10 神様の苦情
「御嬢様の学校の始業式は今日ではないんですね」
冷泉院雪子が宿題のない春休みを満喫するためにのんびり寝坊して朝昼兼用の食事をしていると、専属メイドのトメが話かけてきた
本来ならば使用人であるメイドは主一家に自分から話しかけるものではない
でも産まれた時からの専属ともなれば他人がいなければ気安く世間話をするものである
特に朝食と呼ぶには遅く、昼食と呼ぶには早い時間ともなれば他の使用人は自分の仕事をするのに忙しく雇い主の我儘で強引で理不尽な娘の相手なんかはしていられない
そんなわけで雪子は給仕のトメと食堂に二人きりでいる
それをいいことにトメは世間話を続けた
なにせ全員が口から先に産まれてきたと言われる県出身である
喋らない時は食べている時と寝る時だけとまで言われてる
実際にそうである
当然Hの最中でも忙しく喋る(らしい)
そんなわけで他に人がいない今は絶好の世間話日和
トメは盛大に喋りまくった
「いえね昨夜、TVを見ていたら明日は日本中の至るところで始業式が始まるって言っていたんですよ、こちらではちょうど桜が満開の中で行われるって言っていたんですよ、でもお嬢様の学校は明日からなんですね・・・」
トメはどこで息継ぎしているんだとツッコミが入りそうなほど一気に喋りまくっていた
雪子は慣れたもので ~産まれたときからなので当然である~ 食事とトメの息継ぎの合間に返事をした
「ええ明日の6日から始まるわ」
トメの世間話が止まった
そうして厳かに言った
「・・・6日は今日ですよ」
「え?」
「え?」
片や日にちの間違いに驚き
片やまさか高校生にもなってカレンダーを間違えていることに驚いていた
<しーん>
食堂が静寂に包まれた
「今日は熱があるので休みですわ!」
雪子は保身に走った
バレバレの嘘ではあるがそこは長い付き合いのトメである
見事にスルーした
・・・指摘しても誰も幸せにならないのだから当然である
一方、ヒロインはというと悪役令嬢がいない教室で無事に普通の友達ができていた
かくして悪役令嬢とヒロインの初顔合わせは1年後に持ち越されたのであった
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というのが本来の流れなのじゃ
なのに今回の悪役令嬢はなぜだかこちらの考えに気付きおったわい
そして入学初日から学校にきてこちらの手駒を手懐けおったわい
いまでは手下じゃ
おまけに破滅フラグを立てるための道具を自分の手柄としたのじゃ
どれだけ計画を狂わせれば気が済むのじゃ?
いっそのこと天罰を下したいほどじゃわい
ああ、自己紹介がまだじゃったな
わしゃ神様じゃ
この世界の管理を行っておる
今代の悪役令嬢の進捗をチェックしたのじゃ
そうしたら予定に反しまくりじゃわい
かつてここまで計画を狂わせたものはいなかったわい
困ったモノじゃ
一年後に甘井(苺パパ)という最小個体がスイーツの大会で優勝するのじゃ
それを知って悪役令嬢が店に突撃してことわれるのじゃ
そして断わったことに腹を立てて嫌がらせすんじゃ
それが本来のルートじゃった
ところが悪役令嬢はこちらの計画を悉く壊しおったわい
計画が狂い捲りじゃ
このままじゃと3年後の断罪イベントまで行けんかもしれん
早急に修正が必要じゃ
最小個体のいくつかの欲望を少々いじるかの
そうすれば本来のルートにいくはずじゃ
すべては神の手のひらの上じゃ
おとなしく破滅するがよい