83.吉良の暴走④
あれ?登場する人が足りないままに戦闘が……終わってしまっただと?!
清藍間に合わなかったぞwwww君はまだバスの中か??
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ちなみに貫胴は相手の攻撃を避けて胴を打つ剣道の技の一つです。
面貫胴→面を避けて銅を打つみたいに表記することもあるそうです。
筆者は剣道5級です(笑)(10/11加筆)
握った掌に幹の表面のざらざらとした感触にを感じながら、後で掌が酷いことになってしまうだろうかと苦笑いした。
「木の御神よ、私に力を……」
呟くと左手の人差し指と中指を立てて宙に小さく五芒星を描いた。一拍遅れて右腕に浮かんだ刺青の様な紋様に熱が灯るのを感じる。紋様の色は茶褐色。恵みをもたらす土の色だ。
新汰は前方を見据えた。特殊警棒を手に吉良に肉薄している正樹が見える。
正樹に懐まで潜り込まれ吉良が防戦一方に追い込まれている。しかし、隙を縫って襲い掛かって来る氷刃で、正樹の体にはあちこちに切り傷ができているのが判った。
空手を嗜んでいる正樹の格闘技術ならば、本気を出せば既に片が付いているかも知れないが、相手を傷つけられない正樹の優しさが災いしていた。
優しい正樹の姿を見て、新汰の中で何かがカチリと音を立てて外れた。
新汰の足元に風もないのに落ち葉が舞い込んで来る。まるで新汰を慕って集まって来たかのようだ。その木の葉に命を下すように左腕を突き出した。
木の葉は数瞬の間、新汰の周囲を舞っていたが吸い込まれるように吉良へ目掛けて飛んでいく。
質量を感じさせない物体の飛来に、気づくのが遅れた吉良の顔の周囲にいくつもの木の葉が舞い、吉良の注意を奪っていく。
「?!」
急に悪くなった視界に、戸惑いの声を上げる吉良へ、隙を見逃さず正樹が飛び込んでくる。正樹は左に跳んで、警棒を振り下ろす。
がつんっ!っと鈍い衝撃が吉良の左腕を打った。
「ぐっ!」
左腕の前に氷盾は現れなかった。代わりに吉良の視界を奪っていた木の葉は、全て地に叩き落されている。
吉良は苦悶の声を上げながらも右手の中に氷の刃を出現させ、それを握り込んで正樹に切りかかった。が、ふわりと軽いステップで正樹がそれを避ける。
その見た目から想像付かない程の身軽な動きは風の加護のせいだろう。しかし、正樹が後ろに跳んだことにより、吉良に術を紡ぐ隙を与えてしまった。
とっさに新汰は木の葉を操り、正樹に降り注ぐ氷刃を撃ち落とした。そのまま、吉良の右後ろから切りかかる。足さばきは剣道のそれ。狙いは胴。
「?!」
新汰の妨害を予想していなかったわけではないだろうが、接近戦を仕掛けてくるとは思っていなかった様だ。吉良は寸でのところで新汰の薙ぎ払いを避けて後方に跳んだ。
「遠距離攻撃……しかできない……訳じゃなかったんだ……」
流石の吉良も先程からの戦闘で息が上がっていた。新汰は無言で木片を構えた。木刀を持っているかの様に正眼に構える。
眼鏡の奥の瞳がいつになく厳しい。普段は笑顔を絶やさない新汰とは別人のような瞳だった。
ふっと、鋭く息を吐き見事な足さばきで、正樹と同じかそれ以上の速度で吉良に迫り、面打ちの動作から貫胴を払った。
「うがっ!」
手応えは堅かった。人の体を打った手応えではない。吉良の体に当たる瞬間に氷の盾が吉良を守ったようだが、それでも衝撃の全てを殺すことはできず、吉良は氷刃を取り落とし、その場に膝を付いた。
吉良が膝を折っても新汰は構えを解くことはしなかった。
斜め後ろでは正樹が荒く呼吸を繰り返し、成り行きを見守っていた。正樹も膝を折った吉良に追撃を加えるつもりはないらしい。
「戸上君……そろそろやめにしよう」
言ったのは正樹だった。理不尽な暴力で傷付けられたのは新汰より正樹であるのに、正樹は怒っていないのだろうか。新汰は思った。
「……もう少し行けると思ったんだけどなぁ」
荒い呼吸を繰り返しながら呟かれた声はいつもの吉良の声だった。
地面にどさりと座り込み足を投げたして吉良は上を向いて喘いだ。それから、どこか空中を見詰めて言った。
「治してあげて」
その場の三人が頷くような意志を感じる間もなく、ふわりと暖かい何かが三人を包み、彼らの体に刻み付けられた傷がみるみると治癒していく。
「……ありがとう」
数瞬の後、きれいさっぱり傷のなくなった自分の体を不思議そうにぺたぺた触りまくる正樹を見ながら、吉良は空中の誰かに向かって笑顔を向けた。
R03-10-11 一部訂正・加筆
R05-12-09 一部訂正