19 師匠の息子
「生クリームを貰えないかな?」
オヤジがまた甘井さんに電話しているのを聞いてオレはげんなりした
またたかってやがる、と
始めまして
三浦の息子です
現在高校三年生です
もちろん大学に行く予定です
公立ならなんとか大学に行けそうです
もちろん大学に入ったらバイトして学費を稼ぐ予定です
え?
実家の洋菓子店を継がないのか?
継ぐわけないでしょ?
限界集落ならぬ、限界中小企業
毎日100店廃業している昨今
継ぐなんて選択肢はない
今はなんとかギリギリらしい
母親が毎日夜遅くまで金の計算をしていて頭を抱えているからな
高校だって無償化になったのでなんとかやっていけているんだ
大体町の洋菓子店で人気のスイーツがあると大手のお菓子メーカーやコンビニの人間がやってきて分析するんだよ
そうしてより良い物を作りあげる
でも自分達のスイーツをマネされると弁護士が出てくる
・・・町の洋菓子店が衰退するのも当然だ
将来は公務員が希望だな
オヤジは昔ながらの職人だ
良く言えば職人かたぎ
悪く言えば頑固
昔から苦労した
なにせ夏休みになってもろくに遊びに連れていって貰ったことがない
ネズミランドは修学旅行で行ったきりなんだよな
おまけにオヤジの知り合いの洋菓子店は年々少なくなっていっている
おかしを洋菓子店で書く人間はいない
スーパーかコンビニだ
これで潰れない方がおかしい
そんな崖っぷちにいる昨今
昔世話した弟子の店が人気になったと聞いたらどうなるか
もちろんマネするな
息子としては恥ずかしいかぎりだ