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第8話 銀髪の戦姫たち、搭乗する

 それは別れの言葉だった。




 クレア自身、勝ち目が薄いことを――エリーゼの元へ帰れる可能性が低いことを理解しているのだ。




 レフィオーネ・アエラは、高度を上げなかった。


 低空飛行のまま加速し、エリーゼから離れてゆく。


 地上を這いずる(ぶた)(がみ)に対して、安全な高空からの狙撃では角度が悪い。


 2体同時貫通射撃ができないのだ。




 だが高度を下げると、被弾してしまう可能性も跳ね上がる。


 細身で女性的なシルエットを持つレフィオーネは、明らかに装甲の薄い機体。


 そしてその薄い装甲の下には、生身のクレア・ランバートが収まっているのだ。




「クレアが……クレアが死んじゃう……」


 エリーゼ・エクシーズは、何もできない無力感に打ちのめされていた。


 緑色の瞳から涙が(こぼ)れ、(ほお)を伝う。




「何でこんな時に、マシンゴーレムがないのよ……。どこをほっつき歩いているのよ!? むっつり【ゴーレム使い】! ()(りょく)(かっ)(ちゅう)なんて、どう見てもあなたの大好物でしょうが!」


 その大好物が、豚神とかいうわけのわからない魔物に破壊されようとしている。


 病的ロボヲタ【ゴーレム使い】にとって、絶対に許せない結末のはずだ。




「早く来なさいよ! ケンキ・ヤスカワのノロマ! 守銭奴! ゴーレム泥棒! 愛想ゼロ! むっつりスケベ! 変態サディスト! 役立たずーーーー!」




 エリーゼは思いつく限りの悪口を、ジャングルの奥に向かってぶちまけた。


 どうせこの島は、(やす)(かわ)(けん)()のいない世界。


 本人に、聞こえはしないのだ。




 聞こえはしない――はずだった。




「悪かったな」




 エリーゼの背後から投げかけられた、ぶっきらぼうな男の声。




 聞き慣れたその声に、彼女の体はビクリと震えた。


 そして、怖くなる。


 願望のあまり、幻聴まで聞こえ始めたのではないかと。




「ケン……キ……なの……?」




 エリーゼはおそるおそる、()び付いた機械のような動きでゆっくりと振り返る。


 今のはきっと、幻聴だ。


 振り返った先には、誰もいやしないのだと予防線を張りながら。




 だがそこには、確かに男が立っていた。




 簡略化された藍色の神官服と、その上に羽織られた紫のローブ。


 彼のボスである自由神フリードから貸与された、【ゴーレム使い】の制服。


 首から上に目を向けると、端正な顔が乗っかっている。


 ただし、その表情は無愛想なむっつり顔。


 整った顔が、表情のせいで台無しだ。

 

 だが、その台無し具合が良い。


 その台無しな男に会いたいと、エリーゼは想い、焦がれていた。




「どうやってここに……? この島は、異世界のはず……」


「お前、『(せい)(てん)使()の涙』を持っているだろう? 聞こえたぞ、『助けて』とな。その思念を辿(たど)って、場所を探り当てた」


 エリーゼは、すっかり失念していた。


 彼女の首から下げられているペンダントは、賢紀手製の魔道具。


 助けを求める思念を、飛ばす機能があるのだ。


 それも世界の壁を越えるほど、強力に。




「それとお前の消えた地点の空間が、揺らいだままだったからな。〈タブリス〉の〈空間(エア)歪曲障壁(ディストーター)〉に指向性を持たせてみたら、あっさり空間に穴が開いた。(あと)はそこに、飛び込んだだけだ。特に迷うこともなく、この世界に辿り着けたぞ」


 事も無げに言う賢紀。


 その言い方が、エリーゼには嬉しかった。


 得体の知れない空間の穴に飛び込む恐怖など、彼は()(じん)も感じていなかった。


 自分と再会するためならば、そんなもの障害ではないと言っているのだ。


 離れ離れになる前に腹を立てていたことなど、もう忘れてしまった。




 ――あの男の胸に、飛び込もう。


 そしてしがみつき、思いっきり泣いてやる。




 エリーゼが決意して、1歩踏み出した時だった。




 激しく大気を震わせながら、水色の影が空を横切る。




「む? 何だ? あの、死ぬ程カッコイイファンタジーロボは? マシンゴーレムじゃないな?」


「レフィオーネ……ケンキ! マシンゴーレムを出して! 私の愛機を! 〈テルプシコーレ〉を!」




 【ゴーレム使い】は、無言で手をかざす。




 瞬間、エリーゼの背後に気配が生まれた。


 ひどく懐かしい気配が。


 最後に搭乗してから、そんなに期間は空いていないはずなのに。




 エリーゼは振り返り、見上げる。


 大地に膝を突き、胸部の操縦席(コックピット)ハッチを開いた紫色の巨体を。


 双眼式のメインカメラ――〈クリスタルアイ〉と目が合う。


 故郷エンス大陸の戦場で幅を利かせる、科学と魔法の融合せし人型機動兵器――マシンゴーレム。


 エリーゼの愛機、RHR-1〈テルプシコーレ〉だ。


 莫大な魔力を生み出す動力源〈トライエレメントリアクター〉には、亡父セブルス・エクシーズの魔石が(コア)として使用されている。




 全高8(メートル)


