87.水と闇の邂逅④
私も頭と首周辺と胃が痛いです。仕事まで寝ます。オヤミス……
私を呼んだのはね……と彬華は、自分の足元を見て苦笑いした。釣られて清藍も下を見る。
足元にはジオラマの様な大地が広がっている。熊田市を一望できる高さにいることを思い出し頭から血の気が引く。
県庁所在地である崎宮市の東に位置するこの地は、東側はほぼ森林に覆われており、崎宮市に近い西側に人々の居住区が偏っている。
ゴルフ場や、キャンプやハイキングができる自然公園の多い所だ。つまりは田舎という事だが。
「大丈夫?」
ふらりとよろけた清藍を、彬華が支える。
「は……はい。ごめんなさい」
心なしか顔色が悪い。彬華は気遣わし気な顔をしていたが、それ以上は何も言わず清藍から離れ、北に見える山岳エリアに視線を移した。
「闇の精霊……は、怪我をしているみたいなのよ」
「え?」
いきなりの台詞に清藍が戸惑いを見せる。
シェード……闇の精霊……夜の……神?と小さく呟く声が聞こえてくる。
飲み込みが早いな早いなと彬華はため息をついた。
この子も術者なのかも知れない。ちりりと彬華の心を焦がす何かを感じる。
まぁ、自分に引かれてここに来たんだとしても、ここに入って来れているだけでその素養があるのは判り切っていることだよね、と言い聞かせる。
気を付けなくては、いけない。
「夜……その……シェードは……シェードがどうして怪我をしていると……思ったのですか?」
清藍が敬語に戻っていることに気付きはしたものの、それに言及することなく彬華は答える。
「私にも判らないんですけどぉ……この辺りに来た時からずーっと、プレッシャーみたいなのを感じるんですぅ」
「……何ですかその話し方……」
「だってまた敬語に戻ってるからー」
「もうっ。癖なんだからしょうがないじゃない」
「まぁ、今日はこれくらいで許してあげる」
ため息をついて頭を振る清藍に彬華は軽く息をついて微笑んだ。
「プレッシャーね。最初は何か頭が重いなーって感じだったんだけど、さっきの公園に近付くにつれてそれが酷くなってね」
なんと言葉にしていいか判らず、目を閉じて頭をコリコリと掻く。
「ああ、痛いんだなって思ったの」
「だから怪我してるって思ったってことです?」
「うん、そんな感じ。ジッサイその影響でか、あたしもさっきからずっと、頭というか首と言うか胃というか痛くてねー。そんでトリップしちゃったっぽいのよね」
「ええっ?!そんなに苦しいのにどうしてそんな平気そうにしてるんですか!」
「あ、今は痛くないけど。ていうか、多分ここあたしの夢の中だから。あたしたち二人とも今眠ってる」
「えええええっっ!!夢の中?!」