第3話 銀髪の戦姫たち、愚痴る
「森の中を歩いていたはずなのに、いきなり砂浜に……ね……。私もエリーゼと、似たようなもんだわ」
現在クレア・ランバートとエリーゼ・エクシーズは、砂浜横の岩棚に腰かけ情報交換中だ。
強めの海風を受けて、2条の長い銀髪が流れる。
高い位置と、低い位置に。
知らない者が背後から見れば、姉妹が話しているように見えるかもしれない。
もちろんスラリと背の高いクレアが姉で、胸以外チビッ子のエリーゼが妹だ。
「レフィオーネ・アエラ――この理力甲冑での飛行を終え、地上に降りたの。その瞬間、少し目眩がしたわ。そして気がついた時には、機体外の景色が一変して砂浜になっていたのよ」
「クレアも? ……こんなこと言うと、馬鹿げてるって思うかもしれないけど……。ひょっとして私達、何かの拍子に別の世界にでも迷い込んじゃったのかしら?」
「有り得ない話ではないわ。私のこい……仲間には、異世界から召喚されてきた操縦士がいるの。それと、同じような現象かも?」
「ホント? ウチのむっつり【ゴーレム使い】も、異世界から神様に派遣されてきたのよ。異世界って、案外身近な存在なのかもね」
「……だとすると、この島はユウの故郷――チキュウなの?」
「ええっ! そのユウって人も、チキュウ人!? ウチのバカもよ。だとしたら……【フレイムアロウズ】!」
突然立ち上がったエリーゼは、海へ向かって手をかざす。
次の瞬間、煌々と燃える炎の矢が5本出現。
大気を引き裂き、海へと飛んだ。
海面へと着弾した炎の矢は、ボンッ! という水蒸気爆発音を上げて消滅する。
「……違うわ。やっぱり魔素がある。ここはチキュウじゃない。ウチのケンキが言ってたの。『地球には魔力の源になる魔素がないから、魔法の行使は不可能だろう』って」
ありふれた攻撃魔法で、ちょっと実験をしただけのつもりだったエリーゼ。
しかしクールそうなクレアが、赤い瞳を丸くして驚いている。
その驚きように、エリーゼは戸惑ってしまった。
「何? 何? 何に驚いているの? クレア? 私の魔法、そんなに凄かった? そりゃ剣ほど得意じゃないけど、国で十指には入る腕前だから」
「え……? なんで手から火が……? エリーゼ……。アンタいま、何をしたの?」
「何をって……普通の魔法じゃない。あっ! ひょっとしてクレアの世界って、魔法ないの?」
「そんな代物……あるわけないじゃない。魔法? 魔素? 魔力? 聞いたことないわ。その魔力って、理力とは違うの?」
「り……理力ぅ? そっちの方が、よっぽど聞いたこと無いわよ」
しばらく2人はお互いがいた世界――ルナシスとカーガイルについて、喋りまくった。
魔法のこと。
理力のこと。
文明、生活様式。
理力甲冑のこと。
マシンゴーレムのこと。
そして最後には――
「聞いてよエリーゼ。ユウの奴……ユウの奴……。調査隊に居る調理スタッフの女の子と仲良くしていたと思ったら、今度は清掃スタッフの女の子と……。もうダメ! 耐えられない! ライフルの手入れをしていても、気が晴れないの。あの女に向かって、引き金を引くことしか考えられない!」
「どうどう、落ち着きなさいクレア。殺るならユウが見てないところで、サクっと仕留めないとダメよ? ……それにしても、男ってどうして馬鹿な奴ばかりなのかしら? ウチのむっつりも、デリカシーゼロどころかマイナスだし……。やっぱり、1発どついてやらないとダメね」
なぜか異性の愚痴祭りへと、発展していた。
「…………エリーゼ~! なんなのユウは! あんな風に楽しそうにして~! 今度こそ、私には飽きちゃったっていうの~!?」
突然、涙目になりながらエリーゼに抱きつくクレア。
受け止めるは、「猪の魔物とガチで相撲が取れる」と称されるエリーゼ。
しかし2人の身長差は大きく、エリーゼは完全に油断しているタイミングだった。