 近接格闘戦特化の機体であるため、四肢はレフィオーネより多少太い。


 だがやはり、細身で女性的。


 空気抵抗の少ない滑らかな装甲板は、メカニカルながらも(なま)めかしい。


 レフィオーネがスラリとしたモデル体型だとしたら、こちらは肉感的な踊り子だ。




 開いたコックピットハッチからは、緑色の蛇が顔を覗かせていた。


 AIのように操縦補助を行ってくれる、大地の高位精霊ヨルムだ。


 ウルウルとした瞳で、パートナーのエリーゼが乗り込んでくるのを待ちわびている。




「エリーゼ、手助けは要るか?」


「要らない。どうせケンキのことだから、戦闘そっちのけでレフィオーネを……あの機体を、スケベな目で眺め回したいんでしょ? 見物してていいわよ? サクっと終わらせてあげるわ。私だけ……私とクレアの2人だけでね!」




 賢紀の申し出を(ことわ)ったエリーゼは、開放されたコックピットハッチにひらりと飛び乗る。


 普通の人間だったら(はし)()を使ったり、よじ登ったりする高さを(いっ)(そく)()びだ。




「会いたかったわ、私の手足」


 小柄な自分の体型に合わせ専用設計された操縦シートに収まり、リアクターを起動。


 人工筋肉に、魔力がみなぎる。


 機体各所に設置されたカメラからの映像が、直接パイロットの脳に視覚情報としてフィードバック。


 ジャングルの景色が、360度鮮明に見える。


 その景色の上。

 邪魔にならない位置に、各種データがウィンドウとして浮かび上がっていた。


 数値(パラメーター)チェック――問題無し(クリア)


 パイロットを衝撃や加減速Gから保護する〈慣性(イナーシャル)緩和魔道機(レデューサ)〉も、問題無く作動している。




推力偏向(ベクタードスラスト)ノズル、動作チェック。〈空気抵抗(ドラッグ)低減魔道機(キャンセラー)〉、〈重力(グラヴィティ)制御装置(コントローラー)〉起動。推進器(スラスター)スタンバイ」




 そこでエリーゼは大きく息を吸い込み、身構えた。


 最近慣れてきたとはいえ、(いっ)(しゅん)で音速に達する〈テルプシコーレ〉の加速Gはきっついのだ。


 慣性力を緩和する、〈慣性(イナーシャル)緩和魔道機(レデューサ)〉があっても殺人的なのだ。


 だが今は、そんなことを気にしてモタついている場合ではない。


 クレア・ランバートが、自分の助けを待っているはずなのだから。






「〈テルプシコーレ〉……突撃!」






今回の登場人物

●エリーゼ・エクシーズ:ツンデレ界のレジェンド。

●クレア・ランバート:ヤンデレ界のレジェンド。

●安川賢紀:「解放のゴーレム使い」主人公。エリーゼの悪口は、大体合っている。


名前だけ登場の人

●ヨルム:人っていうか蛇。蛇っていうか精霊。エリーゼの操縦をサポートする。「解放のゴーレム使い」本編では、めっちゃ喋る。極度のかまってちゃん。

●セブルス・エクシーズ:エリーゼのパパン。ハーレム野郎。


用語解説

●トライエレメントリアクター:マシンゴーレムの動力源。魔力の核融合炉みたいなやつという、ふわっとした認識でOK。あんまり細かく設定を語らせると、すぎモンがウザい。

●レフィオーネ:飛行と狙撃に特化したロマン機。

●〈テルプシコーレ〉:ヒロイン機なのに、性能が漢の機体。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒーローキターーー!!!!(大歓喜) ヒロインのピンチにヒーローが颯爽と駆けつける展開すこすこのすこ( ˘ω˘ ) >「〈テルプシコーレ〉――突撃!」 エリーゼ、いっきまーーーす!!!
[良い点] ツンデレ界とヤンデレ界のレジェンド! ツンデレは良いとして、ヤンデレは怖いですね(笑) ロボ系作品は明るくないので、アーマードコアの見た目重視の軽量機とか、パトレイバーのグリフォンみたい…
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