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弱い人間(1)

作者: I_Aryth

人間って本当に弱いと思うし、でもそれが人間らしさってことなんですよね

 自分のことを本当に弱い人間だと知っている人は案外少ないのではないだろうか?

 もし自分が弱い人間だと思っているのならこれを読むと少しは自身の強さに誇りを持てるようになるかもしれない。



 自分は過去に2回思ったことがある。

 1つ目は自殺を考えた時だ。もう全て忘れてしまったことだが、何かやりきれずどうしようもできないことが幾重にものしかかっていて、歩くことすら億劫だったのを覚えている。その時の苦しさがまるで世界で一番の不幸のように感じて、などという事ではない。世界ではこの苦しみを感じることすら出来ない程の子供たちが無数にいるということを何となくだが知っていたこともあり、自分程度の不幸など全然不幸のうちに入らない、とそう思い、やり過ごして。そうしているうちに些細な傷に気付かなくなっていった。

 その原因不詳の傷は一生自身を痛め続けるのだろうと薄々と感じていたのかもしれない。死にたい、というよりは、死ねばこの僅かに残った喜怒哀楽の感情に揺れ動かされたり、面倒くさいしがらみに溢れた生活から解放されると考えた。それはなんと楽なのだろうと思う。でもそれはただそこから逃げたかっただけなのだ。だがそれが人間の逃避行動であると気付くにはあまりにも余裕が欠けていた。


 そこからしばらくは死ぬ方法や場所について色々と調べ始めた。死に場所を求めて、と言えば大袈裟だが最後くらい死に方を選びたかった。そうやって自分の好きな死に方で死ねたのなら、自分は自由に生きたと胸を張って言えるような気がしたからだ。

 結局他人に迷惑をかけない、最も楽に死ねて確実性のある方法として、自宅の浴槽で自分の首に包丁を突き立てるというものが採用された。いやはや人間の最後というものは実にあっさりとしている。子供の頃あれだけあった全能感も今では微塵も残っていない。明日にはテレビのニュースになるのだろうか、何人か悲しんでくれるだろうが、肉親以外は一日と経たず忘れてしまうだろう。まあ誰かを泣かせることは胸が痛いがこの感情もひっくるめて今から消えて無くなってしまうのだからどうでもよかった。遺書を残すような立派な理由も特になかったので、あとは自分の首に包丁を差し込むだけだった。


 狙いを定めるため包丁の先を首元に当てる。喉元からチクッとした痛みとひんやりとした冷たさが伝わってきた。最後に今から自分を貫く包丁をもう一度確認する。すると何故だか目から大量の涙が零れてきた。初めは手に数滴垂れるだけだったが一粒、二粒と流れるうちにしまいには止まらなくなった。しゃくりを伴わないため横隔膜の痙攣はないなどと冷静な考察が出来るのにどうしてか涙が止まらない。今思うとそれは自分の身体が自分を生かそうとするための最終手段だったように思う。だが人間というのは思ったより身体と精神の分離が出来ないらしく、次第にそれまでしまい込んでいた感情が溢れ出してきた。


 ───本当はもう苦しみたくなんてないし、本当はもっと楽しいことをしたい。些細なことに一喜一憂出来る人が羨ましい。美味しい物を食べたり、旅行に行ったりして幸せを感じたい。心の底から毎日笑っていたい。あれも、これも、まだまだやり足りないことばかりなのに───


 誰もいない家の中、ついぞ誰に打ち明けることもなかった感情に一つ、また一つと気付く度ただ泣いた。泣き続けた。思えば最後に涙を流したのはいつだったか。小学生の頃弟とレゴブロックの取り合いで喧嘩した時だったように思う。あの頃はただ感情に身を任せ、怒られることも多かったが楽しいことも多かった、そんな気がする。

 ひとしきり泣き終わったあと、いつの間に寝てしまったのか、リビングのソファで目覚めた。そういった所はさすがに冷静だなと思い自分を褒めた。


 自分は本当は死にたくなど無かったのだ。死ぬことを怖くないだとか、死ねばそういった恐怖の感情は無くなるだとか宣いながら、気付かない振りをして楽な方法を取ろうとしていただけなのだ。実際蓋を開けてみると怖かったし、どれだけ口で言った所で死ぬことすらできない。自分はなんて弱い人間なんだ、と感じた。生まれてから今までで一番人間らしい感情だった。




2つ目はまた後日公開します

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