18 師匠2
「甘井~、悪いんだけど生クリームを譲ってくれないかな」
今日も師匠から電話があった
・・・お願いという名の恐喝はやめて欲しい
まあ、言えないんだよな
どうもお久しぶりです
甘井苺の父です
私の話を聞いてください
このところ師匠からの電話で困っています
私の師匠は隣町の町の洋菓子店のオーナーです
いわゆる昔ながらの個人経営の小さい店ですね
味は今風に言うと『普通に美味しい』でしょうか
おかげで経営が厳しいようです
そこはウチと同じですね
最近はコンビニがスイーツにまで手を広げたせいで個人商店は軒並み倒産の危機に晒されています
・・・実際、毎年閉店する店が出ています
おかげ(?)で師匠から『生クリームを譲ってくれ』との電話が多いです
まあ、冷泉院の生クリームを使っていると店先に貼りだすだけで売り上げが伸びるのですから当然です
・・・朝、店先にポスターを張り出すと夕方には客が押し寄せるという情報社会にビックリです
師匠に御世話になったのは30年も前のことです
父親から一通りの作り方は習っていました
ですが、他の店で働いてみるのもいい経験だと言われて数年、働きました
その経験は結構、いやとても役に立ちました
その後も年賀状でやり取りしたりする程度の関係でした
『代わりに自分の子供を働かせて欲しい』といった恩返しの要請はなかったですね
・・・先が見えない店を子供が継がないそうです
ですが最近になって『恩返し』の要請が来ました
冷泉院の生クリームを譲ってくれということでした
困りましたね
ウチに入荷する量もそんなに多くはありません
ですから限定商品になっています
それを削ってまで『恩返し』をすかどうか?
迷いましたね
でも結局は融通しました
修業させて貰った恩がある師匠ですからね
しかし要請が続くようになっくると話は別です
困ってきました
自分の店を守るか
師匠の店を守るか
究極の選択です
今の人だと迷わず『自分の店』と答えるでしょう
商売にとしては正しいですが
職人や人としては失格です
・・・自分昔ながらの職人ですから
不器用な生き方しかできんとですよ