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再び訪れた日常

お久しぶりでございます。なんとか生きてますよ(笑)


体調は一進一退なのですが取り敢えずある程度投稿できる程度にまで、原稿が溜まりました。体をだましだまし書いているので執筆速度は保証できませんがまたお付き合いいただけると幸いです。



今度は高木君のターン。吉良君も清藍に興味があるようでしたが、高木君は完璧にナンパする気みたいですねー。


シーンが大学内や戸上邸内になってしまったので正樹や杏子を出しにくくなってしまったなー。新汰はまだ何とかなるけど……。


高木君の下の名前どうしよう?相変わらず名付けが一番苦手です( ノД`)シクシク…誰かいい名前ありませんかwwww


というか吉良も含めて誰かいい名前か考えてくださいませんか?!(ヤケ)

 いつものカフェテリアのいつもの席に座り、いつになく清藍せいらんは困惑していた。


 彼女の前にニコニコと微笑みながらトレイを持って立っているのは、見覚えのある青年だったがりくとおるではない。


 今まではこのカフェテラスで彼ら以外に、清藍に声をかける人間などいなかったのだが。


 青年は選択している講義がかぶることが多く時々見かける程度の人物だ。


 よく言えばフレンドリー、悪く言うなら馴れ馴れしい人物だった。何度か会話したこともあったし、乞われてSNSのI.D.を教えてしまいその発信の多さに多少閉口していたがそれだけだった。


 眠っている間に見舞いに来てくれたとは聞いて言いた。けれどその慣れ慣れさがネックでそのことに対して、お礼を言いに行く気にもなれずに放置していたのを思い出した。


 そんな彼がめげずに目の前におり、同席を希望している。


 正直少しうんざりしている青藍は、周囲を見渡して問い掛けた。


「他に席はたくさん空いていると思うんですけど」


「……うん、そうだね」


 遠回しの断りだと気付いていないわけでもないだろうが相手は手強いようだ。にこやかな笑顔に一点の曇りもない。


「……座りたいならどうぞ」


 面倒臭くなった清藍はそう告げそれ以後、彼に目を向けることもなく広げていた本に再び目を落とした。


 広げていたのは次の講義に使う参考資料だ。


 入院していたせいで重要な講義もいくつか落としている。少しでも遅れを取り戻したかった。


 ちらりと資料集の隣に置いたスマフォで時間を確認すると、次の講義まであと20分程しかない。


 手に持ったマーカーをキャップを取らない状態で、資料集の重要と思われる場所を抑えながら自分の考えをまとめて行く。


 その作業を行ううちにすぐに対面した形で腰掛けた青年の存在など頭から抜け落ちた。


 熱心に資料に見入る清藍に何度か話し掛けたが、集中した清藍に完璧にスルーされてさすがに青年、高木たかぎは鼻じらんだ。


 トレイに載せていた早めの昼食を口にしながら、真剣な眼差しで文字を読み進む彼女の横顔に見入る。


 清藍は文句なしに綺麗な女性だった。美女と言うにはまだ少し色気が足りない。その服装も、露出を控えて清潔感を重視し華美を避けた雰囲気だ。控えめと行って差し支えない化粧はおそらくファンデーションとリップのみだろう。


 それですら彼女の美しさは他と比べて遜色ない。何故こんな女性が、誰にも声を掛けられずいつも一人でいるのか長い間謎だった。


 仲良くしている地元の友人に事情を聞いてからもそんな迷信をよく間に受けていると思っただけで彼女への興味が削がれることは全くなかった。


 だからこそ、馬鹿げた迷信を信じている人が多い今のうちに、少しでも彼女に印象付けようとして接近した訳だがこの体たらくだ。


 それでもこの青年がめげるこどなどない。それが、彼の長所であり短所でもある。


 彼は良く知っている。自分の見た目の良さも、悪びれないその性格が友人から高評価を得ている事も。今は彼女の隣にいるせいで友人たちは声を掛けて来ないが、離れればすぐに彼の周りは人が集まって来る。


 それだけ彼女を恐れるということはその『迷信』にはそれなりの根拠があるのだろうという事も判っている。けれど、彼にとってはそれが彼女に近づかない理由にはならない。ただそれだけだった。


 高木は肘をついて資料集に集中する清藍の顔を飽きもせず眺めている。これはこれで役得かも知れないなどと思いながら。


 サンドイッチとコーヒーだけの昼食だったが、いつの間にか綺麗に平らげられていた。


 午前の講義が終わり、いつも通りとおるは昼食を取りに構内のカフェにやって来た。既にお昼時を回っていたので、カフェは人で賑わっている。


 いつも通り一番安価なランチセットといくつかの菓子パンを購入し辺りを見回すと、流れる人の隙間からりくの後ろ姿が垣間見えたのでそちらへ向かって歩いて行く。


 すると清藍せいらんの隣に腰かけている見慣れない青年がいることに気付いた。


 微妙な雰囲気になっていることに気付き、徹は少しにやりとした。清藍を妹の様に可愛がっているのは自分も徹も同じだが、陸は年を追うごとに姉に似てくる清藍には複雑な思いがある。


