的にも社会的にもボロボロになっていた
「この悪役令嬢め!」
・・・島津への責めを見て一方的に雪子を悪だと言ってくる人間がいるのは良いのか悪いのか?




