85.水と闇の邂逅②
現在全文改稿中なので、後々前のパートと合体させると思いますけれど、とりあえずかけた分だけ上げます。
またいろいろ死んでおりました。さーせん(謝る気ナッシング)医療事務って結構大変なのね……いや、おいらが仕事できないだけなんだけどさ。
突然目の前で意識を失った女性を見下ろして、清藍は混乱していた。思わず、彬華の右肩に手を置き、彼女を軽く揺さぶる。
「大丈夫ですか?!あのっ……!」
呼びかけようにも相手の名前も知らなかった。
とっさに救急車を呼ぼうと、上着のポケットから携帯を取り出した。それから、新汰達の向かったと言う公園の方へ目を向ける。流石にここからでは新汰たちを見付けることは出来ない。
新汰の知り合いだという事ならば、この人も術者なのだろうか。
そう考えた時、彬華の周囲に漂う何かに気が付いた。それは、『視る』能力に長ける清藍の瞳には薄青い霧のように見えた。
この人もしかして水の術者なのかな?だとしたら、新汰さんの術者仲間の一人なのかも知れない。事情を知らない清藍がそう考えるのは自然な流れだった。
清藍は自分の他に水の術者が存在するという話を聞いたことがなかった。以前の事件で清藍の知る水の術者は全滅したと思っていた。
「この人は水の一族の生き残り?」
――そうとも言えるが、そうでないとも言えるな。
独り言はにはすぐに返事が返ってきた。
「何それ。意味わからない」
焦っているせいか口調が少しきつくなる。
「この人……凄い」
――……。
今度は答えはなかった。今の清藍には彬華の潜在能力がおぼろげながら判るようになっていた。
この人、多分私より凄い。徹や陸と同じくらい。そっか、だから新汰さんに協力してるんだわ。
清藍が認知している術者と言えば徹や陸の他は、最近知り合いになった新汰と正樹くらいだった。清藍自身、彼らの正確な力量は良く判っていない、けれど。
その”術者”が体調を崩しているという事実。清藍は慌てた。今頃になって焦って一度、車から出て周囲を警戒する。そんな清藍を尻目にあたりは平穏そのものだ。
何の気配もしない。新汰たちの気配すらも。
「結界……ね?」
――是。
水の神はいつも必要最低限のことしか教えてくれない。
強く意識を凝らしてみる。たっぷり数分間、長い時間をかけて。
「……駄目ね。まだ結界の場所までは……」
仕方なく車の中の女性を何とかしようと考えた。振り返り車内に横たわったままの女性に声を変えるが返事はない。
軽く揺さぶろうと手を掛けた瞬間、世界が一変した。
視点が切り替わり、ぐるぐると世界が揺れた。
反射的にぎゅっと閉じた目を開いた時にはもう、上空から見下ろすように空を飛んでいた。
「きゃーーー!!」
落ちる!!そう思った。ぎゅっとまた目を閉じて次に来る衝撃に備える。
衝撃はすぐには来なかった。
「……あれ?」
体を打ち付ける衝撃はまだ来ない。
「何してんの?」
傍らから声を掛けられやっと目を開けた。清藍は空中に静止している。
「え?うそっ」
慌てて周囲を見回す、清藍。きょろきょろと周囲を見回してやっと、自分がどこにいるか理解した。
「飛んでる……の?」
くすりと笑う声が聞こえた。
「あんた、こういう現象は初めて?」
次いで、声が降って来る。見上げると、清藍より少し高い位置に、先程の女性が立っていた。
「あなたは……」
「さっきはありがとね。助かっちゃった」
にっこりとほほ笑む。
「いえ、良かったです。元気になって」
「元気……元気ねぇ。そうでもないかも知れないけど……」
「え?」
「ううん、こっちのこと。それより来てくれてありがとう」
判らない理由で礼を言われた。首をかしげる清藍に、またくすりと女性が笑う。
「あた……私は彬華。あなたは?」
「清藍……です」
「せいらんちゃんか。かわいい名前ね。せいらん、せいらん……じゃあランちゃんって呼ぼうか」
「え、え、え?」
「私のことは彬華でもリンちゃんでも好きなように呼んで」
「じゃぁ、彬華さんで……」
「硬いなぁ。さんづけ好きじゃないのよね。いつもそんな感じで呼ばれてるし。あーあ、あたし友達少ないからなぁ。やっぱこんな人間じゃ友達になりたくないよねぇ」
「そんなことありません!!!」
急に大声を出す清藍に、びっくりした顔になる彬華。たっぷり30秒も顔を見合わせてから、二人はどちらともなく笑いだした。
「じゃあ、あたしの名前もさんなしで呼んでよ」
「じゃ、じゃあ彬華ちゃん」
「硬いなぁ、まあいいや。次はもっといい呼び方考えておいてね」