第1話 銀髪の戦姫たち、迷子になる
このお話は、「天涯のアルヴァリス~白鋼の機械騎士~」https://ncode.syosetu.com/n7706ev/と、「解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~」のコラボ作品です。アルヴァリス作者のstrifeさんhttps://mypage.syosetu.com/1368539/から許可を得るだけでなく、監修にも参加していただいております。
時系列では、アルヴァリス側は「OVA版天涯のアルヴァリス~未開大陸踏破編~ 二周年記念特別短編」終了後。
解ゴー側はアフターストーリー、「おまけ3 真夏のビーチとゴーレム使い(下)~何か申し開きはありますか?~」終了後となります。
それはただひたすらに、白い世界だった。
「参ったわね。こう霧が深くちゃ、何も見えないわ」
「エリーゼ、あまり先行しすぎるな。危険だ」
数m先も見えない濃い霧が、森の中に充満していた。
そんな中を進む、2つの人影。
1人は子供――に見えるが、そうではない。
身長は145cmしかなく、顔つきも12~13歳にしか見えない。
だが彼女の年齢は、17歳。
故郷であるルータス王国では、立派な成人。
腰まで届く、銀のさらさらストレートヘア。
斜めに背負った長剣は、彼女が小柄ながらも剣士であることを示していた。
彼女の名前は、エリーゼ・エクシーズ。
これでも、一国の女王様だったりする。
しかし今は政務を他の者達に丸投げして、絶賛放浪中――もとい、重要な調査の旅をしていた。
「危険なのは、分かっているわよ。だから前衛の私が、前を歩いているんでしょう? 魔物とかに襲われたら、ケンキは接近戦弱いんだから」
エリーゼが振り返った先にいたのは、漆黒の髪と瞳を持つ青年。
むすっとした顔をしているが、別に機嫌が悪いわけではない。
これが彼の素なのだ。
青年の名は、安川賢紀。
エリーゼが生まれ育ったこの世界とは違う、地球と呼ばれる異世界から来た男だ。
エリーゼは彼のことを、「弱い」と言った。
だがこの無愛想な青年は、【ゴーレム使い】という特殊な加護を授かった神の使徒。
相当に反則的な能力を、持っていたりする。
あくまで弱いのは、接近戦だけなのだ。
「〈トニー〉を使えば、接近戦でも後れを取ることはない。それよりもエリーゼ。お前が俺から、離れすぎる方が危険だ。迷子になるぞ?」
「もう! 失礼ね! 相変わらずケンキは、私を子供扱いして!」
「俺の住んでいた国では……」
「はいはい。17歳でも、子供なんでしょう? 私は成人だっての。女王に向かってそんなこと言うと、不敬罪で処刑するわよ?」
「ここはルータス王国じゃない」
女王陛下と【ゴーレム使い】。
彼らはルータス王国のある大陸を離れ、未知なる新大陸を旅している最中だった。
女王の権限など、及ばない領域だ。
「迷子になんて、なりません~! いい加減、子供扱いしないでよ。私はもう、お嫁にもいける歳なんですぅ~」
反抗期の子供そのものみたいな発言を、ぶちぶち垂れ流すエリーゼ。
彼女は腹立たし気に靴を踏み鳴らしつつ、歩くペースを上げた。
後ろを歩く賢紀との距離は、みるみる開いていゆく。
「おい、エリーゼ」
相変わらず、冷静そうな声だ。
だが、エリーゼには分かっていた。
彼女は、いつも無表情な【ゴーレム使い】の感情を読み取るのが得意なのだ。
賢紀は今、本気で自分のことを心配してくれている。
そのことが嬉しくもあり、歯痒くもあった。
自分はまだ、彼から大人の女性として見られていないのだと。
人間とドワーフの混血であるエリーゼは、出るとこは強烈に出ている。
だがそれ以外の容姿は、人間族の子供そのもの。
賢紀が生まれた地球には、人間以外の種族がいなかった。
だからドワーフ成人女性の容姿はこんなものだと説明しても、子供にしか見えないのだろう。
理屈では分かっていても、それがムカつくのだ。
自分は異性として、賢紀に好意を寄せているというのに。
怒りのあまりか、エリーゼは視界が歪んだような気がした。
霧で周りの木々はよく見えないので、気のせいである可能性が高いが。
「エリーゼ! エリ……」
「おっ?」
内面はともかく、外からはいつでも冷静沈着に見える賢紀。
その賢紀が、声を荒げて自分の名前を呼んだのだ。
(私の勝ちね)
エリーゼは心の中で、勝利宣言をする。
自分の不機嫌さを、無愛想【ゴーレム使い】にわからせてやった。
霧の中で距離が離れて、相当焦ったはずだ。
心細かったはずだ。
こんなに可愛い子が、側にいてやる有難みを思い知れ。
