90.水と闇の邂逅⑦
短いので後で追加します。やっと解決かなぁ。このまま戦闘ナシでおわらせたい(無理)
巫女かあと彬華は思案する。考えたこともなかった。そうならいいなと思う。清藍の言う巫女というのは神社で働くいわゆる『巫女さん』と言う意味ではないのだろうと思う。
神の声を聞く人と言う意味だろうか。そうなれるならいいと思う。神様だって一人は寂しいだろう。なんて思うのは、矮小な人間の感覚であって、神様には寂しいなんて感情はないのだろうか。
「そしたらさ、最近よく合う戸上の術者がここを調べに来てたのよ」
ひとしきり笑ってから、気分を入れ替えるように、彬華は首の辺りを少し搔きながら困ったような笑みを浮かべた。
「なんつったっけあいつ。か……から?」
「から?」
「違うっけ。なんか、へらへらしたナンパな奴」
あたしのこと司書だと思ってるみたいなんだよね~と軽口が聞こえる。どうやら、人の名前が出てこないらしい。
「戸上の一族なんでしょ、あいつ。そういうにおいがする」
「戸上の人は私もあまり知らないんですけど……、リンさん、司書さんなんですか?」
「いや、違うよ。図書館の隣の建物が私の職場ではあるけど。なんっていったっけなぁ。とかちゃんの友達はもちっとマシそうなのになぁ。戸上ってあんなのしかいないのかね」
とかちゃん……正樹さんの友達というのは、きっと陸の従兄弟の新汰さんのことだろう。戸上で、陸でも新汰でもないとしたら後は誰だろう?
清藍は首をかしげる。そういえば、もう一人いるではないか。清藍の知る戸上が。
「もしかして、吉良さんのことですか?」
「あー、そうそう。そんな名前だったっけ。あたし人の名前覚えるの苦手でね~、あはは。あの水使い、水使いなのに全然あたしと合わないやつでさ~……」
「水使いなんだ……吉良さん。私と同じ……」
「あ~、なんか水使い最近見ないよね。素養のある人は結構いるのに。うちのおばあちゃんとか、多分水使いの素養あると思う。っていうか、あの人水使いって呼べるくらいの実力あると思うけど。……まぁ、それ以前にうちの一族は闇使いって呼ばれるんだろうけどさぁ。闇って土や水と相性がいいんよ。あと炎かな。闇使いの一族も闇以外の素養出やすいのってその三つなんだって。
あはは。また話が逸れちゃった。そいつね、たまたま仕事中に会ったのよこの間。そしたら、三日月神社行くから車に乗せてくれって言うのよ」
ずうずうしいよね。と軽くいって、彬華は苦笑いする。
「あいつ、瘴気とかは視えてないみたいだけど、瘴気の気配とかは気付いているみたいでさ。しかも、三日月神社まできたってことは、それなりに核心に近いところまではたどり着いてたんじゃないかなぁ。この闇の神様が眠ってることが、この地の異変の最大の理由だってことに」
「えっ?!それってもしかして……」
「このままほっとくと、近いうちにこの辺りは大地震に見舞われると思う。いくら、力があるからって他の土地の神様を連れて来たってねぇ……この土地に縁のない神様のご利益じゃ、そう長い事ここを守れるわけないもん」
「彬華さん!!!!」
突然大声で名前を呼ばれ、彬華は驚いて清藍を見る。
「わっ!!なになに?びっくりした~」
「それ、もっと詳しく教えてください!!というかどうしてそこまで詳しく知ってるんですか?!」
清藍の勢いにはなじらむ彬華。
「えっと……調べたこととあたしの直感とかだけど。何十年か前の地震でこの土地の神様が傷ついちゃったみたいなん。それで、その神様が力を蓄えるために深淵の眠りについたようなんだけど、その間この土地を守れるように誰かが、もしかしたら本人が自分の意志でそうしたのかも知れないけど、他の土地の神様をこの地に連れてきて封印してこの地の仮の守りにしたみたいなんだ」
「それって、木の神様?雄斗袴山に祭られている」
「雄斗袴山?あそこに祭られてるのは男の神様でしょ?属性は判らないけど女の神様だよ」
「それっ!!多分、それ!!」