「ゴフゥ!?」
強烈な体当たりにも等しい衝撃を受け、エリーゼは思わず苦悶の声を上げる。
「私がルナシスに戻れなかったら、きっとすぐあの清掃スタッフの子に乗り換えるんだわ~。私なんてユウより2つも年上のオバサンだし、若い子の方がイイに決まってるもの~」
「……私がカーガイルに戻れなかったら、ケンキはどうするのかしら? イースズ辺りと、一緒になりそう。……なんか嫌ね。イースズとなら結婚しても構わないけど、私が1番目じゃないと嫌!」
「……え? 何を言ってるのエリーゼ? 1番目って、どういうこと? そのケンキって人が、他の女とも結婚していいの?」
「あー。私の国って一夫多妻、多夫一妻全然オッケーだから。死んだお父様も、4人の妻がいたわ。……ちょっとクレア、何で引いてるのよ?」
「ま……まあそれぞれ、お国の事情ってもんがあるわよね。……やっぱり会いたいな、ユウに」
「……そうね。私も会って、文句を言いたいわ。あの無愛想な、マシンゴーレムオタクに。……よし! 絶対元の世界に、帰ってみせるわよ!」
そのために、まずは景気づけだ。
エリーゼは岩棚から飛び降り、波打ち際へ向かって全力疾走する。
目のいいクレアでなければ、捉えられないほどのスピードだ。
「白銀の魔獣」は砂浜を駆け抜けながら、斜めに背負った【魔剣エスプリ】へと魔力を流し込む。
エリーゼの十八番、魔力伝導だ。
魔力を漲らせた刀身は、鞘から引き抜かれると同時に眩い緑色の輝きを放つ。
まるで浜辺に、もうひとつの太陽が出現したかのように。
「世界の壁なんて、この私がぶった斬ってやるわ!」
海面に向かい、啖呵を切ると同時に魔剣を一閃。
残念ながら、世界の壁は斬れなかった。
その代わりとばかりに、数十mに渡って海が裂ける。
黎明期の量産型であれば、マシンゴーレムの装甲板すら斬れるエリーゼの剣だ。
海を割るなど容易い。
「どう? クレア? 私の剣って、大したもんでしょう?」
岩棚の上で、ポカーンとしているクレア。
そんな彼女に、ピースサインを向けるエリーゼ。
ひょっとしたらルナシスでは違う意味を持つジェスチャーかもしれないと思いつつも、ドヤらずにはいられなかった。
エリーゼ・エクシーズとは、そういう子である。
「す……凄いわね。エリーゼってひょっとしたら、生身で理力甲冑に勝てるんじゃ……。まあレフィオーネなら空からブルーテイルで狙撃できるし、負けないけど……むぐっ!」
クレアの台詞は、彼女の背後から伸びてきた手によって中断させられた。
薄汚い緑色の手が、形のよい口を塞いでしまったのだ。
「何よあんた達!? クレアを離しなさい!」
今回の登場人物
●エリーゼ・エクシーズ:今回のコラボの主役。ハーレム容認派。
●クレア・ランバート:今回のコラボの主役。普段はクールなお姉さんだが、時々ヤンデレ化する。
名前だけ登場の人
●ユウ・ナカムラ:「天涯のアルヴァリス」主人公。誰にでも優しいのはいいが、クレアを不安にさせるでない。
●ケンキ・ヤスカワ:「解放のゴーレム使い」主人公。ハーレムはめんどくさいので嫌。
●イースズ・フォウワード:「解放のゴーレム使い」のドМスナイパー。憶えなくていいです。冷たくあしらうと、興奮するし。
用語解説
●レフィオーネ:クレアの愛機。空も飛べる。ドチャクソかっこいいので、イラストを見に行くべし。https://ncode.syosetu.com/n7706ev/199/
●ルナシス:「天涯のアルヴァリス」の世界。魔法はないよ。魔物はいる。
●カーガイル:「解放のゴーレム使い」の世界。魔物も、魔法使いも、ファンタジー種族も、変態もいる。
●魔力伝導:スターウ〇ーズのライトセ〇バーっぽい技。人によって、色が違うよ。
●ブルーテイル:レフィオーネが持つ、対魔物用大型ライフル。名前も性能も、ドチャクソかっこいい。