ニンマリした笑みを浮かべ、エリーゼは背後を――賢紀がいる方向を振り返る。
そして――
「あれ? ケンキ? どこへ行ったの?」
振り返った先に、安川賢紀の姿はなかった。
賢紀の姿だけではない。
あれだけ濃密に立ち込めていた霧も、綺麗さっぱり消えている。
「……っていうか、ココ、どこ?」
自分達は確かに、森の中を歩いていたはずだ。
なのにエリーゼが、いま立っている場所。
そこは紛れもなく、海沿いの砂浜だった。
しかもその砂浜には、とても奇妙な点がある。
自分が歩いてきた方向を振り返ったはずなのに、足跡が全くないのだ。
「えっ? ウソ? 冗談はやめてよ! ケンキ! どこか近くに、隠れてるんでしょう? ねえ? 出てきてよ! 私が悪かったわよ! だから……お願いよ……。ケンキーーーー!!」
エリーゼが精いっぱい叫んでも、返ってくるのは波の音ばかりだ。
「本当に……迷子になっちゃった……」
押し潰されそうな絶望感の中、エリーゼは力なく両膝を砂浜に突いた。
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絶望タイムは、あまり長く続かなかった。
若いとはいえ、エリーゼは元王国騎士団9番隊隊長。
王国が敵国の支配下にあった時期には、解放軍を旗揚げしリーダーを務めた。
戦場では数多の敵兵を斬り、「白銀の魔獣」と恐れられる剣士。
さらには人型機動兵器マシンゴーレムの操縦者として、数々の戦場を生き抜いた経験もある。
潜った修羅場は星の数ほどあり、その中では比較的マシなピンチなのだ。
安川賢紀とはぐれたのが、猛烈に心細いだけなのだ。
「もしこれが、ケンキの悪戯だったとしたら……。ぶん殴る!」
グーで、とかいう話ではない。
エリーゼはいつも賢紀をどつく時、鉄ごしらえである剣の鞘でブッ叩く。
強固な防御魔法を瞬時に展開可能な【ゴーレム使い】は、それぐらいでは死なないのだ。
絶望から立ち直ったエリーゼが、最初に目標としたのは水場の確保。
彼女には、手持ちの水が少ない。
荷物の大部分を、賢紀に預けてしまっていたためだ。
彼は【神の加護】により、異次元の格納庫である【ファクトリー】に膨大な物資を放り込んでおける。
万が一はぐれてしまった時の対応策として、エリーゼは小型の水筒と少量の携帯食を身に着けてはいた。
しかし、すぐに使い果たすのは間違いない。
エリーゼは海に沿って、砂浜を歩き出した。
こうして行けばそのうち、海へと流れ込む川を見つけられる可能性がある。
歩幅は小さいエリーゼだが、走れば早馬を追い越してしまう脚力の持ち主。
あっという間に、かなりの距離を踏破してしまう。
そうして、5kmほど歩いた時だった。
「あれは……」
遠くの砂浜に、人影を見つけた。
だが、どこか姿勢が妙だ。
片膝を突いた状態で、静止している。
あの姿勢は、まるで――
「マシンゴーレム……なの?」
人影が取る体勢は、マシンゴーレムの駐機姿勢に似ていた。
胸部のコックピットハッチにパイロットがよじ登れるよう、機体に膝を突かせるのだ。
距離が遠すぎて、目のいいエリーゼでも断定はできない。
だが水色のシルエットは、おそらく人ではない。
サイズが大きい気がする。
マシンゴーレムであれば、賢紀の持ち物である可能性が高い。
新大陸ではまだ、マシンゴーレムやそれに似た機動兵器を運用している国や組織に出会ったことがないからだ。
そもそもまだ新大陸で人――というより、知的生命体に出会っていない。
賢紀は自分の持ち物でなかったとしても、「落ちてる」マシンゴーレムを勝手に拾って持ち去るという手癖の悪さがある。
近くに彼が、いるかもしれない。
あるいはこれからあの機体をかっぱらいにくるかもしれないと思い、胸を高鳴らせたエリーゼ。
彼女はマシンゴーレムと思しき、謎の人型機動兵器へ向かって駆け出した。
今回の登場人物
●エリーゼ・エクシーズ:【解放のゴーレム使い】ヒロインにして、今回のコラボ作の主役。突撃型女王。1日3回は「退位したい」とぼやく。なぜかエッセイジャンルにも出没。
●安川賢紀:【解放のゴーレム使い】主人公。顔はいいのに、表情がむっつりしてて台無し。
用語解説
●神の使徒:いわゆるチート持ち主人公という認識でOK。
●〈トニー〉:スタープ〇チナみたいなゴーレムという認識でOK。
●【ファクトリー】:なろうハイファンタジー定番、いわゆるアイテムボックスという認識でOK。ロボも入るよ。
●マシンゴーレム:パイロットが乗りむ巨大ロボ。全高約8m。ファンタジーロボなのに、あんまり騎士っぽくない。アームスレ〇ブみたいな感じ。