47 没落@ヒオチ牧場主
「ヒオチ牧場から買いとった牛乳を100倍の値段で売っているんですよ?
おかしいとおもいませんか?」
黒沼乳業の課長を名乗る人間がいきなり牧場を訪ねてきてそう言った
もちろん最初は信じなかった
そうしたら証拠の動画を見せられた
「オークションが高い過ぎる」
「有名店のように金がある所が落札した」
「ウチのような中小企業は手も足も出なかった」
「品質重視と言いながら拝金主義一直線だ!」
被害者?の生々しい声に驚いた
牧場にいると判らなかったが都会の方ではそうなっていたのか
愕然とした
「うちならばそんな非人道的な取引はしません」
そう言ってきた
「もちろん契約があるでしょう、でも契約が切れるまでは待ちますよ?
何か足りないものが出てきたらこちらで手配しますし、
トラブルが発生したら弁護士も手配しますよ」
そう言われた
「おそらく年収は今の倍、いや3倍は固いでしょう」
とも言われた
毎日、日参されたこともありつい魔がさした
今となってはそうとしか思えなかった
白霧牧場のブランドから離れた途端、売上が大変なことになった
視たことがないほど上がったのだ
至る所から注文が入った
付けられた値段はまさに天井知らず
・・・相手が勝手に凄い金額をつけてくるんだぜ?
うちからは何も言ってない
接待も凄かった
有名(らしい)料亭での食事
まさに舌が喜んでいた
その後はキャバクラとは違うお姉さんがいるお店に行った
田舎者の私をバカにすることはなかった
一流の店というのはおもてなしが行きとどいている
そう思った
もちろん儲かったお金で自腹でも行った
天国だった
もちろん長年連れ添った妻にも孝行した
若手演歌歌手のコンサートに行ってみた
妻は大喜びだった
・・・オレには何がよいのかさっぱりわからなかったのは内緒だ
ところが半年もすると急に陰りが出てきた
無農薬の藁をはじめとする牛の飼料が手に入らなくなってきたのだ
いや手には入るんだよ
『無農薬』と書かれた藁は
だがそれを食べた雌牛が出す乳は以前ほど美味しくなかった
黒沼乳業の窓口の人間に文句を言った
そうしたら
「きちんとしたものを納品しています」
しか言わないどころか逆に
「品質が落ちたのをこちらのせいにしないでください」
とまで言う始末
おかげで売り上げがガタ落ちして途方に暮れた
黒沼乳業の窓口の人間に相談に行くと品質が悪いことを理由に来年度の契約は無いと通告された
・・・どうしてこうなった