 面白がっているわけではないが、清藍に彼氏候補が出て来たとなれば心中複雑だろうなと思った。


 陸が自分でも意識していないかも知れない部分だった。徹もあえてそのことに深く言及しようとは思っていなかった。


 自分はどうなのだと思わないでもなかったが、良く判らないというのが正直なところだ。性別すら判別しない自分は誰を好きになればいいのか。そこからして判らないのだ。


「よーぅ。今日は一人多いな」


 敢えていつも通り陽気な声を掛けて、四人掛けのテーブルの一つ空いた席、陸の隣についた。


「あぁ、徹か。今日は早いな」


 良くも悪くも目立つ徹は、いろいろな理由で人から呼び止められたりするため、規則正しく行動しようとする陸と時間が合わないことが多いのだ。


 清藍の命が狙われていると判っている状況なので、彼女の傍に居ることを優先しているのだが、それはおそらく陸も同じなのだろう。


「んー、腹が減っただけなんだけど。こちらさんは?」


 自分の正面に腰かけてはいるものの、視線も体も清藍に向けていてこちらには興味のなさそうな青年に、彼に問い掛けるのではなく陸と清藍に視線を流して問い掛けた。


 遅ればせながら徹の姿に気付いて青年――高木が顔をこちらに向けにこやかな笑みを向けた。


「こんにちは!僕は高木と言います。彼女と同じ学部で講義もよくかぶるので仲良くさせていただいてます」


「あー、貴方が……。せいらの見舞いに来てくれた人っすか」


 屈託のない笑顔を向けてくる高木に同じように笑顔になって徹が応じる。


「徹。人をフォークで差さないように」


「……お、おぅ。すんません……」


 陸と徹の気安い雰囲気のやり取りを見て、くすりと微笑み高木は徹へ目をやった。


「君が日上ひかみ君だね。僕は高木たかぎです。よろしくね」


「お、おぅ。よろしく」


 自らのことを知っているらしい高木の言動に少し面食らった様子の徹だったが、それについて言及することもなくそのまま食事を開始する。


「本気で腹が減ってるだけだったか……」


 ぼそりと小さな声で呟く陸の失望したような声に、徹は顔を少しだけ傾けて陸を見るが、その間も食事をする手を止めない。


「熊だから。ご飯食べないと死んじゃうんでしょ」


「なんか俺の扱い酷くね?まだ怪我も治ってないってのに……」


「自分の判断ミスで怪我した奴に同情しろと?」


 徹のふざけた物言いにイライラしたようで冷たい声音で応じる陸に、心臓に毛が生えていると噂される流石の徹もぐふっと食べ物をのどに詰まらせる。


「何イライラしてんだよ、陸。それについては謝ったろ!」


「徹、汚いから口にものを入れたまま話さないで」


 冷たい声で話を切ったのは清藍だ。


「……はい……」


 ピリリッとした陸と清藍の物言いに鼻白はなじらんで口を閉じる徹。三人のやり取りにぷっと噴き出したのは高木だった。


 楽しそうにカラカラと笑い声をあげてひとしきり笑うと、高木は席を立った。


「次の講義があるから僕はこれで。中々楽しい時間をすごせたよ。ありがとう」


 飲みかけのアイスコーヒーのプラスチックコップを片手に持ち、三人に軽く手を振って出口へ向かって歩き出す。その足取りは軽やかだ。


 高木が完全にカフェから姿を消すのを確認して、清藍はホッと息を吐いた。


 清藍ほどあからさまではなかったが、徹は相方がほぼ同じタイミングで小さく吐息をついたのを見逃さなかった。


「……なんだ?二人ともそんなに緊張して……」


「だってあの人ずっと付いて来るんだもん。講義の間もよ?ずっと隣でにこにこしてて。悪い人じゃないんだけどなんだか疲れちゃって」


「そんなもんか~。……でもまあ、四六時中付いてこられたら疲れるか」


 やっと緊張から解かれたのか右腕で頬杖を付く清藍。心なしか声にも硬さが抜けた気がする。


 陸は何も言わず食事を再開したが、よく見ると今まで殆ど手を付けていなかったようだった。徹ほどではないが陸も意外に大食だった。


 急に口に運ぶ量が増えたのが見て取れたが、それでも徹はそれについて指摘はしなかった。


「でもさ、良かったと思うよ。俺は」


「え?」


「悪い虫かも知れないけど、せいらに屈託なく話し掛けてくれる人が一人でも増えてくれるなら俺は歓迎だよ」


「……悪い虫だったらどうするつもりだ?」


「判明したら俺とお前で体を張って守ればいいだろ?」


 徹の答えに陸はふんと鼻を鳴らした。


「……まあでも、確かにな。せいらには友人が必要だ。出来れば利害なく仲良くしてくれる友達がな」


「陸も徹も利害なく仲良くしてくれているじゃない」


「まあそうだけどさ」


「徹が言いたいのは多分、友人が沢山できることでせいらの世界が広がればいいってことだと思う」


 穏やかで優しい視線を清藍に送りながらそんなことを言う陸。徹はそんな相方の言葉に頷いて続ける。


「俺たちが理由あって傍に居られない時でも、一人でいるんじゃないかって心配しないで済むくらいせいらに友人ができたら嬉しいよ」


 ただただ優しい言葉と思いに清藍は自分の鼻がツンとしてくるのを感じる。ほんのりと熱くなる目頭を何度か瞬かせて二人に醜態を見せまいと努める。


 穏やかな笑みを見せる陸を横目に見ながら徹は少し陸の心中をおもんばかった。


 今や藍良あいらそっくりに成長した清藍が、陸にはどう見えているのだろう。数年ぶりに再会した事も相俟あいまって藍良が生きて戻って来たかのように錯覚することはないのだろうか。


 せめて成長する過程を見ていることができればまだ……。


 そう思いはしても今更どうにもできないことで、徹は陸の胸の内を思うと少し心が痛んだ。


 高木の登場はそういう意味で彼らの立ち位置を微妙にしてしまった。まだ誰も気付いてはいないけれど。

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