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21 乳は自分で掴むものですわ

「おほほほほっ!


そんなことでは手に入れることは夢のまた夢でしてよ!」



お嬢様の高笑いが聞こえてきた


しかし疲労のあまり地面に転がっているオレ達は答えることができなかった




事の起こりは弟子の甘井に極上の生クリームの便宜を図るように依頼したことだった




今から30年ほど前のことだった


先代の甘井氏から息子の甘井を修業させて欲しいとのハナシがあった


昭和の時代は自分の家が店をやっている場合、知り合いの店で修業をさせることが普通だった




令和では料理学校とか短大や4大で学んだだけで料理人になれる


だがそれは間違っていると思う


まあ、考え方は人それぞれなので『それでいい』という人間を否定はしない




例えるなら3カ月学んだだけの人間が握る寿司を金を出して食べたいか?、だな





もちろん聞かれたらオレはNoと答えるだろう


金を貰う以上、ここでしか食べられないモノを売るべきだというのが昔ながらの職人であるオレの考えだ


教わっただけの技術だけだとネットの動画サイトと同じレベルだぞ?


早ければ3カ月で潰れるな


これは業界アルアルだ




自分の父親の店だと甘えが出るのは当たり前だ


厳しくているつもりでも甘さが出る


だからといって厳しくし過ぎると親子関係が破たんする


・・・どこかの陶芸家と新聞社員だな




だからツテを頼って他の職人の所に数年修行に出るんだ


他人の試行錯誤の結果を習得できる


そして他人と揉まれて悔しい思いをすることによって礼儀も見に着く


・・・おかげでクレーマーが来ても余裕で対処できるな




修行中は近くのボロアパートに一人暮らしだ


よく刑事モノで聞き込みに使われる二階建てで外階段があるアレだ


自分で洗濯をして掃除をして食事を作る苦労は後になってジワジワときいてくる





自宅から料理学校に通って1年学んだだけのボンボンと比較するなと言いたい




昔、高校生が授業で自分達の店を出すといったドラマがあった


ロクに料理もできない生徒が『自分らしさ』とか言って一人前の料理人の出汁に手を加えるというシーンがあった


『自分らしさ』と言えば何でも許されるという甘い考え


意味もなく美味しい出汁を台無しにしても謝らない傲慢さ


「じゃあ自分達で何とかしろ」と言うと何もできないという無能さ


ドラマだから許されるのだ


だがリアルで実際にあるんだからシャレにならない


だから修業が必要なんだよ




・・・業界内では本当に話題になっていたな


若い者の言動と一致していたからな


一通りの技術があるからと叩き上げの職人を見下す


注意すると口答え


さらに言うと、ある日突然店に来なくなる


アパートに行くともぬけの殻


実家に逃げ帰っていたというオチ


・・・ドラマより酷いな





さらに酷い話がある


ある日突然近所にスイーツ店ができる


既存店の近くには出店しないという昔ながらの不文律を無視して、だ


・・・料理学校ではそんな業界の常識を教えないらしい




当然のことながら店は繁盛しない


そりゃそうだ


昔ながらの店というのは常連客がいる


長年の付き合いによる絆は強いんだ


見た目が派手のインスタ映えだけが取り柄の店が繁盛するはずがない




・・・テレビの見すぎだと思うな


どこに繁盛する根拠があるのかと言いたい




そうするとある日突然既存店に突撃するんだ


「作り方を教えろ!」




・・・どうやら料理学校では常識を教えないらしい


まあなんでもタダでネットから情報を取る世代だ


レシピというのは空気や安全と一緒でタダらしい





おまけに


「ここで受けた恩は将来絶対に返す!」


等々を言うんだ


・・・恩を返す未来が全く見当たらない




まあ、そんなバカにならないように修業をする訳だ


半人前を一人前にするのは大変なんだよ


当然、恩は返してもらっても問題がない


だから極上の生クリームの融通を求めた





・・・どこにも問題がないよな?


なのになぜ牧場で疲労困憊しているのだろう?

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