「何が??!!」
「私たちが探している神様!!」
「ええええええええええええええええええ」
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彬華は清藍から今までの経緯を聞いた。話を聞く間、彬華の反応は激しかった。
清藍は自分で自負している以上に話下手で、しかも陸や徹から聞かされてない話も多かったため、説明には想像以上の時間を要したが、彬華は聞き上手で前後する話を、確認しながら根気よく聞いてくれた。
「……そうだったんだ」
ほうっと、一息大きく深呼吸をして、彬華は清藍の頭を撫でた。
「大変だったんだね」
「私は何も……貢献できてないから」
「そうじゃなくて、まさか、この間の洪水に巻き込まれてたなんてね。その後も色々大変だったみたいだし」
彬華は暫く考え込むような顔をして下を向いていたが、そのうち小さくそっか……と呟いた。
「だとしたら、木の神を目覚めさせること自体は難しくないんだね。眠っている場所も判ってるみたいだし」
「え?そうなんですか?徹たちはその方法を探していたみたいですけど」
「あぁ……うん。何て言うかね……簡単なんだけど不可能というかね」
「……??どういうことですか?」
「その方法っていうのが、『回復の能力を持つ術者の命を捧げる』みたいな感じのことだから」
「……それって……」
「現状それができるのって、ランちゃんと……戸上の当主だけなんじゃない?あの水使いがもしできる(回復術を習得してる)ならあいつも入るかもしれないけど。そんな事、あの戸上当主がさせるわけないし、最悪ヤバくなったら戸上当主が自分の身を捧げるつもりなのかもね」
「そんな……」
「そういう人でしょ、戸上当主って」
「……そうだと思う……」
「ならまぁ。最悪、あたしが代わりになってあげるよ。闇使いなら捨て石にちょうどいいだろうしさ」
清藍の言葉を遮るように彬華は声を重ねた。それは、悲壮な決意を込めた様な声。
「えっ?!何を言って……」
「この世にはさ、生きる価値もない人間ってのもいるのよ。残念ながらね」
彬華がそうとでも言うのだろうか。そんなことないと言いたかった。今対面している彬華は、とてもそんな人間には見えない。
清藍は頭の中で幾つもいくつも浮かんでくる言葉を、彬華に掛けようとしてそれでもうまく言葉にできなくて、口を開けては、綴じを繰り返した。
かつては――清藍も生きる理由を探していた。一人で。寂しくて、辛くて。けど怖くて死ねなくて。生きていていいのだと思いたかった。誰にもそれを望まれなくても。
――この人も、苦しみながら生きているんだ、きっと。
その辛さが自分と同じかは判らない。でもきっと、自分と同じように長い間苦しんできたのだろうと思う。
「そんな風に言わないで……」
「うん。ありがとう。ランちゃんは本当に優しいね」
暗い話に持って行ってしまった事を後悔しているのか、彬華は急に明るい声を出して笑った。照れるように耳のあたりを掻いている。
「最善手は闇の神様を癒して目を覚ましてもらうことよ。そうすれば、木の神様の封印も勝手に解かれる筈だから。その方法を考えよ」
「癒す……それなら。水上の一族には癒しの歌と言うのがありますけれど」
「え……?歌?」
「はい。歌自体は誰でも歌えるような……童謡みたいな感じなのですが、術者が歌えば、土地を癒すような効果が出るものです。闇の神様に効くかどうかは判りませんが」
「何それ凄い!水使いの一族って流石ね!!闇使いがそれを習得したら効果が出るかな?ううん。土地を癒せるというのならそれだけでもいい。この瘴気が減るだけでも絶対にいい方につながる筈よ」
術者が使えば効果が出ると清藍は言ったが、実はそう簡単なものではない。術の行使に多くの制限を課せられているものなのだが清藍はそれを知らなかった。
R05-04-05 加筆。後半☆の下部
R05-04-11 後半部分、3~4行追加